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「喋喋喃喃に述べてミスターの言動と行動の全てに虫唾が走る。不愉快だし不快だし鬱陶しい。なぜ、妹君じゃなくて、あの子なんだい? 如何程の心理変化が起きてしまったのか、大いに嘆く。まるでこの世の全てが彼女のためにあるかのような……存在していると強調しては裏付けているような、そんな感慨だ。全く以って意味不明だよ。きみは一体何の熱に浮かされて動いている?」
「随分辛辣ですね」
だがしかし、正式な婚約相手を差し置いて学園内の主役の華として持ちあげてしまった張本人である現在、その苦くも苦しい言葉を肯定も首肯することはできず、否定も拒否することもできない。正直、こころの中は針の筵だった。オズオパールという、プレイヤーにとって常に味方であった存在に直截的に云われているのならば、猶更である。いや、殊更か。
「巻き戻せるものなら時間を巻き戻して、この現状……惨憺たる惨状をリセットしてみたいものさ。だがもうどいしょうもない。期限はまだまだとは云え、チャンスと機会はあるとはいっても転がり落ちた小石は止まらない雪崩となった。いや、土砂崩れかな」
「よく分からないことを仰いますね、貴殿は」
「仰いますともさ。これでも発売日までにどうにかせぬばと焦っている」
発売日?
何のことだ?
「ミスター……いや、ミス……君は協力してくれると思っていたのだがね」
オズオパールは不意に、それこそ唐突と云って良いタイミングで『私』を見た。
それは既視感、ドロシーのゲーム内で度々あった『主人公』ではなく、プレイヤー本人に直接話しかけているのではないかと錯覚を覚えてしまう、メタ的な演出。
どうして彼は、ミスターと呼ばない。
どうして彼は、ミスと呼んだ。
ミス――ミス、瑕疵。
まるで違う人に向けて話しかけているかのような……。
「君が画策した通り、ミス・リリィは全ての事象を当たり前のように受け取って、自ら行動を起こすだろう。魂を得たように、心得たかの如く。きみがここに呼ばれた理由に気付いた頃にはもうすべてが手遅れで、何もかもがオシマイだ。花は花でも、茎にある猛毒に気付かなければいけなかった。浅慮なこと、そのことが悪いとは云わないが次があるなら軽々に行動しないことを非常に強くお勧めするよ」
「あなたは、何を」云っているのか分からない。「何を……」
「ここから先は転落そのものだ。何もかもを失う失楽そのものだ。ほら――ページを捲ってごらん?」