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「しかもきみはこの学園で、上級階級の場において知識の吸収を行おうとしている。例えばそれは政治的なものであったり、その人の育ちたる教養を学ぶんだ。何せ我が国の第一王子・イスタル・ダンプティ殿下が在学なさっているところ。魔法が使えなくとも、その教養があるだけで就職には困らないだろう」
例え一切れ1ページの紙でも、金より重たい。
情報や教養とといった振る舞いは、社会性と社交性が必須必要になる貴族間において、どれほど高級なドレス、希少な宝石よりも重要なものなのだ。
絶対に、軽視してはいけない。
絶対視しなくては、いけない。
「上記を踏まえて再度、リリィ女史に質問だ。君はあの落伍者に、教科書などの必需品を用意してもらったか?」
「貰って……ません」
どうすれば。
――と、リリィは半ば泣きそうな顔で困惑する。
私は少しチートであるが、「教科書が必要ない人から借りれば良い」と述べた。この学園内において、教科書が必要のない人物など、それこそ一人しかいない。その上、一年から三年までの書物の全てが揃っている人物となれば、この学園の卒業生である希代の魔導士・オズオパール、ただその一人だろう。
彼からすれば在学時の教科書なんぞ……もっといえば十年以上前から教科書といった書物はわざわざ金を支払って揃えた飾りでしかない。ただ卒業するため、忘れ物などの減点を生じさせないために買い揃えているだけで、中身だけではなく見た目の方も新品同様だろう。埃は被っているかもしれないが。
「あ、ありがとうございます!」リリィは頭を勢い良く下げて礼を述べる。「わたしったら、あれほどオズオパールさんに約束事は危険だと、諸刃の剣だって教えてもらったのに……!」
「まぁ、うっかりするよね。物の貸し借り……それに教科書だなんて学生の中では身近なものだ。盲点になるのも無理ではない」
実感と共に共感した。
思い出すのは、辛辣を超えて悪辣とも云えるゲーム内のイベント。
アレは本当にヤバかった。
「それに君は異世界から来た一般人という触れ込みだ。その辺りはキチンとしないと、卒業後、恐ろしいことになる。身売りならまだ良いさ。異世界人などという異なった次元の人間を、材料として扱われても文句は云えないんだよ。死人に口なしという意味においてもね」
未成年とは云えども、高校を卒業したとなれば最早大人だ。約束事……積もるだけ積もった契約の利子はどのような方向に傾くのか分かったものではない。身の保証はないのだ。もっとも……一番穏便なのは、彼女が在校中に元の世界に戻ることだが。