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箱庭の管理人  作者: つきたておもち
第11章

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 アシアはこの地に、居を構えたい思いはある。この地で生活をし、アシアが持つ茶葉に関する知識を伝えていきたい願いはある。セドリックとも友人関係を、途切れさせることなく構築したい。

 しかし、アシアへの対応がこの状態のままなら、アシアの気が重くなっていくことも、予測できる。今までの経験上、『人』に疲れてしまうだろうな、ということも、目に見えている。

 フォルスに願いたいことがある、とアシアはいったんは口にしてしまったが、内容を話していない今なら、なかったことにはまだできる。

 アシアが現状の生活様式を変えずオウカ国に居を構えたままで、この地に足を運ぶ、という手立てもできないことはない。その方法でもセドリックとは友人関係を継続することはできるだろうし、アシアが教授したいと考えている茶葉に関する知識もこの村の者に与えることができる。

 もし、アシアが今望んでいるようにこの地に居を構え、『導師 アシア』の役目を務める中でアシアが『人』に疲れたとき、現在住んでいるオウカ国のように、お気に入りの池の傍に十年単位で引きこもるなんてことは、できないだろう。ノアのような、引きこもってしまったアシアを連れ出す導師がこの地には、いない。時間的な感覚が『人』とは違うアシアが引きこもってしまったなら、きっと世代が変わってしまうほどの時間を、この森の深部で過ごしてしまう姿が、アシア自身が容易く想像できた。

 ゆえに、緊張した面持ちでアシアを見ているフォルスへ、この地への居住を願うその気持ちを諦め、なんでもありません、とアシアがそう伝えようとした、そのとき。

「アシア。」

 と、セドリックの、いつものようにアシアの名を呼ぶ声。

「これで謁見の時間は終わりだ、アシア。」

 そう告げると、セドリックは礼を取った体勢から一転、どかり、と椅子に座った。

 セドリックの突然の『導師 アシア』へのその応対に、驚きの表情を向けたのはアシアだけではない。フォルスもダンも目を大きく見開いてセドリックを見ている。そしてフォルスとダンは見る見るうちに、顔色を無くした。イリスだけが薄茶色のくるりとした瞳を、一瞬ひときわ大きくしたが、すぐにいつもの無邪気な笑顔を浮かべる。

「俺たちが改まった場にしてしまった理由は、アシアも理解しているだろ?」

 顔色を無くし、固まってしまっているフォルスとダンを気にせず、セドリックはいつもの調子でアシアへ話しかける。

「本当に俺たちは『導師様』に感謝しているんだ。そして叶うなら『導師様』に直接、その感謝の気持ちを伝えたかったんだ。その俺たち村人の感謝の言葉を伝える場に付き合ってくれて、ありがとう。アシア。」

 いつものニッとした人懐こい笑顔で、アシアに礼を述べた。そして、イヤな気分にさせて悪かったな、と謝罪の言葉を紡ぐ。

「でも、長老の家のこの香茶は変わっていて、美味かっただろ?この茶葉の焙り加減はエイダもなかなか習得できなくてだな。今のところ、長老宅でしか飲めないんだ。気に入ったならもう一杯、貰うか?」

 アシア、気に入ってただろ?とセドリックは勧めながらも、アシアの返事を待たずに隣に座るイリスへ香茶の追加を持ってくるよう手配する。

「村長さん。導師様の分だけでなく、私たちの分も準備しますね。長老さんの香茶、私も滅多に頂けませんから。」

 セドリックから頼まれたイリスはそう快諾すると、空いている茶器を手際よく集め、部屋から出て行った。

 部屋に残されたフォルスとダンは、変わらず顔色のないままセドリックとイリスのやり取りを、そしてアシアの表情の変化を窺い見る。

 アシアも、セドリックの突然の急な態度の変化に驚いた表情を浮かべ、セドリックとイリスのやり取りを、言葉を発することなくそのまま見ていたが、たちまちその表情を崩すと、軽く声を立てて笑った。

 大胆な行動だ、とアシアは感嘆する。今までのこの雰囲気をぶち壊す、とても豪胆な振る舞いだ。確かにアシアの気持ちに気が付いていたセドリックが、この場の雰囲気を何とかして欲しい、といった願いがアシアにはあった。しかし畏れながらの、フォルス、ダンが『導師 アシア』を恐れながらといった気が纏っている中を、アシアの友人関係の申し出を受け入れた関係性であるとはいえ、アシアがこの場に集う『人』の畏まる所作に気分を悪くしていることに気が付いていたとはいえ、この少し緊張感が漂う空気感の中で、このセドリックの振る舞いはあまりにも大胆だった。フォルスとダンはこのセドリックの行動に当然ながら理解が追いつかず、いまだ固まったままであり、『導師 アシア』の彼に対する処罰がどうなるのだろうかと、恐れ慄いている。

「謁見は、終わりですか?セドリック。」

 軽く声を立てて笑いながらのアシアのその問いに、セドリックは片手を挙げると、

「あぁ、そうだ。アシアは続けたいのか?」

 と、真面目な表情で逆にアシアに問う。

 それに対して、アシアは、いいえ、と即座に首を横に振った。『人』が勝手に作った階級による作法を受けることは、もう十分だった。十二分にそれに付き合った。

「なら、イリス先生が香茶の追加を持ってきたことだし、それを飲みながら、アシアの考えを、希望を、長老に話したらどうだ?」

 アシアがセドリックの問いに否定したそのタイミングで、茶器を載せたトレイを持って部屋に入ってきたイリスに気付いたセドリックが、

「俺は、アシアには諦めないで欲しいんだがな。」

 と、先ほどアシアがいったん口火を切ったが言葉にすることを諦めようとしたその願い事の続きを、フォルスに話すよう促す。

「…気付いていたんですね、セドリック。」

 セドリックのその促す言葉に、アシアは苦笑を浮かべた。

 この地に居を構え、この小さな村で、『導師 アシア』としての務めを果たしたい。

 それが、アシアの望みだ。昨日の森の中で、セドリックに語ったその内容だ。そのことを諦めようとしていたアシアの心情の変化に、セドリックは気が付いていたようだ。先ほどの、セドリックの大胆な行動は、アシアのことを考えてのことらしい。

 しかし、セドリックの『導師 アシア』に対する明らかに不敬な応対に今も、フォルスもダンも、固まったままで顔色がない。

 それもそのはずで。

 このようなセドリックの行為は本来なら、その生命を取られてしまう案件だ。『人』の権力差による作法なら、この場で命を取られても不思議ではない、セドリックのアシアに対する応対だ。それもセドリックひとりの命で済むのなら、まだ良い。これは権力者によっては村ごと潰されてしまうような、『導師 アシア』への不敬な態度だ。

 しかも相手は『導師』だ。『神に近しい者』だ。『神に近しい者』から、『人』の権力者による罰以上の、想像も及ばないような罰を、セドリックに、またこの村に与えられてしまう可能性が大いにある。

 そのような推測に至り、足の先まで血の気が引いてしまい、真っ白になった思考で、フォルスは謝罪を、と。『導師 アシア』への、セドリックのあまりにも不敬な態度への謝罪を、とフォルスは思うのだが、

「…ぁ…。」

 血の気が引いたフォルスの口唇は、うまく言葉を発することができない。そのため、フォルスは更に焦りの気持ちがわく。先ほどまでとは違う意味で、手が、身体が震えだす。

 フォルスのそのような状態にアシアは、

「気にしなくても、良いですよ。フォルス。」

 と、そのような顔色なくあからさまに怯えの色を顔面に貼り付けたフォルスを安心させるために、今までと同じような柔らかな微笑をフォルスに向ける。

「セドリックが言ったように、謁見の時間は終わりです。今は、セドリックと僕アシアとの友人の関係の時間です。」

 そして、そう言葉を続けた。

 新たに香茶を淹れた茶器を、一番にアシアへ、次にフォルスへと置いたイリスが、

「導師様はお優しい方です。長老も導師様とこのようにお会いして、そう感じていらっしゃるんじゃないですか。」

 無邪気な笑顔をフォルスに向けながらそのように言う。

「『導師 アシア』様とセドリックが、友人関係…。」

 アシアの言葉をなぞり、ぽつり、とそう言葉を落としたフォルスに、アシアは即座に笑んでそれを肯定する。

「そうです。僕とセドリックは友人関係です。僕から頼んで、セドリックに友人になってもらいました。」

 アシアのその肯定の言葉に、顔色が戻らないままのフォルスが、

「『導師 アシア』様が、セドリックに、ですか?」

 アシアを怯えた瞳の色のままで窺い見る。


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