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「端的に述べて、君は巻き込まれた被害者なんだ。悪く云わないでだなんて綺麗事を述べるよりも、被害者として何か文句の一つでも述べるべきではなか、リリィ女史?」
「悪口や陰口は云いません。そう誣い語るぐらいなら、本人に直接云います」
「それは実に良い考えだ。短絡的だし簡単だし直接的だ。だがしかし、懸念すべき材料……そう本当に材料なんだ」
私は云う。
「失念してないかな? 衣食住の確保はできた。後ろ盾である希代の天才の保護者もいる。この学園生活を送る上において、制服も誂えてもらったがそれでもさ……足りないんだよ二つほど」
「二つ?」
「一つ目は単純な問題だ、リリィ女史。君、制服はあるものの教科書やノートなんて、学生の品は買って貰えたかい?」
「あ……」
「魔法が使えなくても、羊皮紙と云ったスクロールが必要だ。飯事のようになってしまうが、真似事であったとしても、形式上、形の上だけでもそういった雑貨を揃えていないと話にならないよ」
しかも、ここは普通の学び舎とは違うのだ。
上流階級たるご令嬢ご子息たちが、社交の場として洗礼を受ける場でもある。
一般普通の学校のように、隣席の生徒からたとえ一日、束の間の出来事であったとしても貸し借りだなんてものは以ての外だ。貸し借りの約束事は礼儀礼節におけるマナーなどの問題などではない。魔法が使える貴族らにおいて、約束事と云うのは何かしらの利子が発生する。
この世界において、魔法とはそもそも、生まれた瞬間魂に刻まれた契約。
例えどのようなものであったにせよ軽くもなければ安くもない。義理人情で働くようなものではない。分かり易く例えるならば、『悪魔との契約』。この点を疎かにすれば、どのような搾取を……破綻的な最後になってしまうのか、考えるだけでも恐ろしい。小さい約束事であればあるほど、些細であればあるほど後々大きく響く。
現に私はゲームの一周目で、約束事について非常に重要であると説明を受けていたのにも関わらず躓いた覚えがあるのだ。この忠告はディアナの兄からではなく、現実世界の他プレイヤーからの助言と助け船であった。
「今日はまだ授業がないから、まだ良い。だが、早々に教科書や必要なものを揃えないと、どうなるだろうね。云っておくが教科書はそう安いものではない。資金を遣り繰りしようにも全て自前で揃える頃には一年を迎え、二年に突入だ。二年目もまた他人から物を借り続けるつもりなのか?」
「あ……」
「自立しろとは云わないが、自衛しろとそう述べる。どんなに小さな約束事でも契約は契約だ。利子が付きまとう。扨て果て債務者はどのような要求を行うことやら」