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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校二年生編

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新学期





『武塔峰異能力高校異能力科の二年生、佐藤 華さん十六歳が先月三十一日頃から行方不明。警察は捜索を続けていますが、未だに手がかりは見つかっていません。彼女のルームメイトは一週間前から寮に帰ってきていなかったと証言しており――』


 尚弥の彼女が行方不明になったというニュースは、他に大きなニュースがなかったこともあり、新聞の一面に大きく載った。未来ある異能力科の生徒が行方不明。警察は無能力者主義団体の関与も疑いつつ捜索を続けているらしい。


「あの子、まだ行方不明なんだって」

「私、春休み前に一回喋ったよ。その時は普通だったのに……」


 行方不明と発覚して二週間経つが、学校中は尚弥の彼女の話題でもちきりだった。

 警察が来ていたのは最初の数日で、今はマスコミが寮の前まで張り込んで生徒達から情報収集している。その度に学校の事務員が注意しているようだが、記者の学校敷地内への侵入が収まることはない。


「尚弥くんも可哀想。あんなに仲良かった彼女が……」

「自殺なんじゃない? 行方不明になる前からリスカとかオーバードースしてたし……」

「まぁ、ちょっと病み系の子ではあったよね」


 二年生に上がってクラス替えがあり、尚弥や尚弥のグループの怖い生徒達とはほとんど別のクラスになった。

 これまで自分をいじめてきた生徒達はもういない。心機一転、同じクラス内に新たな友達を作るチャンスでもある――しかし、とてもそんな気分にはなれなかった。


 いつ足がつくのだろう、という不安ばかりが仄香の頭を埋め尽くしている。

 授業中もぼんやりしてしまって内容が頭に入ってこない。春休み明けの課題テストも、課題にはきちんと取り組んでいたはずなのに結果は散々だった。このままでは推薦を受けられない。焦燥感が仄香を襲う。


(……私、何のために異能力警察になりたいんだっけ。何で頑張ってたんだっけ)


 四時間目の授業が終わってもなかなか動けず、ほとんど取れなかったノートに視線を落とす。


(何で――志波先輩が好きなんだっけ)


 仄香はずっと、志波の隣に立ちたかった。けれどそんな未来はもう来ないかもしれない。いや、来たとしても仄香自身が、志波が殺人を犯したという事実を知ったうえで清々しい気持ちで警察として隣に立てるほど図太くない。


 夜を明かすごとに志波高秋が好きであるという気持ちが揺らいでいる。

 仄香が好きだったのは、女子生徒を躊躇いもなく殺すような人ではなかったからだ。

 仄香の中の彼は幻想だった。仄香は結局、長年幻想に恋をしていたのかもしれない。


「ねぇ、紫雨華さんいる?」


 名字を呼ばれて顔を上げる。

 二組の教室に背の高い三人の女子が入ってきた。全員他クラスだが見たことがある。尚弥の彼女とたまに一緒にいた女生徒たちだ。


「あ、ほんとに紫の目なんだ~」

「ちょっと来てくんない? 聞きたいことあんだけど」


 そのきつい口調と目付きに、何を言われるのか大方予想が付いた。

 仄香は黙ったまま席から立ち上がり、彼女たちに導かれるまま校舎裏に付いていく。


「華がいない件なんだけどさぁ、お前のせいなんじゃねーの」

「華、いなくなる前からずっと泣いてたんだよね。お前と尚弥くんの仲が良すぎるって。過食嘔吐も酷くなってたし。ウチらほんと心配で。華が自殺とかしてたらどうしてくれるわけ? あの子ただでさえメンタル不安定なのに」

「いくら幼馴染みって言ってもさ、ちょっとは考えなかったの? 距離感とか。尚弥くん彼女持ちなんだしさ。知らなかったわけじゃないんでしょ?」


 女子とは思えない口の悪さで捲し立ててくる三人に、言い返す言葉もない。

 先に殺そうとしてきたのは向こうであるという言い訳がましい気持ちもないわけではないが、そんなことを言えば彼女と接触していたことがバレて墓穴を掘る。


「――――華が自殺してたら、お前が華のこと殺したってことだからね」


 その通りだ。

 本当は気付いていた。尚弥の彼女が尚弥と合流する時、同じ教室の仄香を毎度睨み付けていたこと。尚弥の彼女に尚弥の部屋にいるところを見られた時も、きっと彼女は自分をよく思っていないだろうと察していた。

 彼女が嫉妬深いことは噂で聞いていたし、尚弥の周囲の彼女への評価は〝可愛いけどメンヘラ〟だったから。ずっと前から。


 けれど正直、仄香にとって尚弥の彼女は心底どうでもいい些末な存在だった。


 だから敵意に気付いていてわざと無視した。自分の存在が起因して尚弥と尚弥の彼女が別れてしまえばそれはそれで好都合だと思っていた。

 茜以外の女が尚弥の隣に立つのは許せないし、どうせ尚弥も本気じゃないと知っていたから。


「おい、何か言えよ」

「華のお母さん泣いてたんだからね」


 ――死んだあの子にも家族がいる。志波の庭で揺れていた火葬車を思い出し、途端に吐き気がこみ上げてきて、仄香は口を手で押さえて走り出した。


「あっ……おい!」

「話終わってないんだけど!?」


 後ろの女生徒たちを無視して走り続ける。


 しばらく食事を取っていないせいで吐いても何も出てこない。

 志波が尚弥を殺したあの日から、それを隠蔽すると決めたあの日から、仄香は罪悪感とプレッシャーで押し潰されそうだった。




 その数日後、伊緒坂夏菜子が海外で死んだという知らせがあった。


 未来の自分が誰の生存よりも優先して守れと言っていた人物が死んだ。

 その事実は精神的に追い詰められていた仄香に、さらに追い打ちをかけることになった。




 ◆



「仄香、あんた最近大丈夫?」


 仄香の異変に誰よりも早く気付いたのはルームメイトの咲だった。


「……何が?」

「何がじゃないわよ。最近休日ずっと布団の中にいない? お風呂は入ってるの?」

「ああ……そろそろ入らなきゃ……」


 仄香がもぞもぞと布団の中から動き出したのは日曜の夜。金曜の夜から入浴していない。ぼんやりしているうちに週末が過ぎてしまった。明日の単語テストのための準備もする必要がある。


(もう六月か……)


 部屋の壁に貼られたカレンダーを見て思う。


 外へ視線だけを向ければ、雨粒が窓を叩き付けていた。

 一日中憂鬱な気持ちになるのは最近ずっと雨続きだからかもしれない。


「……仄香、あんたやっぱり変よ。学校ある日もお昼食べてないし、ジムも解約したんでしょ?」

「……お金がないから」


 か細い声で答えて部屋を出ていく。

 ドアを閉じる最後まで、背中に咲の視線を感じた。




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