1 家出
お久しぶりです。新投稿です。
短くまとめようとしたためあまり内容の濃いものではありませんが、気軽に楽しんでいただけたらなと思います。
6話ほどで終わる予定ですのでどうぞ最後までお楽しみください。
「マテウス、あなたはもうそろそろ解放されても良い頃だと思うわ」
「何からのことをいっている」
「あなたの婚約者からよ。周りにも結構言われてるんでしょ? 10年も耐えたあなたは凄いわ。だからもういいんじゃない?」
「……ああ、そうだな。俺も10年間耐えてきたよ。もう、良いのかもしれないな」
そろそろ、終わりだろう。
マテウス・エステベルの私室から聞こえてきたマテウス様とクリスティナ様の会話を聞き、私、イーリアス・マシェリはそう決心した。
先日マテウス様の部屋へお邪魔した際に忘れ物をしてしまったのだが、この状況で入ろうとは誰も思わないだろう。
パタパタと廊下をかける。淑女としてはしたないことだというのは重々承知していた。けれども今止まってしまうと同時に自分の決心が揺らいでしまいそうだったため、走らずにはいられなかった。
私は呪い持ちだ。
幼い頃からの婚約者、マテウス様の母を殺した時に得た呪い。
仕方なかったとはいえ、幼いマテウス様には大きなダメージを与えたはずだ。それにそんな母を殺した女と婚約など、気絶するほど嫌であろう。それでもマテウス様は笑顔で私を迎えてくれた。
自分の母がなくなった悲しみはどれほどであっただろうか。私の想像を絶するほどだったに違いない。
そんなマテウス様ももう16。この婚約は私の勝手な都合も同然だ。マテウス様の意見なんてないも等しい。
だからこそ今回の件は本当に仕方がなかったと言える。むしろ私が聞いてしまってよかったくらいだ。
私の呪いはマテウス様の近くにいないと進行していくらしい。マテウス様の魔力がどこまで及ぶのかにもよるが、一切接触しないとなるならば、私の命は一週間が限界とのことだ。
まだこの呪いが何なのかも解明はされていないが、おそらくエステベル家のマテウス様が放つ特有の魔力が影響しているのだろうという結論に至った。
この呪いのことを知っているのは私と、幼い頃になくなってしまった私の両親、今マシェリ伯爵家の実権を握っている叔父、そしてマテウス様の父、エステベル公爵だけである。
そしてエステベル公爵は何故か私に酷く同情のようなものを抱いている。だからマテウス様と私の婚約を勧めたのであろう。まあそうでもしなかったら私の命は16まで持っていなかっただろうけど。
「これから……どうしようかしら」
わざわざマテウス様とクリスティナ様の恋を裂くようなそんなナンセンスなことはしたくない。むしろ喜ばしいことである。マテウス様は幼い頃から何かに縛られて生きているような節があったから、ちゃんと自分から私のことを”そろそろ良いのかも”と思えることができて本当によかった。
それにクリスティナ様は誰もが認める女性だ。容姿はもちろん、女性としても品や仕草など、女性の憧れと言っても過言ではない。
事実幼い頃から周りにも言われ続けていた。どうしてマテウス様の婚約者がクリスティナ様ではなく私なのか、と。幼い頃は罪悪感はあったものの、マテウス様への恋心がどうしても邪魔をして婚約破棄に乗り出せなかった。
それにマテウス様との婚約を破棄してしまうと気軽にマテウス様と会えなくなるため、呪いの進行で死んでしまうのが怖かった。
でも今は違う。私にはもう失うものなんてない。むしろ私がいなくなることで得るものはきっと多いはずだ。
マテウス様も、エステベル公爵も、私も、みんな解放される。
はあ、と小さなため息が出た。
どうしてはじめからそうしなかったのだろうか。
3年前に両親が死んで、叔父にマシェリ伯爵家の実権を奪われてから私は物のような生活を送ってきた。
エステベル公爵が出す私に対しての支援金目当てで私は生かされているが、きっとそれがなかったら病気か何か理由をつけて殺されていただろう。
叔父もうまいものだ。化粧や詰め物などで私の体調の悪さを誤魔化し、もし気づかれるような事があったらエステベル公爵に呪いのせいだと言い、さらにお金を貰う。
それに外見はいいため、誰もが叔父を信じる。一方で私はなかなかマテウス様の婚約を破棄しようとしない我が儘令嬢。誰がどちらの言う事を信じるかなんて一目瞭然だ。
私が昔よりもすんなりと現実を受け入れることができたのはたぶん、もう今の生活に疲れていたというのもあるだろう。
16年間もよくわからない呪いを持っていながらよく生きたものだ。
エステベル公爵家の敷地から外に出る。
エステベル家へ行くときだけは私は自由になる。予定ではこれからあと1時間はマシェリ家からの迎えは来ないだろう。ならばこの一時間をうまく使ってここから離れなければいけない。
少し歩くと大きな通りに出る。騒がしいほどに賑わっている様子を見て何だかこちらまで楽しくなってくるような気がした。
乗合馬車を見つけて乗り込む。出来るだけ遠くへ行ってもらおう。値段は、今つけているネックレスで足りるだろうか。
カタンカタンと揺られながら色々なことを考えてみた。
あのとき、何故マテウス様のお母様は私にあんな呪いをかけたのか。これならば必然的に私とマテウス様が一緒になる可能性が高くなる。
……考えても仕方がないか。結局私が考えたところで答えが出るわけでもない。
私がいなくなってまず気づくのは叔父だろう。焦る姿が目に浮かんだ。彼にとって私は貴重な収入源だ。それに今身につけているものも相当な値段がするものだ。……叔父には申し訳ないが、私の最期のために少し使わせて貰おう。
マテウス様は私がいなくなったとわかるとどうするだろう。一応婚約者だから探しに来るだろうか。それとも探すふりをしてそのまま死んだことにするだろうか。
優しい彼はきっと前者だろうな。何か置き手紙のようなものでも残しておけばよかった。あまりにも急な思いつきで急いでいたためすっかり忘れていた。
軽く目をつぶると眠気が襲ってきた。どうやら自分が思っていた以上に疲れていたようだ。馬車の揺れが心地よい。
その揺れに身を任せ、私は眠ってしまった。
最近こういう系の主人公が多い気がしますが、偶然書きたい系統が重なってしまったのが原因だろうと考えています。
短編で出そうとしましたが、どうしても字数が収まらず連載という形になってしまいました……。
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