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箱庭の管理人  作者: つきたておもち
第8章

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 それは、アシアの希望的な気持ちからアシアが勝手にセドリックの表情をそう受け止めた、ではなく、セドリックにとっても導師との縁が続くことは嬉しいことだからだ。なぜなら、遥か昔にこの地へ村人を導いてくれた導師はこの地を去り、その後、導師はこの地に再び訪れてくれることはなかった。導師への感謝は伝え話となり、伝説に近い物語となってしまっている。

 この村をなぜ、導師が去ってしまったのかまでは伝話の中では語られていない。

 ただ、導師から見捨てられたのだとは、村人の誰もが思ってはいない。導師からは見捨てられたのではなくこの豊かな地を導師から譲り受けたのだと、伝えられているからだ。導師に感謝し、この村を豊かな土地のまま後世に引き継いでいくことが、この村で生きている者の使命のように、伝話の中では語られている。

 ただその使命も、今アシアから聴いた話の『導師 アシア』の使命と比べれば、たいしたモノではないのだけれども。

 長老から長老へと語り継がれてきた伝話の中でしか知ることがなかった『導師様』と、セドリックの代で縁が繋がりそれが続くとなれば、セドリックはそれは嬉しく、誇らしい。

 けれどもそれだけでなく、『友人 アシア』との縁が切れないことも、セドリックにとってはとても嬉しいことだった。

 この地から見るオウカ国は、とてもとても遠い国だ。簡単に気安く行き来できる国ではない。この国の王都への往来ですら、長旅である。イリスがこの村に簡単に里帰りできなかったことも、彼女の心情は別にしても理解できる。その王都よりも東の遥か遠い場所に、オウカ国は位置する国だ。アシアがオウカ国へ戻ってしまえば、セドリックはアシアに会いに行くことは難しいだろう。簡単なことではない。アシアが導師の力を使ってこの地に足を運ばない限り、セドリックは彼と出逢うことは、そうそうありはしない。

 彼がオウカ国へ戻る、と言ってしまえば、セドリックにとっては、もうそれは再び会うことはないだろうといったことと同義語だ。少なからず『人』同士ならそうだ。世界を旅する行商人でない限り、次に会う約束はしない。したとしても、それは心情を表す希望的なことだ。

 だからアシアがオウカ国へ戻る、と言った時点でセドリックはいつものように、自然とそう覚悟した。よほどのことがない限り、再び会うことはないだろう、と。

 それが、彼はこの地に戻ってくる、と約束事を口にした。しかも「近いうちに」といった修飾語をつけて、だ。セドリックの心の中に嬉しい感情がわいてくるのは、それは自然なことだった。

 しかし、アシアは先ほどまで『導師 アシア』として、とても何かに迷い、躊躇い、悩んでいたように見えた。ただ、彼の人物像から彼の思い描く内容に間違いはないはずだ、とセドリックはその背を押した。協力をするとも口にした。

 セドリックはアシアが何に躊躇い、迷っていたのか、導師としてのあり方についてだといった推測はしているが、具体的な内容については知らない。何を望んでいるのかも、アシアはセドリックに明確に伝えてはいない。

 だから、アシアが長老との面会の後、すぐにこの村を後にしたい、ということも、アシアが導師としての役目の何かを果たすために、アシアがその務めを果たしているオウカ国に早急に戻るのだ、とセドリックはそう察して、引き止めの言葉をすぐに撤回したのだ。

 確か、アシアはノアの使いでオウカ国からライカ国へ赴いたとも言っていた。ノアの使いの途中であり、その役目も放り出すわけにはいかないだろう。いったんはオウカ国へ戻ることは当然のことだと、セドリックは理解した。再びアシアとあいまみえることはないかもしれないといった、淋しさと覚悟が自然とわいた。

 しかしそれが、彼はすぐにこの村に戻ってくる、と話す。

 しかも、アシアは続けさまに、

「この地に、住みたい、と思っています。」

 と、セドリックの水色の瞳を捉えてそう告げた。

 セドリックはアシアのその言葉に、目を丸くし、

「それは、『導師 アシア』として、大丈夫なことなのか?」

 と、そう答えていた。

 それは、『導師 アシア』がこの地にとどまってくれることは、セドリックや村の者たちにとってとても嬉しいことだが、果たして『導師 アシア』にとって良いことなのだろうか、といった懸念をセドリックは持ったからだ。彼は、『導師 アシア』は、この小さな村で導師としての役目、アシアの言う創造主の命をといった大役を、きちんと果たすことができるのだろうか、と危惧する。彼がその力を発揮すべき場所はやはり、オウカ国ではないのだろうか、と。

 セドリックがこの村や隣国の宿屋、出かけた先で出逢う行商人から、数度耳にした導師の話はオウカ国やライカ国といったこの世界の中で1、2を争う大国に属する導師の話だ。ただしその内容は眉唾ものに近く、真偽の程は不明な、本当に導師は存在するのだろうかといった類の、いわゆる噂話で、どちらかといえば寓話に近しいものではあるけれども。

 その、この世界のあらゆる場所へ訪い、この世界でいちばんの情報通である行商人の口からは、導師の話に関しては大国へ訪れた際に耳にした、といった内容だけで、このような辺鄙な村で導師の教えを請うたや、実際に拝顔した、といった話はいちども聞いたことがない。小国の話の中ですら、まったくない。

 そうは言え、商人の話がすべて眉唾ものではないはずだ。彼らが話す内容の中に真実も少しは散りばめられているだろう、という思いの中、彼らの話に今までセドリックは耳を傾けてきていた。特に、『導師様』は伝説の人物ではなく、実在する者なのだと、その部分だけは信じて行商人の話を聴いていた。彼らの話の内容から導師はこのような辺鄙な村に身を置くことをせず、この時代に影響力を及ぼしている大国にその身を置いているのだろう、とセドリックは受け取っていた。

 それを、『導師 アシア』は大国のオウカ国から、この国の王都からもかなり離れ、隣国との国境沿いに位置する辺鄙なこの村に、『導師 アシア』の居を構えたいと言う。導師はこの世の中に影響を及ぼす大国に身を置き、その務めを果たす存在だと、そのように考えていたセドリックが、導師であるアシアのその申し出を案ずることは当然のことだ。

 この地に村の先人たちを導いてくれた導師も、この村が導師が思っていたように発展しなかったから、その導師はこの地をあとにしたのだ、といった考えがセドリックの頭の中にちらりと掠めていたことは、否めない。

 けれども当のアシアは、

「僕はこの村、この森を、とても気に入っています。オウカ国に居を構えている森と同じくらい、ここは居心地が良い。」

 柔らかい笑みを浮かべ辺りを見回しながら、この地に戻ってくることの理由をセドリックにそう答えた。

「あの大木から村、そしてこの森まで、僕にとってはとても心地の良い気が流れています。特にこの森は、オウカ国の森の中にある、僕が気に入っている池の場所とよく似ている。」

 アシアは柔らかな眼差しのまま自身の周りをくるり、と見渡したあと、セドリックに改めて向き合う。

 そしてひとつ軽く息を吐くと、

「いずれ僕はここに居を構えたい、と本当に思っています。といっても、すぐには難しいのですが。」

 と、セドリックに語るアシアは、先ほどとは違いその琥珀色の瞳に揺るぎがなかった。

 そのアシアの様子から、彼は彼の思うとおりに彼のこれからのことを決めたのだな、とセドリックはそう受け取った。しかも彼の思いのそれは、本当に実現すれば、セドリックや村の者たちにとってとても嬉しい内容だ。

 とは言っても、彼はこれからもその気持ちがぶれることはあるだろう。迷いながら生きることは『導師』も『人』も一緒だ。なにせ導師もこの箱庭に住む者、なのだから。それに『導師 アシア』として、アシアが言う創造主の命によっては、彼もこの地へ村の祖先を誘ってくれた導師と同様に、この地を去ることもあるだろう。

 将来の確約はない。けれども、彼はこの地に居を構えたい、と今は言ってくれている。

 そしてセドリックは、その彼の背中を押したのだ。

 だから。

「導師アシア様。」

 改まった態度でもって、セドリックはアシアと向き合う。

 セドリックのその突然の態度に、少し驚いたようにセドリックを見るアシアへ、

「村長として、村を代表してこの地に導師アシア様をお迎えできることに、とても感謝し、歓迎いたします。」

 礼をとった。

 セドリックの改まったその態度に、あからさまに戸惑い、ほんの少し不愉快そうな表情を浮かべたアシアへ続けさまにセドリックは、

「むろん、友人としても大歓迎だ。俺は、『友人 アシア』がここに住むことはとても嬉しい。」

 砕けた言葉使いで、ニッと人懐こい笑顔を見せた。

「俺はアシアがこの森に毎朝訪れるのは、俺たちに気を使い、宿代とした食料の確保のためだと、てっきり思っていたんだがな。」

 エイダともそう話していた。


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