2-1
大人気恋愛シミュレーションゲーム、『ドロシー』。
そのストーリーの大まかな粗筋は、突如つむじ風に攫われた少女が貴族専門学校に突如現れ、魔法たる勉学を研鑽しつつ、攻略対象をオトす……というものであった。
いきなり未知の異世界に現れた主人公、デフォルト名『リリィ・クローカス』は惑い戸惑いながらも魅力的なキャラクターに囲まれ、精神的に大きく成長していくというものである。
そんな中、妨害キャラとして悪役令嬢の役目を担っているのは、私のことを『お兄様』とハッキリと呼んだ存在、ディアナ・グラナディラであるのだが、プレイヤーである私には天地がひっくり返っても、そう呼ばれる資格はない。
お姉さまならまだしも……性別の異なる兄であることも意味不明で、まさか本当に天地がひっくり返ったのかしらんと思っているうちに、胸の中の焦りや焦燥など素知らぬ如く、ゲーム内で徹底したお邪魔っぷりを見せていたディアナ・グラナディラは私に微笑みかけながら親しげに近寄ってくるのであった。
「お兄様、先程からぼうっとなされてどうなされたのですか? まさか、守衛としてのお努めにお疲れが……?」
守衛というのは、この学園独自の設定だ。
一年から三年生の中で成績が優秀だったものが選ばれ、普通の生徒より上の立場を取ることが出来る。もっと分かり易く表現するならば、特待生というものであり、義務的に生都会への参加が強制的に決まっているものの、生徒に対してそれなりの権力と効力を持つ影響力のある特別な存在だ。
特待生の役割は各学年の生活指導と生徒会長の役割といったものであるが、通常の普遍的な凡庸たちからは特別視されるものである。或いは畏怖とも取れない態度を取られる各学年の代表者であるのだが、学園側にその苦労の労いか、特別待遇が許されている存在でもあった。
守衛は、一年生はグリフォン。二年はユニコーン。三年はドラゴンをモチーフとした腕章が義務付けられており、判別は容易い。まぁ……わざわざ腕を確認せずとも、特待生として特別視されている所為か、顔の方は学生たちに周知の事実である。
「来週から新学生が入学為さるものですよね。その準備のため、大変苦労なさっていることは承知ですが、少し身体を休めるのも必要なことだと思いますわよ」
ディアナ・グラナディラはそう云う。
その労わるような視線の先にあるのは、勿論、腕の腕章。
私は彼女の視線につられるように腕部を見ると、そこには三年生の特待生の印であるドラゴンをモチーフとした腕章が確かに存在していた。