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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校一年生編

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12/197

見学の後




「は……はい?」


 聞き間違いかと思い聞き返すが、志波はすぐに仄香から目を逸らし、本部への連絡と犯人たちの捕縛に向けて動き始めた。

 今のは何だったのかとぽかんとしていると、後ろから突然首に腕を回され抱き締められる。


「やっぱさすがね、仄香!」


 達成感に満ち溢れているらしい咲だ。


「あんたが発砲した時鳥肌立ったわ。あの体勢から反撃できるなんて! ありがとう、助かった!」


 満面の笑顔で褒めてくれる咲の顔には擦り傷がある。けれどそれくらいで、大きな怪我は見られない。心底ほっとした。


(未来、変えられた……)


 気が抜けた途端、どっと疲れが襲ってきた。茜にもらったお守りがなければ仄香も死んでいただろう。今更ながらに恐ろしくなる。


 仄香が褒められているのが気に入らないのか、近くに立つ尚弥がちっと聞こえるように舌打ちを打ってくる。

 相変わらずな尚弥にムッとしたのは咲だった。


「仄香がいなかったら危なかったのよ? もしもあんたが四階じゃなくて五階にいたら、やられてたのはあんたかもしれない」

「んなわけあるかよ」

「あのねぇ、あんたは信じてないかもしんないけど、未来視ってそういうもんなの! 未来を視る異能よ? 分かる? これからは仄香の言うことは素直に聞きなさい。変なプライド出して死んだら元も子もないでしょ」


 まるで子を叱る母のように説教をする咲に、尚弥は心底鬱陶しそうな顔をした。そして、ぼろぼろの状態の仄香に視線を移す。


「助けられたなんて思ってねぇからな」


 吐き捨てるように言われたそれは、感謝ではなく否定だった。


 ポケットに手を突っ込んだまま志波の方へ歩き出す尚弥の背中を見ながら、少しだけほっとする。

 嫌な奴ではあるが、一応は幼馴染みなのだ。死なれたら後味が悪い。……救えて良かった。


「あいつ、他者を認めるってことができないのかしら?」


 咲は呆れ顔をしながら言う。

 そして、ふと思い出したように仄香を見下ろして聞いてくる。


「ていうか、そういえば、さっき志波さんに何言われてたの?」

「い、いや、何も……?」


 仄香は目を泳がせながら誤魔化した。

 恍惚とした表情で不穏なことを言われたというのは黙っておこう。志波に変なイメージが付いてしまうかもしれない。



 犯人たちの引き渡しと現場報告に付き合った後、職場見学は終わりを迎えた。

 咲と仄香は異能力犯罪対策警察所属の治癒能力者に怪我の手当をしてもらい、瞬く間に顔や腕の傷跡は消えた。

 帰りの車の中で、仄香は余韻に浸る。


(志波先輩、かっこよかったなぁ……)


 今日も咲の図らいで助手席に座らせてもらえた。運転している志波の端正な横顔を見ながら、今日助けてもらった時のことを反芻する。

 仄香たちが苦戦していた相手を一瞬で制圧したあの強さは、五年前仄香を助けてくれた時の実力と同じ――いやそれ以上。


(やっぱり私、立派な異能力犯罪対策警察になって、志波先輩の隣に立ちたい)


 ――そのためには志波の未来も変えなければならない。仄香が彼の隣に立って仕事をするには、彼が改心し、いつまでも異能力犯罪対策警察に所属している必要がある。途中で犯罪者などになってしまったら仄香の夢も叶わないのだ。


 仄香は改めて、未来に立ち向かっていく覚悟をした。



 仄香たちを乗せた車が武塔峰の専用駐車場に到着する頃には、辺りは暗くなっていた。灯りが付いているのは学生寮と校舎の職員室のみだ。運転の礼を言って車から出ると、秋の虫の声が聞こえた。


「仄香」


 後ろから、志波が仄香を呼び止める。


「また連絡する」


 それだけ言って彼は窓を閉め、車を走らせていってしまった。


(……名前呼び?)


 以前はフルネーム呼びだったはずだ。そこにも違和感を覚えるが、それよりも、まるでまた連絡する機会があるような言い方が気になった。〝この度の見学実習以外で会うことは二度とない〟――そう言っていたのに、一体どういう心変わりだろうか。

 困惑する仄香の隣で、「何よ、いい感じじゃない」と咲がにやにや笑っていた。



 ◆


 職場見学の期間が終わり、翌日からは通常の授業が始まった。

 教室は朝から職場見学の話題で持ち切りで、自分たちのチームにはこんな優秀な人がいただとか、難解な事件の捜査に付き添っただとか、生徒たちは和気あいあいと自慢しあっている。


 プロと組んで請け負った任務の内容はチームによって様々なようだが、どのような形でも、職場見学がそれぞれの生徒のモチベーションを上げるのに役立ったのは確かなようだった。

 仄香も誰かに志波と組んだことを自慢したいところだったが、クラス内に友達がいないため、隅の席で勉強しているふりをしながら黙って聞いていた。


「尚弥はどーなんだよ? お前あの一迅咲さんと一緒だったんだろ」

「マジ? 成績トップ層が同じチームだったのかよ……戦力凄そうだな」

「つーか、じゃあもう一人って誰?」


 ぎくりとした。仄香は尚弥とよくつるんでいる、派手なギャル男たちが苦手だ。そんな彼らに話題に出されそうになっているだけで教室から飛び出したくなる。


 馬鹿にされるに決まっている。成績優秀者の咲や尚弥と同じチームだったのが、最近まで無能力だった自分だなんて。

 何を言われるだろうと怯えながら俯いていると、尚弥が意外な返事をした。


「うるせぇな。関係ねぇだろ」


 苛立っているような冷たい声だ。

 しんと教室内が静まり返る。クラスカーストというもので表現すれば、尚弥は間違いなくその最上位、クラスの王様のような存在である。そんな尚弥の不機嫌はクラスにとっても一大事らしく、皆尚弥の様子をちらちらと窺っている。


「…………な、何だよぉ~! 今日の尚弥ピキってんじゃん? ごめんて。この話やめよー。つか次の授業の宿題やったべ?」


 尚弥の隣のチャラ男が空気を読んで話題を変える。すると他の生徒たちも次の授業である異能力関連研究学の宿題や試験範囲のことに話題を移し、クラス内は騒がしさを取り戻していった。


(余程、私に助けられたみたいな形になったのが不快だったのかな……)


 尚弥はプライドが高い。格下として扱っている仄香が任務の役に立ったのが気に入らないのだろう。昨日からずっとあの調子だ。



 チャイムが鳴り、教室に異能力関連研究学の担当教諭が入ってきた。仄香と同じように分厚いメガネをかけた、年配の物腰柔らかな先生だ。


「皆さん、職場見学お疲れ様でした。直接現場を見ることによって自分たちが目指している職業の過酷さや困難さを感じたことでしょう。異能力犯罪対策課は、異能力の扱いだけでなく、他の警察官や現場の職員との連携やコミュニケーション能力、咄嗟の判断力など、様々なものを求められる仕事です。しかしだからこそやりがいのある仕事でもあります。皆さんにとって有意義な見学であったことを祈っています」


 そこまで言って、先生は空中に授業用の画面を映す。画面には大きく、〝研究室配属についての案内〟と書かれていた。


「そこでです。多職種連携の大切さというのを身をもって知ったであろう皆さんに、今週から来週にかけては研究室配属に向けて動いてもらいます」




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