4-6
「教科書の点は分かりました。でも、『足りないものが二つある』と仰っていましたが、残りのものは……」
「近々、イスタル王子の誕生会が行われる。不思議なことに、四月の満月が生誕祭でね……毎年決まった日ではないんだよ」
「はぁ……イースターみたいですね」
イースター。
その言葉に、ディアナの兄は……いや、国の人間において馴染みがないどころか、この世界の人間そのものにおいてそういった文化がないのか、脳内で何かが反応するのを自覚した。しかし、主な思考に鎮座しているのは、この『私』だ。無理矢理、未知なものを既知とさせることで、会話を流暢に行わせる。誰かの意識を強引に奪って罪悪感はあるが、些細なものだと云い聞かせた。
それにしても未知の言葉……イースターに反応したのは誰だ?
「きみが丁度学園に慣れた頃の月末に誕生会があるだろうが……まぁ、それほど準備しなくても問題ないと思うよ。その新調した学生服で十分だ」
学園内で行われるパーティについては。
問題はどの攻略キャラであったとしても不可避のイベントなのか、王子のイベントに招かれるのだが社交的な場において、正装の方は攻略対象か、もしくは安牌としてオズオパールに用意してもらえる。
尤も、一周目において資金のない状態で、それこそシンデレラの魔法使いよろしくオズオパールが欲しいものをくれるのだが、それ以降になると攻略キャラから幾つか渡されるドレスには、着せ替えよろしく細々としたレースやドレスの型などといった相手の趣味に合わせた服装の選択肢があるのだが、キャラによってはある一定の基準と水準を超えないとフラグが立っても友情エンドで終わってしまうこともあるのであった。
私は学園においてのパーティは制服で構わないと断言したものの、王宮内で行われる二番目のパーティについてそれほど詳しい知識はなかった。それにイスタル・ダンプティなる、『ドロシー』内で看板兼、ゲームの顔役のプロフィールは知っていても趣味や好みなどについてはぼんやりとした分からない。正に五里霧中だ。
王子と主人公をくっつけるため、どうしたら良いのか……。
人知れず考えあぐねるが、イスタル・ダンプティのことをよく知らないためにアドバイスをするどころか何も云うことが出来ない。無言を貫き通して、教師に云われた通りリリィを別ルートから彼女の教室へと案内することしかできなかったのである。
不思議な話ではあるが……イースターという言葉に、私の脳裏で誰かが興味を示したように、宮廷内についての助言に、今までとは比べ物にならない制御を感じたのは気の所為だろうか?