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箱庭の管理人  作者: つきたておもち
第1章 序章
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2

 見知らぬ街、決して治安が良くないであろう路地裏を知らず緊張しながら散策していたアシアは、反射的にその手を払いのけると一歩足を引き、瞬時に身体中に緊張を走らせた。しかし、男の身なりと男の陰に隠れる形で、路地奥で佇んでいる子どもらしき人影を視認するとその緊張を解き、

「何か、用ですか?」

声色を普段より低くし、男をねめつけながらゆっくりとした口調で問うた。

 否、問わなくても解る。これは人身売買を持ちかけられている。

 国によっては奴隷制度があり、制度がある国は人身売買を公に認めているが、そのような制度がある国は今やまれだった。たいていの国は『表側』では禁止にしている。禁止ということはそれを実行した者には罰則が科せられるのは当然であり、このような取引に安易に答えるのは詳細を知らない国では危険なことだ。

 この国はどうだったか、とアシアはこの国の法にあまり明るくない記憶の中を必死に探ってみたが、出てこない。特に印象に残っていないということは、たぶん、『表側』では人身販売を禁止にしている国である可能性が高かった。

 しかし、男はアシアの低く硬い声色を気にもせず、

「ほかの子は50だった。でもこいつだけはだめだった。だから、5、だ。」

片手で5を示し、もう片方の手は手のひらを上に向け、いかにもこの売買が得なものなのだ、と代金をせびってくる。

 男の陰に生気なくうつむき佇んでいる子どもをアシアはちらり、と見遣る。

 襤褸を被っただけの粗末な服。もちろん裸足であり、その手足は枯れ木のように細い。それなのに下腹だけが少し出ているように見えているのはおそらく栄養失調によるものだろう。髪は生まれた時から切ったことがないのだろうか、と思うくらい腰くらいまで無造作に伸びており、その姿形から性別の判断はつかなかった。年齢は外見からは4、5歳くらいに見える。

 親から口減らしに売られたのだろうか。

 この国の金銭の価値では50あれば、贅沢しなければひと月は生活できる値だ。5だと一週間は暮らせる。ただし、酒代、賭博に消えてしまうのであれば、5なら一瞬で、50なら一晩と持たないだろう。

 どちらにしても、この国の事情に明るくないアシアがこの手の話にほいほい乗るのは危険だった。無視をして立ち去るのが賢明な判断だ。

 そう考えに至り、返事もせず踵を返そうとしたところ、

「この旦那までだめなら、もうお前はここで野垂れろ。」

 商売ではなく、捨て置く話をしてきた。

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