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2 恩人

ふと目を覚ますとあたりは暗くなりかけていた。ということは3時間くらい眠っていただろうか。



「あの、すみません。ここはどこでしょうか」


御者に尋ねる。まあ正直どこでもいいのだが、今自分がどれくらいエステベル公爵家から、マシェリ伯爵家から離れているのか知りたかった。


「ん? 嬢ちゃん、寝過ごしたのかい? 今は隣国、ベリツェリアの国境前だよ。もうそろそろ終点だから嬢ちゃんも降りてもらわねえとな」


もうそんなところまで来ていたのか。

ガタンッと大きな揺れがしたかと思うと馬車が止まる。


初めて乗合馬車というものに乗ったからか、長時間座り続けていたためか腰に痛みを感じた。ググッと腕を上げ体を伸ばす。


「あの、ありがとうございました。お代なのですがその……硬貨の持ち合わせがなくて、このネックレスで足りるでしょうか。もし足りなければ私のつけているイヤリングと髪飾り、ドレス等で補うのですが、、」


思いの外長く乗ってしまっていたため、どれくらい値段が必要なのか分からない。硬貨を持っていなくて馬車に乗ったのかと怒られるかもしれないと思い、そろそろと御者の方を見た。

すると驚きすぎて固まってしまっている御者と目が合う。


「嬢ちゃん、、これは気軽に売っていいもんじゃないぞ。どこの庶民がこんな高級品をもってるかい。このネックレスだけで家が買える。いくらなんでもこれは貰えねえ」


「でも……お金は持っていないので受け取っていただかないと、」


足りないならまだしも多すぎるというのならば何の問題もない。受け取ってもらおうと交渉したが、御者もなかなか折れない。どうしたものかと考えていると、後ろからよく通る女の人の声が響いた。


「お嬢ちゃん。一回そのネックレスはしまいな。見たところどうやら訳アリのようだし……もう日も暮れるが今日泊まるところは決めているのかい?」


いきなり声をかけられたことに驚き後ろを振り返ると、三十後半くらいの女の人が腰に手を当てながら私に問いかけていた。この人は私と最後まで乗合馬車に乗っていた人だ。


「泊まるところは……これから考えます」


ノープランで来ているためこの近くに宿があるのかすらも分からないが、まあなんとかなるだろう。もしなければ野獣達が近寄ってこない樹の下で一晩を明かそうと考えていた。


「ケビン、ほら、モタモタしないで私達を家に連れて行く。お嬢ちゃん、今日泊まるところがまだ決まっていないようならうちにおいでよ。お嬢ちゃん1人が泊まるスペースならあるよ」


予想外の提案に目を丸くする。

騙されているのかとも一瞬思ったが、騙す人特有の胡散臭さはない。毎日その代表例みたいな人を目にしてきた自分が言うのだからきっと間違いない。


「……あの、いいのですか?」


「私が言い出したのにいいに決まっているだろう。私は目の前の女の子を見捨てるほど腐ってなんかいないさ。それにどうやらあまり世間慣れはしていなさそうだしね」


なんともまあ男らしい答えだ。私があと10くらい上だったら惚れてどこまでもついていっているだろう。

ど正論を投げつけられればもう断るすべはない。


お願いします、と深々と頭を下げ、二人とともにまた馬車へと乗り込んだ。




◇◇◇


どうやら女の人はアネッサというようで、ケビンさんと共に夫婦で乗合馬車を経営しているらしい。基本はケビンさんが運転しているのだが、長時間移動になることもしばしばあるそうなのでアネッサさんも馬車を動かすことができるそうだ。


「んー……。少し大きすぎるか。いやでもこれ以上小さいサイズはないし、、縫えばなんとかなるか」


そして現在、アネッサさん宅にお邪魔し、あろうことかドレスではなく、外に出てもあまり目立たないような服を繕ってくれている。


「よし、これでいこう。あとは、、髪だね。本当に切ってしまうのかい?」


「お願いします」


髪を伸ばしていたのはマテウス様の影響もあった。もういつかは思い出せないが長い髪の私が好きだと、その言葉がずっと忘れられずに今でも髪を伸ばし続けてきた。

でもこれもいい機会だ。今までに出来なかったことをやろうと決心したのだから。


バサッとハサミを入れられる度に私の髪が下へ落ちていく。わかってはいたものの、少し寂しい気持ちになった。


「さあ、出来たよ。短い髪も似合うじゃないか」


渡された鏡を見つめる。詰め物を外し、ドレスを脱ぎ、髪を短くした私はもはや別人であった。

ドレスを脱いだときに大量の詰め物が腕やお腹、胸など至る所から出てきたときはアネッサさんも驚きで口が塞がっていないようだった。

ドレスを脱いでしまった私はふた周りも小さくなったように見える。きっとあれは私の欲望の大きさでもあったのではないかと思えた。


「本当に何から何までありがとうございます。明日には出ていきますので、、」


「何を言ってるんだい! 目的や帰るところがあるならともかく今あんたを外に出しても野獣に食われるだけだよ。せめて明後日まではいなさい。お金の事も教えてあげるから」


私があまりにもお金のことを知らないため、わざわざ教えてくれるという。本当に、アネッサさんたちにはもうこれから一生足を向けて寝られない。


「ありがとう、ございます」


「あんたはまず食べなきゃね。なんでそんなにガリガリに痩せているかは知らないが、ここにいる間は嫌というほど食べさせるよ」


そう言い、アネッサさんは台所の方へと消えていった。

彼女たちといると昔の温かい家族を思い出す。望んでももう帰っては来ないものだが、とても幸せな気持ちになれた。



しかしそれは翌日崩れていった。

アネッサ夫妻は昔自分たちの娘を亡くしています。きっと生きていたらイーリアスくらいの年齢だったでしょう。イーリアスの髪色と自分の娘のが重なり、思わず声をかけてしまったのがアネッサです。


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