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私が悪役令嬢たるディアナ・グラナディラの兄になっていることは一先ずおいて、まず魔法使いと魔導士、そうして魔術師の違いについて説明しておこうと思う。
魔法使いと、魔導士と、そうして魔術師。
まず魔法使いとは、『法』の下で保護されている存在だ。よりよく分かり易く述べるなら、“法”律によって守られ、“法”そのもの人権が保護されている存在である。『ドロシ』ーの世界において厳密に主人公も例外なく、『魔法使い』ではない存在など実在しないのであった。しかし……敢えて云わせてもらえるならば、『ドロシー』の世界の中にも魔力そのものがなく、主人公と変わりない人間がいることは確かである。しかし、『ドロシー』の主人公とは異なり、魔力がないのならば別の特技をといった具合に、芸術・学問・医学といった様々な分野に魔力のない人間は偏在している。正直なところ、魔力を有する人間の方が、6対4の割合で少ない傾向がある。
次いで、魔導士であるが魔術師よりも上のランクに位置する人たちの総称である。魔法使いが、法の下であらゆる人権が保障さえているのに対して、魔導士は法律を作る――魔法を生み出す側にある上位的な存在である。法の抜け穴抜け道など存在しないように、だがしかし頭でっかちな規則にならないように日々頭脳労働をこなしている人物たちのことである。常にイレギュラーを想定し、仮定し、推測する。たとえ机上の空論と云われるものであっても、そこに解決や打開策を提案しては立証し、そして実行する人たちのことである。
未知に挑む。
そう表現すれば、魔導士と云う存在は聞こえが良いように思えるが、トラブルは日常茶飯事で低確率の事象など当たり前で、前人未到など茶の間のCMだ。だから、『ドロシー』の主人公のリリィ・クローカスのような存在が現れることなど大した問題ではなく、沙汰の一言で終わってしまう当たり前にして当然のことだった。
主人公が学園に預けられたワケは、未知に慣れた魔導士からすれば日常茶飯事。魔導士が異世界の遺物を召喚し終えた時点で既知となっている。今頃、冗談でも酔狂でもなく、リリィのいた世界とはまた違った異世界の遺物を召喚して、その物品や生き物を究明していることだろう。
一部ユーザーからの推測によれば、『ドロシー』内において主人公が学園に預けられたのは、世話を見るのが面倒だとか、召喚した事実から目を逸らしたいなどではなく、一般的な感性を持った異世界の住民が己の世界でどのような行動を起こすのか動物実験めいた研究を行っているのではないかと、黒い考察が為されていた。
そうでなければ、主人公を召喚した魔導士が徹底して出番が控えられているなど、あり得ないといった考えである。