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3‐1


小川を斜めに横切って生える柳へ行くには、宮廷の小さい庭にある隠された魔法陣に両足を乗せたあと、下に一歩、左に十七歩、上に十四歩、左に二〇一五歩、下に五百十二歩進むと、異世界への通路パスに到着する。


そこは、色のない灰色の世界の吹き溜まり。


淀む汚穢の廃棄道。


その路にあるのは、この世界から捨てたモノ。或いは、向こうであるあちら側の世界から放棄されたものが溜まった玉石混淆の宝にしてゴミの山である。


隣接するようにしてある異世界への通路だと判明する前は、王宮に隠されたようにあった小さい庭から行けることもあって、いざという時の隠れ場所であったことは、王子たちの間では秘密裡に共通の知識となっている。


その、いざという時というのは云うまでもなく国家そのものに直接関係する滅亡などが主な非常事態であろう。


本来ならばおいそれとは気安く行くべき場所ではないのだが、この国の第一王子――イスタル・ダンプティは碌な護衛も付けず訪れるのには、ワケがある。


イスタル・ダンプティは生まれながらにして、自分は普通ではないことを自覚していた。


覚えているという記憶ではなく、意識という潜在の中で実感していたのである。


実際その意識は自惚れでも何でもなく他者侍者己共にそうであると頷くと共に認めるものである。そうして普通ではないことを証明し証左するようにして、彼の生活は一般のものとは大きく懸離れ乖離していた。


普通、自室にいるだけなのに護衛は要るだろうか。


普通、食事を取る前に毒味役はいるだろうか。


普通、生まれながらにして婚約者はいるだろうか。


普通、普通、普通……。


それはイスタル・ダンプティが知らないものであり、他の兄弟だけではなく両親共々そうであった。普通という普遍的なものを知らないが故に、彼がはじめて見た鮮やかな色は血潮だったし、毒は美味の中耽溺死、婚約者のお嬢さんは黒檀の黒髪が美しい女の子である。


唯一、普通があるとすれば刺突の刺客と、毒薬の暗殺と、許嫁の公家である。


やがて国を継ぐことが約束されている第一王子の日常は、実に息の詰まるものであった。


息のできない苦しい日々である。


そんな中、懊悩とまでいかないが窮屈さに苦悩する息子にこの国の王である実の父親がコッソリと人気のない場所を教えてくれた。そこが王宮で目立たない中庭の魔法陣なのであるが、確かにそこには人がいなかった。


好奇心を丸出しにして、初めて魔法陣の先にある廃棄道をうろついていると柳の生えた小川を見付けたのだが、そこにあったのは蝋死体であった。


生きた人間ではなく形の崩れない亡骸がある。


確かにここは己以外は無人だ。

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