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 セドリック家の、普段よりにぎやかな夕食を終え、客人のふたりが2階の部屋へ引き上げたことを確認したジョイは、居間の数箇所に置かれているランタンのうち、2個の灯りを消した。そのことにより部屋の中が少し薄暗くなったが、これがこの家のいつもの照度だ。

「それではこれから、家族会議を始めまーす。」

 夕食後の片づけを終えたエイダが自分の席に着くと同時に、ジョイがそのように宣言する。

「なんでお前が仕切ってるんだ、ジョイ。」

 椅子の背もたれに片腕を垂らして、斜に構えた格好で座っているセドリックがそう嗜めるが、

「だって、父さんは当事者だし。・・・じゃぁ、母さんが仕切る?」

そう提案したが、それにはエイダは首を横に振って断った。

 それをみて、ほら、と、

「オレが仕切るしかないでしょう。」

 ジョイはしたり顔になる。

「で、今回はウルフも参加でーす。」

 ジョイの口から続いて出た台詞に、は?と怪訝な表情を浮かべたセドリックへ、

「ウルフも導師様との間であんなことがあったんだし、この家族会議に参加すべきだと思うけど。」

 ジョイの発したその言葉を理解しているのか、セドリックの足元で寝そべっているウルフはそれを肯定するかのように軽く尾を振った。

 なんなんだ、と頭を掻きながら軽くため息を吐くセドリックに容赦なく、

「では、父さんと導師様との、これまでの経緯を端的に説明を願います。」

自身の両手を顔の前で組み、セドリックを見据えながらそう言い放つジョイは、まるで取調官のようだ。

 これじゃぁ罪人扱いだ、と嘆きながらもセドリックは娘が住まう村の現状と、アシア達と宿屋で出会ってから自宅へ招くまでの経過をかいつまんで話した。

 その話の内容から、

「姉さんとチビは元気なんだね。」

とのジョイの質問に、セドリックは、あぁ、とうなずき、

「あの村は、大丈夫だろう。」

と答える。

 村長やその他村の中心となっている人物と会話を交わしたが、彼らは先を見据えて自分達の村が生きながらえるための方策を考え、行動を起こしていた。セドリックが支援物資を運ばなくても何とかなっていたようであり、支援物資を運んだことにより余裕ができたはずだ。また今後についての話し合いにもセドリックも混ざり、思いつく限りの提案をしてきた。

 セドリックのその言葉に、セドリックの隣に座っているエイダが詰めていた息を静かに吐き、安心した表情を浮かべた。

「では、次は導師様のことだけど。」

 次いで、ジョイはあのふたりのことについて、この家族会議の次の議題として口にする。

「父さんの話だと、父さんは最初は導師様のことを、人身売買の売人だと疑っていたんだね?」

 セドリックにとってあまり旗色の良くない方向へ話が進んでいきそうな気配が見えたが、誤魔化すこともできず、

「・・・そうなるな。」

と、正直に答えた。

 と、やはりすぐさま、

「よくそのような、怪しい人物に声をかけたね、父さん。」

「いつも、行動に移す前に、ひと呼吸考えてください、ってあれほど言っているのに。」

と、ジョイとエイダの嘆きの言葉が返ってきた。

 それに対してセドリックは反論はせず、両手を挙げてあっさりと自らの浅慮を認める意を示す。

 彼らが心配するのはもっともな事だ。結果がたまたま良かっただけで、セドリックの行動はどう転がるか解らない博打を打ったようなものだ。反省すべきだとセドリックも思っている。

 しかし、

「とは言ってもなぁ、身体が勝手に動いてしまうしなぁ。」

 出かけた先で何かしでかして家族に心配させてしまうことが今までで片手くらいはあり、そのたびに頭では十二分に反省はする。しかし、セドリックがこのような行動を起こすときは頭で計算する理性ではなく、彼が今まで積み上げてきた経験則による勘に感情が加わったときだ。「感情に突き動かされて」といった部分が厄介であり、一朝一夕に行動変容できるものではない。

 反省顔ではあるがそう言ってしまうセドリックへ、ふたりが同時にため息を吐き、セドリックに対する呆れた感の空気がこの場を支配する。セドリックの足元に寝そべっているウルフも擁護なしの無反応だ。

 誰もセドリックの味方になることがなく、セドリックへの呆れた感の空気が薄まることのない中、じゃぁ、とジョイが口を開き、

「父さんの話からだと導師様とディフの関係って、『買った大人』と『買われた子ども』ってこと?」

ジョイの、アシアとディフのふたりの関係の、確認のための質問が出る。ストレートだが、内容は間違ってはいない。

「そういうことらしい。」

 アシアとディフは当分の間、この村に、この家に滞在する客だ。このふたりと接点が多くなるエイダとジョイには、セドリックが知るふたりに関する、特にディフに関する情報を共有しておくべきだ、とセドリックは考え、この村へ辿る道すがらアシアから聞いたディフに関する内容の、憶えている限りをふたりに隠すことなく話した。

 その話の、ディフが歩んできた今までの彼の短い人生の概況を聞き、エイダとジョイは黙り込んでしまった。

「アシアが言うには、あの国ではディフのような境遇の子どもは珍しくないらしい。あの国は以前からそのような素地はあったんだ。今回の飢饉で顕在化と常態化してしまったのだろう。」

 セドリック自身が持つ情報から、彼なりの分析結果をエイダとジョイに話す。

「姉さん、本当に大丈夫かな。」

 ジョイがいちばんに気にするのはやはり、身内のことだ。ディフのことは気の毒だとは思うが、ジョイにとっては所詮今日出会ったばかりの他人の子どもだ。

「大丈夫だとは思うが、まぁ最悪、最終手段はこの村に避難させることだと、俺は思っている。もともとこの村の出身だし、俺達身内も住んでいるんだし、たんなる難民には当てはまらないからな。入国拒否はされないだろう。」

 セドリックのその考えにジョイも、オレも賛成、と片手をあげて賛同する。

 彼らふたりの話し合いの結論にエイダも続いて賛同するかと、セドリックとジョイはエイダを見遣ったが、彼女はふたりの会話が耳に入っていないのか、何かを考え込んでいる風だった。

「エイダ?」

何か気になることでもあるのか?、とセドリックから問われて、エイダは視線を上げる。

 ふたりから視線を受けていたことに気付くと、エイダは、いいえ、とゆっくりと首を横に振り、

「ディフがこの家に滞在している間、彼に居心地よく過ごしてもらうにはどうしたら良いかと考えていただけ。」

そう答える。

 そして、それと、と、

「導師様が何故、セディが導師様のことを呼び捨てにすることを望んでいるのか、セディとは普段の話し言葉での会話を希望されるのか、不思議に思っていたの。」

 少し目を伏せ、考え込むかのようなエイダが発する言葉に、それはオレも気になってた、とジョイがその疑問に乗ってくる。

 そのことについて訊かれても、セドリック自身も解らないのだから、答えようが無い。セドリックの方が、答えが知りたい疑問だ。

 何故アシアは、セドリックがアシアをその名で呼ぶことを許すのか、セドリックとはセドリックの普段使いの言葉での会話を望むのか。

 アシアは、エイダとジョイにはそれを禁じてはいないが許してもいない。このふたりがアシアを呼ぶときは『導師様』であり、アシアへかける言葉使いも基本、丁寧語だ。アシアはそれに対して、セドリックの時のように異を唱えることはなく、普通に受け入れている。そのことからアシアは誰彼かまわず、普段使いの言葉での会話を望んでいる訳ではなさそうだった。

 彼が自分は導師だとセドリックに明かしたあの場で、彼がセドリックへ見せた表情。その後のセドリックに対してだけの、慣れ感のある態度。

 導師様から気に入られているのだろうか、と不遜にもちらりと頭に浮かんだこともあったが、果たして本当にそうなのか、自信は無い。

「俺にも、解らん。」

 セドリックのその回答に、ジョイからは、本当に?と疑いの眼差しを向けられたが、エイダは、そう、とひと言だけ発すると、彼女は席から立ち上がり厨房へと向かった。


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