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「なあこれ、、嬢ちゃんの事じゃないか?」


朝ひさしぶりに幸せな気持ちで目覚めたが、ケビンさんの一言で一気に青ざめた。

これだよ、とケビンさんが持っている新聞を見せてもらうと、あろうことか一面に私の姿が描かれている。


「初めはあまりにも違いすぎたから読み飛ばしていたけど、そういえば馬車に乗っていたときの嬢ちゃんはこんな顔だったと思い出したんだ」


新聞に乗っている姿絵は伯爵家仕様の私の姿だった。今の私を見ても誰も気づかないだろう。マシェリ伯爵家が私を探している。大々的に捜索願いが出されているところを見ると、叔父も収入源をなくして必死なのだろう。

エステベル公爵家の名前はどこにも書かれていない。そのことに少しさびしさも覚えるが、彼は解放されたのだと安堵する気持ちもある。


だがそこが問題ではない。

──ケビンさんたちに知られてしまった。


「なんだい?」


アネッサさんも朝食の支度を終え私達の元にやってくる。


「その、、説明していなくてすみません。きっと捜索隊がこの辺りにも来るでしょう。ご迷惑をかけるわけには行かないのでここを離れようと思います。……短い間でしたが本当にお世話になりました」


彼女たちには返しても返しきれない恩が沢山できた。これ以上は迷惑をかけることは出来ない、とすぐに家を出ようとしたときだ。

ちょっとまちな、とアネッサさんに呼び止められる。


「誰も迷惑だなんて思っちゃいないよ。そりゃあんたが予想以上に高位なお貴族様だってことにはびっくりしたが、、あんたが今困っているのには変わりないだろ? 事情は詳しくは知らないが、あんたの体を見てりゃ伯爵家に戻そうなんざ一ミリも思わないね」


アネッサさんの言葉に涙が溢れそうになる。私は、、最期にいい人達に巡り会えて幸せだ。


「しかしここまで探しに来るか? 辺境の地まで嬢ちゃんが逃げているとは考えないんじゃないか?」


「何を言ってるのさ、ケビン。こんなに大々的に報じられてんだよ? それに警戒しとくにこしたことはない」


あの叔父だ。何をするか分からない。

きっとマシェリ家が私用している騎士団が一つ一つの家を訪ね歩くくらいはするだろう。


「今外に出るのは得策じゃないね。もし伯爵家関連が家に来たとしたら、、イーリアスはタンスの中に隠れてな。貴族のお嬢様にそんなことさせるのは申し訳ないが、、」


「いえ、大丈夫です。それに私は貴族といってもあまり貴族らしい生活はしていませんし。ご迷惑をかけてしまって本当にすみません」



ガヤガヤと外が騒がしくなる。アネッサさんが窓から外の様子を見て見ると、慌てたように私を二階のタンスへと押し入れた。


「いきなりですまないね。どうやらもう来ているようだ。見た感じ家の中には入ったりはしていないが、、一人ひとり話は聞いているらしい。お前の持ち物と一緒に隠れていてくれ。ケビン!! ボロ出すんじゃないよ!」


そう叫びながらアネッサさんは下へ降りていく。どくどくと心臓がうるさい。ここで私が見つかればどうなるのか。アネッサさん達は貴族を騙した罪でただではいられない。そう考えると猛烈に後悔が押し寄せてきた。迷惑をかけるんじゃなかった。

どうか無事何事もなく終わりますようにと、願いながらじっと物音ひとつたてずに縮まる。




何分たっただろう。私には何時間とまで思われた。

がたんと押し入れが開く音がする。


「……もう大丈夫だ。軽く話を聞かれただけだったよ。暗いところに閉じ込めて悪かったね。さ、もう出ておいで」


あまりの安堵感に思わず涙が溢れてしまう。まだまだ気は抜けないがひとまずひと難は去ったように思えた。

わんわんと泣く私を優しく撫でながらアネッサさんは私を抱きしめてくれた。

まだ出会ってあまり時間は経っていないが、アネッサさんやケビンさんの優しさには本当に助けられた。何かお礼をしたいが、、私は何も持っていないため何も出来ない。せめて私のつけていた装飾品は受け取ってくれるだろうか。



◇◇◇


その後もアネッサさんとケビンさんは私に色々なことを教えてくれた。庶民の中でのお金の価値、人との交渉の仕方、食べられる薬草や樹の実、キノコなど生きていくうえでは欠かせない知識ばかりだった。


私のつけていた装飾品の価値も知った。庶民のお金の価値を知ればケビンさんがあんなにもたじろいだ意味がわかる。けれどももう私には必要ないため受け取って欲しいとお願いすると、イヤリングだけ貰っておくと言われた。ここまで言われるともう押し付けは出来ない。

他の装飾品は作ってもらったバッグに入れた。ドレスはひと目で貴族のだとわかってしまうため、小さくきり布切れにしてもらいアネッサさんや近所の方に使ってもらうことにした。どうせ使い道のなかったものだから良かったと思う。


アネッサさんに頼まれて井戸で水をくんでいるときだった。

唐突に胸が突き刺すように痛みだす。からんと桶が倒れる音がした。そうだ、毎日が楽しくて気づかないふりをしていたんだ。


呪いによる死が私の喉元まで迫っていた。


そういえば何も主人公情報などを書いていなかった……。

自分の中のイーリアス像などはもうできているかもしれませんが一応


イーリアス・マシェリ

茶髪、碧眼

幼い顔立ちで実年齢より下に見られがち。

マシェリ伯爵とエステベル伯爵の仲が良かったため幼い頃からよくマテウスと遊んでいた。


マテウス・エステベル

藍色の髪、紅の瞳

この地域では珍しい魔力持ち。

幼い頃からイーリアスを溺愛しているが結構不器用。


クリスティナ・ラミレス

アイボリーの髪、水色の瞳

マテウスの長馴染み。(領地が近かった)

ある意味世渡り上手。

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