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箱庭の管理人  作者: つきたておもち
第8章

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「導師様のお役目として、『導師 アシア』様の気のコントロールは身につけて欲しいと、『人』である俺は願う。ただ、そのお役目が上手く果たせないからといって、俺は、俺たちは『アシア』を嫌うことはない。」

 同じ内容を、先日、アシアの気を中てられたあと、セドリックへ気を中ててしまったと落ち込んだアシアと話していたな、とセドリックは話しながら思い出す。

 アシアは、その年齢に似合わないほど、第三者との付き合いの経験が浅いように見受けられる。第三者との関わり方、距離のとり方が本当にわからず、自信がないようだ。

 ゆえに、これはアシアの、アシア自身のための確認作業なのだとセドリックは理解する。

 そう。

 何度も、何度も。

 繰り返し、繰り返し。

 彼を嫌うことはない、と。

 嫌ってなど、いない、と。

 この程度なら、大丈夫だ、と。

 それが、本来ならディフくらいの年齢の子どもたちがする確認作業なのだとしても。

 アシアが『導師様』なのだとしても、人との関わりの経験値がディフくらいの年齢の子どもと同程度なら、それに合わせる。そうすることでアシアが救われるのなら、それが良い。何と言っても、セドリックはアシアを気に入っている。セドリックだけではない。エイダもジョイもウルフも。そしてイリスも、ロイも。少なくともアシアと出逢い、言葉を交わした村の者は、アシアのことを気に入っている。

 それは、アシアがこの村に永く言い伝えられてきた導師様、だからではない。

 最初の、入り口はそうだったかもしれない。この豊かな地に村人たちの先祖を導いてくれた導師だということが、その導師がたとえアシアでなくても『導師様』だという身分が、最初は村人たちの心を掴んだのだとは思う。けれども、それだけではない。それだけならば、アシアのことは畏れと敬いの対象だけとなり、利き茶の場面での、彼をあんなにも慕い、彼を取り囲むことはないだろう。アシアは、自身が神気を放っているからだ、とは言うが、それは最初の場面でだけだ。アシアの本質には、『人』から好かれる要素が備わっている。ただそれをアシアは自身が『導師』だからだ、と括ってしまっている。

 導師だから、ではないのに。彼が、『アシア』自身が持っている根底にあるそのモノが、そのように『人』たちを惹きつけているのに。

 真っ直ぐすぎる。

 ゆえに、『人』に傷つけられるのだ。

『導師 アシア』に囚われすぎるのだ。『導師 アシア』に自信がないゆえに、『アシア』自身に自信がないのだろう。

 純粋培養で、育てられたのだろう。育ちが良いといえばそれまでだ。しかし、ノアがアシアをとても大事に育ててきたのかが、今も大事にしているのかが、彼の本質からよくわかる。『人』である実父母から、その生を終わらせるために捨てられた存在であっても、その悲しい事実を埋める以上の愛情でもって、アシアはノアから育てられているようにセドリックは感じる。しかもそれは、アシアが導師の魂だったからではないだろう。アシアがたとえ人の魂だったとしてもノアはアシアを拾い、同じように育てていたに違いない。そのような気がする。

 なのに、彼は『アシア』に自信がないのだ。確かにノアはアシアを『導師 アシア』として教育はしてきたのだろうが、それだけではなく『アシア』自身を大切に育ててきているようにセドリックは見える。

 けれども当のアシアは、『導師 アシア』の役目に、とても囚われているように思える。

 もしかしたら、『導師様』はそれが当然なのかもしれない。導師としての役目、『箱庭に住まう者』を導くということは、『人』が思っている以上にとても大事な役目で責を負うことなのかもしれない。導師の世界や価値観は『人 セドリック』には、当然のことわからない。理解できない世界だ。

 けれども。

 だからこそ。

 人であるセドリックだからこそ、『人』の立場で『導師 アシア』へ声を上げる。

「何度も言うからな。」

 耳をかっぽじろ、と、人懐こい笑顔を浮かべたままで、セドリックはアシアの琥珀色の瞳を捉え、

「俺はアシアと出逢ったときから、アシアのことを良い奴だと、俺と気が合うだろう、と思ってきたし、思っている。よほどのことがない限り、アシアのことは嫌いにならない。見限りもしない。『導師 アシア』として畏怖し、この友人としての距離をなかったことには、しない。」

 わかったか、と、セドリックはニッと笑いながらも、乱暴な言葉をアシアに投げつけた。

 言葉は乱暴だ。このような乱暴な科白は、久しぶりにアシアは聞いた。ノアも大概乱暴に話す。だけれども、ノアもセドリックも話している内容はアシアにとって暖かなものだった。言葉は乱暴だがセドリックは変わらず、暖かな気を放ったままだ。

 それはまるで、ノアから叱られているようだ、とアシアは感じる。

「俺はアシアが努力する奴だと、知っている。アシアは俺たちに嫌われないために導師としての気をコントロールする、と言っているのではないだろ?アシアは導師としての誇りでもって、その気をコントロールできるよう、努力すると言っているんだ。アシアがそうである限り、俺も、ディフもこの村の者たちもアシアを嫌いになるはずないじゃないか。」

 そう語るセドリックの水色の瞳は、力強く輝いている。アシアを信じており、アシアがそうあるだろうと本当に疑っていない瞳の色だ。

 セドリックのその瞳の色を受けて改めて、彼らの期待を裏切りたくない、とアシアの心の中でそのような感情が芽生えた。彼からの言葉が、とても嬉しく感じ、アシアの心に染み渡っていく。

 心が、ざわざわとする。

 けれどもそれは、アシアにとってイヤな感覚ではなかった。ざわざわは心の奥底の、暖かなものと抱き合わせで燻っている。少し、落ち着かなくもある。

 これが『人』への愛着なのだろうか。

 アシアは導師として、広く、どの『人』たちにも愛着を持たなければならないと思っていた。均等に『箱庭に住まう者』全員に、愛情を持って彼らを導くことが導師としての役目であると、考えていた。

 ノアが、そうなのだ。

 ノアは出逢う『人』たちに愛着を持って接し、彼らを導こうと説いていたし、説いている。彼女の活動は狭い範囲ではなかった。彼女の知り合いの中だけの、狭い範囲だけで、彼女は導師としての役目を果たしてはいなかったし、彼女のアシアへ、導師の師として語る言葉たちは、この『箱庭に住まう者』が対象だった。彼女が言う『導師』が導くべき対象は、アシアが個人的に知り合った相手だけ、といった狭い範囲ではなかった。

 また、市井の者たちを中心としたものだけではなく、その彼らに影響を与える国を動かす中心となる人物に対して、彼女は説いていた。

 だからアシアはノアに倣い、広くこの『箱庭に住まう者』と国の中枢で国の運営に深く関わる者へ、導師としての役割を果たそうと活動をしてきたのだ。だがその志は、人の卑しい考えの洗礼を何度も浴びたことで、萎えてしまっていたのだが。

 アシアは、アシアの瞳を捉えて人懐こい笑顔を浮かべるセドリックを、改めて見返す。

 今、アシアが考えに至ってしまったこのことで本当に、良いのだろうか、との懸念はアシアの中で変わらずある。

 個人単位で、家族単位、どれだけ広く見積もっても村単位といった、アシアの知り合いといった狭い範囲だけで、『導師 アシア』が導く相手、として捉えて『人』と『導師 アシア』としての関わりを持つことで良いのだろうか。『導師 アシア』の、導師としての愛情を注ぎ、導きを説いても構わないのだろうか。

「また、難しく考えているだろ、アシア。」

 揺れる琥珀色の瞳を水色の瞳で捉えたままで、セドリックが呆れたような口調で放つ。

「俺たち『人』は勝手なモノだ、と言っただろ。人は自分の益になることをどうしても一番に考えてしまうし、行動してしまう。俺も含めてそれが『人』だ。」

 そのセドリックの言葉にアシアは、セドリックは違う、と口を開きかけたが、

「それが、『人』なんだ。アシア。『人』である限り、そう、なんだ。」

 当のセドリックに諭される。

「導師様が導けば、少しはマシになるのだろうとは思うが、導きが途切れると、たちまち卑しい部分が表面に大きく出てしまう。だから、人との間で争いが起きる。権力を持ちたがる。それらから貧富の差が開き過ぎて、ディフのような哀しい子どもが生まれ、その生を終えていく。」

 アシアはセドリックのその言に、違和感を覚えた。なぜならそれは、人側の視点だからだ。

 導師は『箱庭に住まう者』を幸せにするために、彼らが幸せに生きていくために導く者ではない。そう、ではないのだ。

 なので思わず首を横に振る。それは、セドリックの言葉に対する否定の意味だ。

「それは違います、セドリック。僕たち導師は『人』を幸せに導くために、説いているのではないんです。」

 アシアの否定に、セドリックが軽く目を見開き驚きの表情を浮かべる。

 それはそうだろう。今までアシアはセドリックやエイダたちから、導師は慈悲深い者のように思われている、とは感じていた。それなのに、導師とはそのようなものだと思っていた当の導師から、そのセドリックの導師に対する考えを否定されたのだから。


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