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「何か用かな、ミスター」
オズオパールは足元の床に描かれた魔法陣――悪魔や使い魔を召喚するものではなく彼流にアレンジ且つ魔改造されたものだ――を、眺めながらそう述べる。視線を一切寄越さない態度に一種の傲慢さを感じながら、私そのものに意識と両目を注目させるよう、わざと荒っぽく魔法陣の端を踏んだ。
「今回用があるのは――」
私は饒舌に尽くし難い云い難さを感じた。難しいのはなく難解なのだ。本当に伝えたいことが率直に伝えられず、違った云い回しやフレーズを使わないと意思疎通ができないような感覚……ひいては制約を感じる。それこそ、多少のアドリブは効くものの台本の本筋から明らかに異なり、ズレて外れた発言は許されないといった強制感。
まるで……作者の意のままに操られるキャラクターにでもなったかのような気分だ。
「用があるのは――リリィ・クローカスのことです」
違う。
いや、厳密には違くはないのだが、本当はそう云いたいのではない。正しくは、『リリィたる主人公の立場にあったのに、どうしてか真逆の立ち位置になってしまっていることに懸念』を抱いていると述べたいのだが、どうしても頭は回っても口が動かない。次元を超えた意識の入れ替わりとして、導入部分たる前振りすら、うまく説明することが出来ないのだ。
「ミス・リリィのことかね? それなら乃公が保護者兼後ろ盾として存在することで、あの異質な存在はある程度、保護できると保証したつもりだったが、それでも不安か? 未成年の仕事は勉学に励むことだ。学園から追い出して金銭を稼ぎ、労働をすることではないのだよ」
「違うんですよ」
私は言葉を選びながら云う。そして同時に、あぁ……この会話文は主人公がセーブ部屋を訪れた際に行われる初期のイベントだと思い出す。だったら私は時計のように同じセリフを述べるべきだろうか?
「私が云いたい、主張したいのはそういうことではなく……空想や御伽噺になってしまうのですが、他次元による作用について如何程の影響があるか承知しているのですか?」
本来ならば、セーブ部屋に主人公を連行した人物は「他次元の者が並行世界にどのような影響力を及ぼすのか分からない。未知の生物は学園に通わせ、不要にこの世界の知識を蓄えさせるのではなく、貴方の助手としてこの部屋にいさせるべきだ」とした内容発言であるのだが、私の精一杯、そうして語彙力では回りくどい云い方しかできなかった。