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私は隣にいる、悪役令嬢と正統派主人公の顔を見比べ、一年生をそれぞれの教室に案内すべく立ち上がる。
偶然――それとも必然か。
私がド忘れしていただけなのか、それとも王子を攻略対象にすると明らかになる情報なのか不明だが、一学年一組の案内役の一人、守衛の役割としてグリフォンの腕章を付けたディアナが受け持った担当組を案内していく中、私は突如教師らに呼び止められることになる。
知らないイベントだと思うと同時に、このアクシデントはそもそも『続編』ならまだしも新入生である主人公に発生するはずもないだろう出来事だと思い直した。
「何でしょうか?」
相変わらず冷たいではなく、無味乾燥特有の温度の無い声だなと思いながら返事を返すと、教師たちはリリィを特別に案内しろと命じられる。
なるほど……新しい攻略対象になると、王子個人そのものだけではなく、婚約者やその周辺における関係のことを細やかかつ詳細に知ることが出来るのだなと、思った。
私はディアナ率いる新入生の中からピンポイントでリリィを引っ張り出した。何せ『顔馴染み』なのでそれほど労せず狙いを絞り出すことが出来たのだが、通常の『彼』ならば、さすがに後れを取ることはないだろうが百名近くいる生徒たちの中で、たった一人の女子学生を抜き出すことは難しかったのではないかと思う。
「リリィ女史……」
「あ、あなたは……オズオパールさんの部屋にいた……」
「先日はどうも」そう云えば挨拶はあって会話はなくても一度見知った同士だった事を思い出す。「あの無頼漢というよりも落伍者か? あの人のところで世話になっていると聞いている。私はこれでも生徒会の一員でね。会長ほどではないのだが……君のことはある程度、知っているつもりなのだが……」
「落伍者だなんて……わたし、聞きましたよ。オズオパールさんは、とっても優秀な魔法使いなんですって」
「魔導師だ。異なる世界から来たのだから、魔法使い・魔導士・魔術師の違いや差異については疎いだろうが、その辺は神経質な人もいる。特に、殊に貴族は肩書には敏感だから間違いのないように」
親切な風に、私は先ずディアナから連想されるイメージとしてその兄が絶対に云わないし教えないであろうゲーム知識で培った知恵を披露する。
そこはかとなく痛々しいディアナの視線を何となく背中に受けながら、リリィを優しく人の列、生徒の群れから引き抜いて、裏口の方へと進んでいった。