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後編 モレルの町のBn結界

 ドバァ──。


 手をかざしたグラスから水が(あふ)れる。



 ここはモレルの町の冒険者ギルド。


 そこへブリッツたちに連れられたボクは、『水洗の間(ウォッシュルーム)』でスキルについての詳しい鑑定を受けていた。


 その鑑定法ってのが、このグラスいっぱいの水の様子を見て判断する『水洗式ウォッシュフォーミュラ』ってものらしい。


「これは強化系……しかも、こんなに大量に溢れるだなんて! こんなの千年に一人の逸材じゃないの!」


 ギルドの鑑定士、めがねを掛けたお姉さんが驚きの声を上げる。


「そんなに凄いんですか?」


「凄いわよ! 普通なら、せいぜい数滴あふれる程度のものなのに……。それをこんなに……って、ちょっと待って……その水、色が変色してない……?」


「そういえば茶色くなってますね」


「それにこの匂い……?」


「あぁ、たしかにちょっと匂いますね」


「となると……。うぅ……本能的に体が拒絶してるんだけど、一応確かめなきゃ……仕事だし……逸材だし……うぅ……」


 お姉さんは、おそるおそる水を指ですくってぺろりと舐める。


「うぅ~! ぺっぺっ! 不味(まず)っ! でもこれで決定! あなたは強化系の他に放出系、変化系の才能もあるってことよ! しかも、ものすご~くね!」


「はぁ、そうなんですか」


「そうなんですかじゃないわよ! これはとんでもないことなのよ! このギルド始まって以来の超逸材だわ! あぁ、うちで鑑定してくれてありがとね!」


 ボクの手を握ってブンブンと振り回すお姉さん。


 なにげにうんち水を触った手で握ってくるのやめてほしい。


 あと、早めにうがいした方がいいですよ、たぶん。


 そんなお姉さんに、ブリッツたちが声をかける。


「この葉っぱがぐるぐるすごいスピードで回ってるのは?」

「っていうか葉っぱから木が生えてきてない?」

「わ、わっ! コップの中にうんちっぽいのが出現してるよ!」


 あらら、なんかもうめちゃくちゃだな。


 そう思ってお姉さんの方を見ると。


「アハ……アハハ……! 葉っぱが動くのは操作系……! 葉っぱが育つのは特質系……! 物体を出現させるのは具現化系……! しかも、そのどれもが達人級の(いき)だなんて……そんな……そんなの……」


 ぺったん。


 お姉さん、腰を抜かしてへたり込んじゃいました。


「うおお、やっぱすげえじゃねぇか! プゥープは!」

「六系統全部に適応ってマジかよ!」

「あのうんち本物なのかなぁ……気になるなぁ……」


 三人からそんな手厚い祝福(若干(じゃっかん)一名様子がおかしい)を受けていると。



 ドバーン!



 と、部屋の扉が開けられた。


「ここにブリボア村でゴブリンの集団を一人で片付けた強者(つわもの)がいると聞いた! たしかか!」


 白銀(はくぎん)の鎧を身に着けた女の人。

 上品そうな金髪ポニーテール。


 うわぁ、都会にはこんな高貴な感じの人がいるんだなぁ。


 そう思っていると。


「ん? なんだこの部屋、やけに(にお)うが……。それに、この散乱(さんらん)っぷり。施設(しせつ)はきれいに使えといつも言っているだろうが!」


「は、はい……すみませんギルド長!」


 どうやら、この綺麗な女の人はギルド長らしい。


 すごいなぁ、都会は。

 冒険者ギルドですら、こんな垢抜(あかぬ)けた人がギルド長なんだ。


 一瞬、ギルド長と目が合う。


 フンッ。


 小馬鹿にしたように鼻で笑われる。


 ひぇ……都会の人はおっかないなぁ。

 はいはい、どうもすみませんね、こんな田舎っぺが都会に来てて。


 「で、なんなんだ、この木は。それにこんなにビシャビシャで……って、これ……うん……? うんk……」


 あ、すみません、それはボクが具現化してしまったらしい「うんち」なんです。


 な~んて垢抜けた美人ギルド長さんに言えるはずもなく。


「……」


 気まずい沈黙が部屋に流れる。


「うっ……!」


 突如、ギルド長がお腹を押さえてうずくまる。


「大丈夫ですか?」


 思わず駆け寄る。


「くっ……大丈夫だ!」


「大丈夫そうに見えないから心配してるんですが」


「……んこだ」


「え?」


()られうんこだ! 私は昔からお腹が弱いんだ! そのせいで! そのせいで王都でも謀略(ぼうりゃく)()められて……! クソ、それでこんな冴えない町に左遷(させん)させられるなんて……! ああ、もうどうでもいい、こんな人生! 今すぐここで全部ぶちまけて終わりにしてやろうか! そうだな、そうすればこのギルドも一生クソ漏らしギルドとして語り継がれることだろう! こんなパッとしない町のギルドにはお似合いだ! ハハ……ハハハ……! うぅ……お腹が……」


 な、なんなんだ、この人……。


 とりあえず、ここで漏らされちゃボクもイヤだからっと……。


「ちょっと失礼しますよ」


 ギルド長さんのお腹を触る。

 直接触ったほうがスキルの効きがいいからね。


「な……貴様なにを……! 一体私を誰だと思って……うぅ……!」


「はいはい、すぐ済むから安静(あんせい)にしててくださいね」


 体から出ようと下に降りてきてたうんちを上に戻し、ついでに液体気味だったのも固くしておく。


 うん、これでしばらくは大丈夫だろう。


「はい、終わりましたよ」


「人が苦しんでる時に体を(まさぐ)るなど……って、は?」


「もう大丈夫でしょう? お腹」


「──ハッ! たしかに……! 貴様、一体何をした!?」


 う~ん、治してもらったお礼をするよりも、先に質問を投げかけてくるのかぁ。

 この人、美人で垢抜けてるけど、ちょっと人格的に問題があるなぁ。


 そうだ、さっき『水洗式ウォッシュフォーミュラ』で判明した具現化……っての、試してみようかな。


 たしか、なにもないところにうんちを作り出すと具現化。

 そんな感じだったはず。


 ブリボア村のゼンダマキーンさんの便槽(べんそう)を頭に思い浮かべる。


 すると、自然と言葉が浮かんできた。



 【糞便模写(うりふたつのげんじつ)



 ボクの(かか)げた両手の前に、一欠片(ひとかけら)のうんちがどこからともなく出現する。


 出来た……!


 で、これを……。


 シュッ!


 うんちを操作して、ギルド長のお尻に特攻させる。


「ぐっ……!」


 なんらかの違和感を感じ取ったギルド長のうめき声。


「ハッ……! これは、申し訳ない。先に礼を言うべきだったな。私の腹痛を治していただいて感謝する」


 うん、どうやら移植成功。

 ギルド長も性格が改善したらしい。

 それにしてもすごいな、ゼンダマキーンさんのうんち。


「私の名前はヘオリア・モワットスパーク。騎士……いや、元騎士と言うべきか。今は、このモレルの町で冒険者ギルドの(おさ)をやっている。もしかしてキミが──」


「はい、プゥープ・ブラウン。ブリボア村で、まぁ、えっと、一応倒しました、ゴブリン、はい」


「おお、そうか! ひと目見た時からただ者ではないと思っていたよ!」


 ほんとにぃ?

 結構鼻で笑われてたような気がするけど。


「では、強者(つわもの)プゥープ・ブラウンと、その仲間たちよ! そなたたちに依頼を申し付ける!」


「ギルド長……お言葉ですが、それはちょっと早すぎでは……彼は、まだ水洗式ウォッシュフォーミュラも終わったばかりで、訓練の方も……」


「ふむ……」


 部屋の中をザッと見渡したギルド長ヘオリアさんが、キビキビとボクに言う。


「具現化!」


 とっさに体が反応する。



 【普遍存在(いつでもそばに)



 普通のうんちが目の前に具現化された。


「変化!」



 【液状変化(ペースト・ファミリア)



 具現化されたうんちがドロドロになる。


「強化!」



 【絶対固形だれもオレをくずせねぇ



 ドロドロのうんちがカチカチになる。


「放出!」



 【一点糞射(リボルブ・スナイプ)



 ドガァ──!


 うんちからうんちが放出され、壁を穿(うが)つ。


「操作!」



 【高速固形(スピード・レーサー)



 うんちがビュンビュンと宙を飛び回る。


「特質!」



 【糞塵爆発(ダストバースト)



 バァン──!


 派手な音を立てて、うんちが粉々に弾け飛んだ。


「うむ。で、訓練の必要がなんだって?」


「ひ、必要ない……です」


 鑑定士のお姉さんが、再び腰を抜かしてへなへなと座り込む。


 う~ん、この部屋の状況だけを見て、ボクが六系統とやらを使えるのを見抜いたのか……。


 ボクも思わず釣られて色んなスキルをとっさに発動しちゃったし。


 もしかして、このヘオリアってギルド長……なかなかやり手だったりする?


「よし、では仕事の話をしようか、プゥープ・ブラウンくん」


 ギルド長ヘオリア・モワットスパークは、満足げな顔でそう言った。



Bn(ビーエヌ)結界』


 それが魔物によってモレルの町の近くに設置されたらしい。


 近づくと、お腹が壊れる結界。


 その影響範囲は日に日に増しているそうで、とうとうこのモレルの町にも影響を(およ)ぼし始めたのだそうだ。


 で、その結界を壊してほしいというのが今回の依頼。


「でも、なんでボクたちに? 冒険者ギルドでしょ? もっと優秀な人達がいるんじゃ……」


「いや、キミたちが最適だと私は思っている」


「なぜ?」


「うむ、まずキミの能力だな。私の便意を一瞬で(おさ)めただろう? あんな真似は回復士(ヒーラー)にすら出来ない。そして、この結界には近づけば近づくほど便意が激しくなるんだ。討伐に向かったうちのトップランカーたちも、すでに……クソっ!」


「なるほど。でも、ボクたちってパーティーとかじゃないですよ。幼馴染ではあるんですけど。そんな即席(そくせき)で向かっても大丈夫ですか? そもそも、ボクはまだちゃんと冒険者登録もしてませんし」


「それなら問題ない!」


 ヘオリアさんが胸を張る。


「まず、パーティーには私も参加する! よって私の指示に従っていれば連携は問題ないだろう! そして、キミの登録はもう済ませておいた!」


「えぇ……そんな勝手に……。あ、ちなみになんですけど、ボクの職業……って(なに)で登録されてるんですか? ちょっと『うんちを動かすスキル』でどんな職業になれるのか想像がつかないんですが……」


「うむ、それは!」


「それは?」


「それはっ!」


 妙にもったいぶるヘオリアさん。


 も、もしかして、勇者、とか……?


 いやいや、さすがにそれは調子乗り過ぎか、アハハハ……。


「ゆ……」


 え?


 ゆ……?


「ゆう……」


 ゆう……?


 ま、まさか……!


勇便者(ゆうべんしゃ)だ!」


「なんなんですか、それぇ!」


「わからん! なんとなく思いついた!」


「思いつきで変な職業作り上げないでくださいよ!」


「変、大いに結構! 世界にひとつだけの職業だ! 胸を張るがいい、プゥープ・ブラウン!」


 だ、だめだ……話が通用しそうにない……。


 でも。


 なれた──のか。


 ボクは、本当の冒険者に。


 自称冒険者でも。


 死体漁りでもなく。


『冒険者』に。


 そして。


 これから始まるんだ。


 冒険者プゥープ・ブラウンとしての──ボクの新しい人生が!

 最後まで読んでくださってありがとうございます!

 もし面白い、続きが読みたい(あるのかな?)と思った方は☆☆☆☆☆や「いいね!」を入れていただけると嬉しいです!

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