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箱庭の管理人  作者: つきたておもち
第8章

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 ただ、アシアが顔も知らない実父母からアシアが誕生したと同時に排除されたことと、先日の、セドリックがアシアに対して怯えを見せ、アシアから逃げようとしたこととは、見た目の彼らの行動が似ていても内実はアシアにとっては全く違うものだ。

「僕はセドリックに、もう、僕に対しての恐怖や怯えを持って欲しくないんです。」

 アシアがそう発した言葉の声は、少し震えていた。その、自分が発したその震えた声音に、アシア自身が驚く。それほどに、言い訳をするその声が震えるほどに、自分は自分が信用ならず、怖がっているのか。

 セドリックから嫌われることに恐れを抱いているのか。

 あの後、セドリックは平気だと言っていた。あの後もアシアのことを拒否する素振りは微塵も見られていない。彼はアシアに、見せてはいない。あれ以降も今までどおり、人懐こい笑顔を見せてくれている。出逢ったときからの、普段通りの態度だ。暖かな気でアシアと向き合ってくれている。『アシア』と『セドリック』の、友人関係といったままだ。

「それは、俺に対する気遣いか?」

 低く硬い声音のままで、セドリックが訊く。変わらず、セドリックは『導師 アシア』をねめつけている。

 人が導師に対して取る態度としては、不遜だ。むしろ、豪胆と褒めて良いくらいだ。アシアは生まれてこのかた、導師からも、無論人からも、そのような態度を受けたことがなかった。人は導師に対しては畏れか、下卑た野心を下心に持って近付くか、くらいだ。

 これが『友人関係』というものだろうか。

 アシアは今まで導師とも人とも深い関係を築いたことがない。ノアはいるが、彼女は家族だ。母親代わりだ。アシアの中では、ノアは第三者ではない。故に、セドリックがアシアに向ける態度が、どの位置づけなのかが、どのカテゴリーなのか、友人関係だからこそなのかがよくわからない。

 セドリックはアシアが本当に、怖くないのだろうか。あのようなことを経験したにもかかわらず、彼は今『導師』を怯えずに、彼の怒りのまま『導師 アシア』をねめつけている。彼が言った『ぶつかり合って』というのがコレならば、それは、アシアが友人関係を望み、それを彼が受け入れたからだろうか。なら彼は生真面目に、友人関係を保とうと、努力していることになる。

「それも、あります。」

 セドリックからねめつけられながらのその問いに、アシアはセドリックの薄水色の瞳から逸らさずそう答えた。それでも、アシアの声はまだ少し、震えている。彼のように豪胆になれない。

 アシアは、セドリックを傷つけたくない、は当然で。なぜならそれは、アシアがセドリックとの友人関係を継続したいからだ。先日のような出来事を再び起こせば、もう、セドリックはアシアとの距離を『導師』と『人』の距離とするだろう。もしかしたら、それ以上かもしれない。アシアへの拒否。排除。それは、あり得ることだ。そのことを否定できるほどの何かをアシアは持っていない。

 アシアには今まで友人と呼べる人物はいなかった。そもそも友人の作り方もわからない。だから、セドリックにお願いをして、友人になってもらった。第三者との距離の取り方や、付き合い方なんてまったく知らない。知ろうともしなかった。知らなくても不便とも思わなかったし、必要だとも思わなかった。独りの方が気楽、といった部分が大きかった。独りでぼんやりと、お気に入りの場所で過ごすことが一番の至福と、思って過ごしてきた。

 まさかアシアが気に入る第三者が現れるなんてことは、思いもしていなかった。

「僕はセドリックから、嫌われたくないんです。」

 彼からねめつけられ、怒りを向けられたこの状況で、導師としての取り繕いはできない。しては駄目なことだ。それくらいはわかる。

 だから、セドリックの、怒りと悲しみがないまぜとなった水色の瞳を逸らさずに誠意を持って答えなければならない、と思った。故に素直にアシアの心情を吐露した。が、アシアは彼からの強いその視線を受けることに耐えられず、その視線を逸らして、少し目を伏せてしまった。

 このような行動は、また、セドリックから怒りの感情を向けられるだろうか、とも思うが、それでも、アシアはセドリックの瞳を見返すことができなかった。

 彼から、呆れられないだろうか。

 嫌われないだろうか。

 友人関係の解消を、告げられないだろうか。

 怖い。怖いのだ。だから彼からの視線を受け止めることができず逸らし、自身の目を伏せてしまった。

 アシアは『人』にも『導師』にも執着したことがない。嫌われようが好かれようが、関係なかった。そう思われたとしても、それが何なのだ、と達観した気でいた。それとも、諦観だったのかもしれない。

 そもそも『導師』になりたくて、生まれたわけではない。『導師』であることを、希望などしていない。

 いっそのこと『人』としてこの箱庭に生まれ落ちていれば、もう少し第三者に興味を持つことができたのだろうか。第三者との関わり方を知ることが、できたのだのだろうか。

 セドリックと、ちゃんとした友人関係が築けたのだろうか。

 暫くの沈黙の後、

「嫌って、ないぞ。」

 大きなため息が、目を伏せてしまったアシアの耳に届いた。

「アシアのことが嫌いになれば、ちゃんと言う、って言っていただろ。」

 アシアの白金色の髪を、くしゃり、と、一瞬セドリックの大きな手によって撫でられた感覚があった。

「嫌うにしろ、気に入るにしろ、今はアシアとは友人関係の構築中だ、と言っているだろ?まぁ、それもおかしな話だと、俺は思っているんだがな。」

 アシアが伏せていた視線を上げれば、怒りの感情ではなく呆れた表情のセドリックが、アシアを見ていた。

「コレは友人関係の構築ではなく、友人同士の、お互いの距離のとり方を手探り中、ってところだ。親しい間柄でも、踏み入っては駄目な線引きがある。親しいからこそ、それを知る必要がある、と俺は考えている。」

 だから、と。

「さっき、俺が口にした問いは、アシアの傷口を広げるものではないか、と俺が後悔したんだ。アシアにとっては踏み込んで欲しくない部分だったのではないか、と思った。」

 セドリックのアシアを見る水色の瞳は、先ほどアシアをねめつけていた怒りの色とは違い、少し憂いを帯びた色を見せる。

「謝罪しようとしたところに、アシアの『導師』のカオ、だ。アシアに、アシアの中で線引きしている以上に踏み込んでしまった俺を怒れ、とは言わん。アシアの怒りは正直に言って、俺は恐ろしい。アシアが怒ったときに放つ気は、得体の知れない恐ろしい何かの存在を俺の隣に感じてしまう空間を作り上げる。だからアシアが感情を表出するときにはノア様のように導師の気をコントロールして欲しいと、確かにアシアに願った。でも、それは。」

 そこでセドリックはいったん言葉を区切り、アシアの琥珀色の瞳を改めて捉える。

「それは、『導師』のカオを見せろ、といった意味ではないんだ。俺のことを友人と言うのなら、『導師』のカオを見せずに、コントロールできない『アシア』の感情をぶつけてくれ。その方が俺は、まだ良い。『導師』のカオを見せられて、拒絶されている感覚を抱くよりは、断然その方が俺は良い。」

 そしてセドリックは、一拍の間を置いたあと、ふっとその表情が崩れ、

「アシアの中の、これ以上他人に入って欲しくない線引き以上に俺が知らず立ち入ってしまったなら、構わず怒ってくれ。そして、俺にそれを謝罪させて欲しい。」

 いつもの、彼の暖かな気でもってアシアへ彼は言葉を紡いだ。

「俺も、アシアに入って欲しくない部分にアシアが立ち入ろうとしたり、友人としての距離間が俺にとっておかしいと感じたりしたなら、アシアが導師様であっても、友人として今のようにアシアと向き合うからな。コレに対しては不遜だの、不敬だのと言って怒るなよ。」

 セドリックはそう言って人懐こい、いつもの笑顔を浮かべた。そして居住まいを正し、

「さっき俺が訊ねたことは、アシアの触れて欲しくない部分じゃなかったのか?すまなかったな。」

 と、頭を下げた。

 アシアは、そのセドリックへ否定の意で頭を振る。

「大丈夫です。そのこと、実父母に捨てられたことは仕方がなかったことだと、僕の中では小さい頃にすでにそう整理されています。彼らの行為が、僕が僕を否定することにはなっていません。ノアがいましたし、『導師』と『人』の魂の形の違いを、僕は生まれたときから理解していましたから。」

 実母の腹から生まれたモノが、『導師』といった異質なモノだっただけだ。彼らにとっては待ち望んでいた自分たち『人』の子どもではなく、得体の知れない恐れを抱くモノ、『導師』だっただけだ。

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