隣の天才少年と、お馬鹿な私。
※なろうラジオ大賞4応募作品です。
※キーワード全部盛り!
【キーワード】
天才/缶コーヒー/えんぴつ/ランドセル/量子力学/星座/夏祭り/チェックメイト/ひまわり/おふだ/体育祭/ポーカーフェイス/屋根裏
隣の少年は天才。
初めて会った時はランドセルに背負われるくらいの体で『量子力学』という謎の学問の専門書を読んでいた。
ネットで噛み砕いた説明を読んでも、私にはイミフ。
当時中学生だったが、今もわかる気がしない。
「すごいね!」
「……別に」
彼はそっけなく、常にポーカーフェイス。
周囲は彼を遠巻きにしていたが、私は馬鹿だからあまり気にせず遊んだ。
IQが20離れてると話が噛み合わないらしい。私と彼の話もそう。教えてくれたチェスもすぐチェックメイトになる。
彼はなにが楽しかったのか不思議だが拒まなかった。
馬鹿な私の行った高校は派手な子ばかりだった。
皆それなりにいい子で楽しかったけど、ライトな恋愛や夜遊びは私に向いていなかった。正直、男の子も苦手だ。
無理強いをするような子はいなかったし、ハブられたりもなかったけど、話についていけなくて寂しいことはよくある。
誘われた夏祭り、門限がある私は一人で帰った。
夏祭りの神社で皆で買った『恋愛成就』のおふだを持って。
でも別に恋愛なんてしたくない。
体育祭の打ち上げも門限で帰ると言った私。
その時は、告白されて付き合った男の子に送られた。
その後たまたま廊下で聞いてしまったのは『簡単にヤラセてくれると思ったのに』という彼の愚痴。
それから避けていたら自然消滅した。
悲しいのはそう思われていたことじゃなくて、皆に合わせて好きでもない人と付き合ってしまったこと。
仲良い皆も裏では『つきあいが悪い』とか、きっとそういうことを話しているような気がすること。
ひまわり柄の浴衣はちょっと崩れていて、下駄の鼻緒が痛い。
「……なに泣きそうな顔してんの」
ようやくたどり着いた門の前でそう声を掛けたのは、隣の少年。
「なにしてるの?」
「星見てた」
「来なよ」と連れて行かれた彼の部屋。
屋根裏部屋にある斜めの窓を開けると、直ぐ、空。
設置されている小ぶりの望遠鏡を覗くと、星が輝いていて私ははしゃいだ。
それに彼はふっと笑う。
「さっきまで泣きそうな顔してたくせに」
「星座なんてよくわかんない」と言う私に、彼は望遠鏡に付けたカメラで写真を撮るとえんぴつで星と星を繋いで説明してくれた。
「引越しお疲れ」
そう言って缶コーヒーを寄越す。
彼こだわりの注文住宅には、屋根裏部屋。
私の旦那様はスパダリである。
「ねえ」
「ん?」
「いつから私のこと好きだったの?」
答えは教えてくれなかった。
でも、彼のポーカーフェイスは崩れていた。