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箱庭の管理人  作者: つきたておもち
第4章

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 朝食後の片付けも終わり、厨房のテーブルの上にはアシアが朝早くから収穫してきた食料などがカバンから取り出され、所狭しと広げられていた。

「ツタイモがこんなにたくさん。」

 そのテーブルをアシア、ディフ、エイダが取り囲み、賑やかに話しているところに、朝食後すぐに長老宅へ一昨日から昨日の出来事の報告に行き、暫くして若干疲れた体で帰ってきたセドリックが、途中参加をしている。

「ツタイモのツタを辿れば親芋が見つかるのですが、さすがに今回は止めました。」

 ツタイモは文字通り蔓になるイモ類で、大きさは直径6センチ程度だ。その実は土からの塩分を含んでおり、他の食料より塩味が少しきつい。その分、さまざまな材料に合わせて調理すると、塩味がなじんで美味しく仕上がる調味料にもなる食料だ。しかも日陰に置けば、長く鮮度を保つことができる優れものだ。

「あとはきのこ類と木の実とスイの実と、茶葉を少し摘んできました。」

 アシアが差し出した茶葉を見たエイダは、手を叩き嬉しそうに微笑う。

「導師様、私この葉をなかなか見つけることができなくて。だからあまり口にできないんです。」

 嬉しそうにアシアに話すエイダの隣で、その茶葉を興味深げに覗きこんでいるディフにエイダは気付くと、

「花のような香りがするのよ。」

と、エイダはディフにその茶葉を匂ってみるように勧める。ディフは勧められるがままその葉を匂いでみると、エイダが言うようにほんのりと花の甘い香りがした。

「香茶にすると、もう少し香りが濃くなるのだけれど、きつくは無くて上品な香りなの。」

 ふふっ、と微笑うディフに向けられたエイダのその笑顔は、ディフにとってやはり面映いもので、何故か心がそわそわしてしまう。

「せっかくなので、これで今、香茶を淹れましょう。」

 この香茶を頂いてから、仕事に取り掛かりましょう、と言いながら、エイダは早速コンロへと足を運び、お湯を沸かす準備を始める。

「僕も手伝います。」

と、アシアが茶葉を持って、エイダとともに香茶を淹れる準備を始めた。

「じゃぁ、俺たちはコップの準備でもするか。」

と、セドリックはディフにそう声をかけテーブルに並べられている食料たちを籠に片付けてから、マグカップなど器が収納されている食器棚へ向かう。そのセドリックの後をディフが追おうとしたそのとき、厨房の入り口付近からウルフの軽く吼える声が聞こえてきた。

 ディフがその吼え声につられ思わずそちらを見遣った先には、ウルフが尾を振りながら厨房の中を覗いている姿がある。

「ウルフ、おはよう。」

と、ディフがウルフへ呼びかけるが、ウルフはディフの呼びかけに軽く尾を振り続けるだけで中に入って来ようとはしない。

「ウルフには厨房に入らないように言い聞かせてあるから、呼んでも入ってこないぞ。」

 食器棚から手際よくマグカップを取り出しながら、ウルフを呼ぶディフにセドリックはそう声をかける。

「どうしてですか?」

と、セドリックの後に続いたディフは、セドリックからマグカップを受け取りながら、問う。振り返ってみたウルフは、この輪の中にとても入りたがっているように見える。

「ここは食べ物が置いているからな。遠慮願っているんだ。」

 ふたりで人数分のマグカップを持ち、テーブルにそれらを並べながらディフは再び厨房入り口を振り返ってみる。ウルフはその場で寝そべって厨房の中を窺っており、その姿はこの中に入るのをとても我慢して、皆が居間へ来るのを今かと待っているようだ。

ウルフは賢いんですね、とディフが言おうとしたそのとき、厨房勝手口からひょこりと、

「あのさ、母さん。」

と、ジョイが入って来た。

 たぶん、いつもの感覚で勝手口から入ってきたのだろうが、入った先にはエイダがアシアと肩を並べて楽しげに香茶を淹れる準備をしている姿があり、ジョイにとっては想像もしていなかった光景だったのだろう。げっ、と思わず放った言葉と同時に、身体が仰け反ってしまった。

 息子のその醜態に、奥のテーブルでディフとともにマグカップを並べていたセドリックが呆れたように片手で顔を覆う。

「ジョイ、失礼だぞ。まずは挨拶だろう。」

 叱責され、我に返ったジョイは慌てて、アシアへ丁寧な朝の挨拶をする。そして、奥のテーブルそば、セドリックと一緒に居るディフにも朝の挨拶をすると、

「お、その服、オレのじゃん。懐かしいなぁ。」

と、ディフが着ている服に見覚えがあったのかすぐ気が付いた。

 ディフは、エイダとセドリックから着るように勧められたとはいえ、ジョイの服を勝手に着たことを嫌がられるかと思い、あの、と声をかけ、

「ボク、勝手にジョイの服を着て、ごめんなさい。」

と目を伏せ、謝る。

 そのようなディフにジョイは、なんで?、と不思議そうな表情を浮かべると、

「ソレ、箪笥に眠ったままだったんだろうし、服は着るものなんだから、誰かに着てもらったほうが服も喜ぶだろう?」

と、エイダと同じようなことを返してくる。

 そして続けて、

「ディフ、似合ってるじゃん。」

と、ジョイはニパッと笑った。

 このようなジョイの反応を見てアシアは、やはりジョイはセドリックとエイダの子どもだな、と感じる。若い分、セドリックより表現が素直だ。しかし、嫌な感じはまったく無い。

 ジョイの許可無く勝手に服に袖を通していたことにジョイから咎められるかも、と少し身構えていたところに、反して褒められたディフは一瞬その藍色の瞳を瞬いたが、すぐに照れたような笑みを浮かべた。

 ディフがジョイの子どもの頃の服に袖を通していることに関しては、セドリックとエイダから勧められてのことであるし、ディフが勝手にしたからではない。ゆえに、ディフがジョイに対して謝罪の言葉を口にする必要はどこにも無いのだが、ディフはすぐに謝る。それはディフが今まで過ごしてきた環境下では、同居家族にかなり遠慮しながら生きてきたからなのだろうし、そうしなければ生きてこられなかったのだ。そして、それしか知らなかったディフは養親宅の生活の姿が世の家族の姿すべてだと思っていただろう。けれどもセドリックの家族と関わることで、ディフが今まで過ごしてきた環境が世のすべてではないと気付いてくれると良い、とアシアは思う。

 養親もディフの側面から見れば一見『悪』だ。だが、養親たちの生活も苦しく、あの国で、あの村で、自身の子どもを育てるだけで手一杯だったはずだ。それなのに色々な理由はあったのだろうが、ディフを引き取りディフをここまで育てたのだ。内情は聞くに堪えない部分もあったが、それだけで彼らを最悪な養親だとの決め付けは、アシアにはできなかった。

 ジョイの褒め言葉に対してディフの照れた笑顔を見て、嬉しそうに笑っていたジョイが、あ、そうそう、と、実家に足を運んだ理由を思い出し、

「ヤギ達を放牧したから、涼しいうちに畑の世話に行って来る、って伝えにきたんだ。何か収穫してこようかとも思って。」

何が良い?、とエイダに訊ねる。訊ねられたエイダは、そうねぇ、と食料が入っている籠を見ながら、いくつかの野菜の名を上げていく。

 それらエイダとジョイとのやり取りをセドリックのそばで見ていたディフが、何か言いたげにおもむろにセドリックを見上げてきた。

「ディフも、ジョイと一緒に畑仕事に行くか?」

 ディフの視線を受けて、セドリックがディフにそう訊く。それにディフが即座に、はい、とうなずいたので、

「アシア、ディフを借りてもいいか?」

ディフの保護者であるアシアの許可を得るための声をかけた。申請を受けたアシアは、柔らかい笑みを浮かべ、首肯する。

 気をつけていってらっしゃい、とアシアから声をかけられ、ジョイとディフは厨房の勝手口からふたり揃って、行ってきますと返事をし、麻袋を持って出かけて行った。

 そのうしろ姿をアシアは暫く見送っていたが、ゆっくりと室内へと振り向くと、

「ウルフ。」

と、厨房入り口で寝そべっているウルフの名を呼んだ。

 名を呼ばれたウルフは両耳を即座にアシアの方向へ動かすと立ち上がり、アシアをじっと仰ぎ見るが、すぐにアシアへの返答かのように軽く吼えると玄関口へと駆けて行った。

「おっ、なんだ。ウルフも付いてくるのか?」

と、遠ざかりながらのジョイの声と、ウルフの名を呼ぶディフの声と、ウルフの彼らに返事をするような吼える声が聞こえてくる。その様子から、ウルフはアシアの命で彼らに付いて行ったようだ。

 ふたりの笑い声とそれに呼応するような一匹の吼えが混ざった賑やかな響きは徐々に遠ざかっていき、そのうち聞こえなくなっていった。


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