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箱庭の管理人  作者: つきたておもち
第4章

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 夕食の後片付けを終え、アシアとディフは就寝の挨拶をして2階の部屋に戻って行ったが、30分ほど経ってから、アシアだけがセドリックたちが寛いでいる居間へ降りてきた。

 それを見計らったように、エイダが厨房から香茶を淹れたマグカップを人数分、運んでくる。

「しまった。いつもの癖でランタンの灯り、消しちゃったよ。」

と、アシアの姿を視認したジョイが、夕食時とは違い薄暗い照度となってしまった居間の、消してしまったランタンの灯りを慌てて灯そうとする。

 ランタンの灯りを灯そうとするジョイをアシアは止めると、アシアは天井を仰ぎ見た。とたん、光源がどこかがわからない柔らかな光で居間が照らされた。

 その光景に、うわっ、とジョイが息を飲む。

 エイダの、香茶の入ったマグカップをテーブルに置くその手が止まり、彼女も天井を仰ぎ見た。

「アシアの部屋の、ランタンの油が減っていないのは、こういうことか。」

 エイダが運んできたマグカップを、エイダと一緒にテーブルに置き並べていたセドリックが特に驚いた感を見せず、呆れたように呟く。

「まったく減っていないのには訳があるとは思っていたが。」

 そう言葉を落としながら、セドリックは自身のマグカップが置かれた位置の椅子に腰を下ろした。アシアはその彼らへ笑みを浮かべると、テーブルを挟んでセドリックの向かいの椅子に静かに腰を下ろした。

 それを合図に、セドリックの隣にエイダ、アシアの隣にジョイが座る。

「それでは、昨夜に引き続き、第2回目の家族会議を始めます。」

 ジョイが片手をあげそう宣言し、

「今夜は導師様もご参加になります。」

隣に座るアシアを両手で指し示した。それに対し、セドリックは、

「そりゃ、構わないが、ディフは大丈夫か?」

と少し心配顔でアシアへ訊ねる。

 ディフは夕食の後片付けを手伝った後、アシアと共に2階の部屋へ戻っていった。アシアだけが階下へ降りることに承諾しているのか、と問う。

「昼間の疲れもあって、今はぐっすり眠っていますから、大丈夫です。」

 その言葉から、ディフは自分の就寝後、アシアが階下へ降りることを知らされていないらしい。アシアは大丈夫と言うが、万が一、彼が目覚めたらどうするのか。昼間からの様子では、アシアが部屋にいないことに気付けば心細く不安に駆られないか、とセドリックは心配するが、

「ディフに何かあればウルフに、僕に知らせるように頼んでいますから。」

だから、大丈夫です、といつもの笑顔を浮かべる。

「それで、ウルフが父さんの足元の、定位置にいないのか。」

 アシアの言葉に、アシアの隣に座るジョイがテーブルの下を覗き込んでセドリックの足元を確認し、いつもそこにいるはずのウルフの姿がないことに納得した。

「ま、なら良いんだが。」

 セドリックのその言葉を機に、

「それでは、改めて、家族会議を始めます。」

と、ジョイが普段より若干緊張した面持ちで、再び家族会議の開催宣言を行った。

「まずは、父さんの報告から。」

 ばくりとした議題を振られたセドリックが香茶を口に運びながら、どの報告のことを言っているんだ、とぼやくが、

「長老との面会は、結局どのように決まりましたか?」

アシアも同じく香茶を口にしながら、長老達との調整の結果を問うた。

 その問いに、

「日程は5日後。その場に同席するのは長老、俺、副村長のダン、イリス先生の4人となった。」

と報告をするセドリックへ、アシアは満足そうにうなずく。

「僕の要望を聞き入れてくださり、ありがとうございます。調整、大変だったんじゃないですか。」

「大変だったさ。」

 間髪入れず、セドリックはそう答えると、

「調整が大変なことはわかっていたんだろ?大変だと思っていたなら、当初の予定通りにしてくれていれば、助かったんだが。おかげで、帰宅があの時間になってしまった。」

と、セドリックは苦笑を浮かべアシアへ愚痴る。

 セドリックは最初に長老宅へ行き、アシアの要望を伝え、アシアとの面会の場に参加するに相応しく、また、村の誰もが納得する人物を長老とふたりで選定した。その後、朝の報告会に参加していた村役員全員の家を、調整をかけるために訪ねてまわっていたらしい。

「イリス先生なら、オレ、皆が納得したのはわかるな。」

 ジョイが、アシアの隣で発言する。エイダもうなずいていた。

「イリス先生?」

 アシアの疑問に、

「この村唯一の図書室を管理してくれている先生だ。図書室の管理と、子どもたちの勉強を教えてくれている。」

と答えたセドリックへ、

「村に図書室が、あるのですか?」

アシアは少し目を見開き、驚いた表情を浮かべた。

 たかだか50世帯強の300人にも満たない、しかも王都どころか領地の中心部からもかなり離れた辺鄙な小さな村に、図書室があるとは驚きだった。

「そんな立派な代物じゃないぞ。先生に言わせれば、図書室と呼ぶにはおこがましいほどの、蔵書数らしいからな。」

 セドリックは手を横に振り、そのように言うが、

「いや、それでも、僕はあちらこちらの国や街、村に行きましたが、図書を保有しているのはどこも城下街でした。図書室がある村はここが初めてです。」

 アシアにしては珍しく、感情を顕にしていた。

 本は気軽に庶民が手に入れられるものではない。本を所有しているのは王族や貴族がほとんどだ。大きな商いをしている商人だとたまに、商売に関する書物を所有していることはあるが、それでもそう多くはない。そもそも本自体が高価な代物だ。庶民でも無理をすれば買えないこともないだろうが、本を買うくらいなら日々の食料費や生活費に当てるのが普通だった。

 だいたいにおいて、このセドリックの家にも本が置かれていたことにも驚いていたのだ。

 本の購入先はエイダの実家なのだろうか。本の代金はどこから出ているのか。

「昔から、この村には図書室があったようだ。俺の両親、祖父母も図書室で本を読んで、字を覚えた、と言っていたからな。」

 それだと、購入先はエイダの実家だけとは限らない。

「昔から、とは?」

 アシアのその問いに、セドリックは悪戯っぽい笑みを浮かべると、

「長老との話の中で、訊けば教えてくれると思うぞ。」

アシアにとっては意地悪な答えが返ってきた。

 そのセドリックへ、異議を申し立てようとアシアが口を開こうとしたタイミングで、

「香茶のお代わりを淹れてきますね。」

エイダがそう言って、空になった皆のマグカップをトレイに乗せ席を立つ。

「ジョイも手伝って頂戴。」

 エイダがジョイにそう頼むと、ジョイはうなずきそのトレイを持ち、エイダと一緒に厨房へと足を運んだ。

 ジョイは厨房に入ったとたん、

「母さん、アレ、どういうこと?」

驚きも顕に、少し興奮気味にエイダに訊ねる。

「朝の厨房でのやり取りのときも驚いたけど、アレは『導師様』と『人』との距離じゃ、ないと思うんだ。」

 エイダはジョイに、マグカップを甕の水で軽くすすぐよう指示すると、新たな香茶を淹れる準備を始める。

「ジョイはセディに似て、感情がすぐに顔に出るから気をつけて頂戴。導師様とセディのやり取りを見てとても驚いた顔をしていたわよ。」

 そう窘めるが、

「驚くに決まってるじゃん。相手は『導師様』だよ。『神様』に近しい存在の方なんだよ。その『導師様』相手に、名前を呼び捨てに、口調をため口で、ってのにも驚いたけれども、昨夜のほうがまだ、父さんは緊張していた風だった。」

さすがに息子らしく、セドリックが緊張気味にアシアへ対応していたのは何となく、ジョイはわかっていたらしい。

「でも、朝の厨房でのやり取りは、呼称も口調も昨夜とは一緒だったけど、ぜんっぜん、違っていた。今もそうだった。・・・大丈夫なの?父さん。」

 驚きもあるが、『導師様』へのセドリックの対応について、アシアから何か咎めがあるのではないかと、心配があったらしい。

 エイダはすすいだマグカップをテーブルに並べるようにジョイに指示すると、出来上がった香茶をゆっくりとそれぞれのマグカップに注いでいく。

「ジョイが心配するようなことは、何もないわ。」

 注ぎ終え、エイダはマグカップをトレイに乗せ、ジョイに運ぶよう伝え、

「きっと、これからもあなたが吃驚するようなやり取りはあるでしょうけれど、大丈夫だから、あなたは普通にしてて。」

あまり素直に顔に出さないで頂戴、とエイダはセドリックと性格が似ているジョイにそう釘を刺した。


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