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コトヅテ

作者: 蓮巳

はじめまして。こんにちわ。

蓮巳(ハスミ)と申します。

今回初めて短編小説に挑んで見ました。

何卒至らない部分が多々あるかと思いますが暖かい目で見ていただけると嬉しいです。

その日は何もかもが最悪な日で全てを投げ出したいと思っていた。自分がしてきた事は正しかったはずなのにそれが信じられなくて自分が決めた道さえ見失っていた。そんな最悪な日だったのだ。

「…暑い…」

業火の如く熱風を吹き荒らす混凝土の地面は足から全身に回るように熱が纏わりついて離れない。どれだけ足を地面から遠ざけても地面から放たれる灼熱の熱風は私の身体を疲れさせる。元々暑さには弱い方で毎年必ずと言っていいほど熱中症になるのだ。どれだけ予防策を練ろうとしても毎年この灼熱地獄は私を苦しめる。つい先日も『熱中症警報』が出されていたから対策として水を飲んだり、経口補水液などを摂取したりして対策を取っていたというのに酷い高熱と身体の怠さに見舞われて急遽一人で病院に行ったところ熱中症と診断された。またか、と一人がっくり肩を下ろしてグラグラと回る視界の中で家で寝込んでいた。本当に夏は大嫌いだ。何もいい事なんてない。熱中症のせいで高校の学校祭にも出席出来ず、高校最後の夏の醍醐味は幕を閉じられてしまった。おまけに病院に一人で行った事が親にも勘づかれてしまい挙句の果てには高校を三日も休んだ事が親にもバレてしまい大きなため息を吐かれて嫌味残味の日々を過ごした。いつも家になんてほぼいない二人が寄って集って言ってくるものだから心底うんざりした。早朝から夜更けまで家にいる事なんて無い二人だから学校に行っていない事がバレないと思っていたが高校の担任から私が休んでいる事がもしかしたら不登校なのでは、と心配するような電話が母親に来たらしく思わぬ所でバレてしまった。熱中症で熱が下がらず休んでいただけだというのに二人は私を頭ごなしに怒鳴った。通常運転と言えばそうなるのだが高熱もあって二人の話は幾度と頭に入ってこなかった。頭はグルグル回っていてヒステリックに怒鳴る母の声は耳を劈くよりも頭が割れそうなほど脳に響いて頭痛がした。学校休んでいた事で勉学が劣り大学にいけなくなることを懸念した父は勉学に遅れを取った私の頬を一度叩いた。昔からだ。二人は互いに罵り合う仲睦まじいとは程遠い関係性で成り立っているのに私の事にんある息を合わせるように怒鳴り散らすのだ。そうだ。まるで。はけ口を見つけたかのように日頃の鬱憤を私に吐き出す。

『お前なんて出来損ないだ』

二人は呼吸を合わせるように同じ言葉を何度も口にした。知ってる。知っているよ。私は何の取り柄も無くて勉強も父や母の望むものになれなくて怒鳴られたって仕方ないぐらい自分自身がよく分かってる。けれど、ほんの少しだけ労りの言葉を掛けて欲しかった。心配もして欲しかった。互いに家にいないから仕方ないとは思っている。けれど、高熱で魘されている実の娘を前に何時間も正座をさせて怒鳴り散らす二人に少しだけ悲しみを覚えた。いつからか二人に意見を言う事がなくなって次第に会話すらなくなった。意見を言えばヒステリックに「私を悪者にしたいのだろ」と母に怒鳴られ、望むような点数が取れない時や小テストでの点数すら悪い時は「誰に似てそんな出来損ないになったんだ」と怒鳴る父という二人に挟まれれば自然と何も言えなくなっていた。兄弟だっていない私にとって誰も救ってくれる人はいなかった。二人は顔を合わせる度に早朝から怒鳴り合う仲なのに私の事になるとまるで口裏を合わせていたかのように息が合い私を酷く罵り責め立てる。どれだけ父や母の望む事をしてもあの人達の思い通りの子にはなれやしなかった。きっと寝坊した今日の事だって両親に電話が行くだろう。例え私が学校に遅れる事を伝えたとしても今日の学校帰りには母からお叱りの電話っが掛かってくる事だろう。

気が重い。何を考えても気が重たい。いい方に転ぶ事なんてなくて結局寝坊した私が悪いのだ。けれど、どれだけ勉学に励んで満点を取ったとしても父は結局私を罵るのだ。考えるだけで憂鬱になる。学校に行きたくない。家に帰りたくない。こういう時はいつも思い出すあの頃を。酷く懐かしくて恋しくて堪らない。会いたい。恋しい。どこにいるのだろう。私の悲しさを埋めてくれる愛しい子。いつも私と並んで歩いてくれて。いつも私を心配してくれた心優しい子。けれどそれはただの思い出にしかならなくて会いたくても恋しくてももういない。共に並んで歩いたあの場所にも戻れない。悲しくて。寂しくて。でも、もう涙なんてこれっぽちもでなくなっていた。

──私の居場所はどこにあるのだろうか。

「すみません、お隣宜しいでしょうか?」

唐突に聞こえた声に思わず肩が跳ねた。人なんて幾度と見かけた事のないこんな田舎の駅には珍しく七十代ぐらいの着物を身につけた貴婦人が日傘を差して微笑んでいた。その佇まいがテレビなどで出てくるようなお金持ちのような貴婦人に見えた。日差しに透けるような白い着物はシンプルな柚が描かれた初めて見た柄の着物だった。夏だというのに着物を身に付けて白い日傘を差す女性の姿は不思議と暑ぐるしさを感じさせなかった。きっと高価な着物なのだろう。薄緑の帯がどこか夏らしさを感じさせていてどこか羨ましく思えた。これだけ綺麗な格好をする事が出来るのだ。きっと私が日常的に浴びている暴言なんて浴びた事なんてなさそうな程に穏やかな表情の女性だった。日傘を差したまま私を見つめる女性から顔を逸らして小さくどうぞ、とだけ伝えた。女性はありがとう、と笑みを浮かべながら日傘を閉じて私の隣に座り込んだ。どこか足でも悪いのか女性は左足を庇うようにゆっくりと腰掛けて小さく息を吐いて小さなカバンからハンカチを取り出して額と頬に滲む汗を拭いていた。少しでも女性から離れるように身体を僅かに傾けて間に女性と私の間に出来た隙間に邪魔にならない程度に鞄を詰め込んだ。

「暑いわねえ」

「…そうですね」

「今日はね、今季一番の暑さなんですってねえ」

「…そう、なんですか」

「こんな暑かったらアイスのように溶けてしまいそうようねえ」

「……あなたのお着物も暑そうですね」

困ったように笑う女性は興味無さげに相槌を打つ私に一方的に話し掛けてくるものだからつい本音が漏れてしまった。丁寧な言葉で話し掛けてくる良い人そうな女性は私の無関心な態度に怒る事もなく寧ろズイっと顔を近付けてきて嬉しそうに着物の話をし始めた。嫌味な言葉をポジティブに取ったようで私が着物に興味がある人と受け取ったらしい。女性はさも楽しそうに自分の身に付けている着物について語り自分の名前の果物が描かれた着物は大切な代物のようで女性は他の持っている着物についても話し始めた。女性が持っている着物は一式全てが揃っており頂き物のようで大切にしているのだそう。口元を抑えながら頬が綻ぶのを隠すようにしていたけれど、目尻の皺は女性の嬉しさを隠しきれてはいなかった。どうしてそこまで喜べるのか。人から貰う物がそんなに嬉しい物なのか。私には女性がそこまで喜ぶ表情が羨ましくて仕方なかった。私と住んでる世界が違うように見えて自分が惨めに思えた。きっと幸せな世界しか見てないんだ。

きっと息が詰まるような世界を知らないんだ。

ぐ、と拳を握り締めて椅子から立ち上がった。その瞬間だった。グラ、と視界が反転し地面からあっという間にまっさらな青い空一色が視界に広がった。

女性の声がどこか遠くで叫んでいるように聞こえてきたけれど反応なんてできるはずもなく意識が途切れていった。


「慎さんっ…!慎さんっ…!!」

私は熱すぎる彼女の身体を支えながら椅子に寝かせた。背筋に冷たい汗が滲む。怖かった。細く華奢な身体がまるで人形のように崩れていく様を見た時にどこか既視感を感じた。彼女に届くようにぐったりとする身体に呼び掛けても彼女は少しも反応しなかった。震える指先でどうにかせねばならない状況を打開するべく少ない脳で考えた。この子は昔から身体が弱い子だった。小さい頃はいつも寝込んでて夏休みは布団の中でほとんど居た気がする。その時、はたと何かを思い出して水分を探した。

「ネッチュウショウ…かも…しれないわね…」

そうだ。昔男の人が『たかだか熱中症くらいで』とこの子に怒鳴っているのを見た記憶がある。彼女はいつもその人に怒鳴られる度に悲しげな瞳をしていて布団の中でいつも一人泣いているのを見た。彼女はいつも一人ぼっちで泣いていて誰かの前では決して泣いている姿を見せない。寂しくて。悲しくて。強がる彼女の背中を私は見てきた。地面に落ちて散乱している彼女の鞄から水筒らしきものが落ちていてそれをすかさず拾い上げた。カラン、と氷の音が聞こえて思わず蓋を開けて水が入っているのを見た。焦る身体を落ち着かせるように大丈夫、大丈夫、と何度も自分に言い聞かせながら彼女の上半身をゆっくりと起き上がらせて乾いた彼女の唇に水筒を持ってきた。

「少しでも飲ませないと…」

彼女の薄く開いた唇にほんの僅かに水滴を落として口の中をゆっくりと潤わせていく。口から零れる雫っが余計に不安感を募らせる。本当にこの行動があっているのかもわからない。私の判断で彼女を失ってしまう事が余計に不安感で一杯にさせた。震える指先は動くけれど本当に自分のものなのかわからなくなる。何度も動いているのか確認しながら彼女の唇を確認した。その時僅かに嚥下した喉に何度も彼女を呼び掛けた。まだまだ暑さの抜けない体にどうしたらいいのかわからない頭の中で必死に記憶を思い出させながら彼女の鞄から溢れていた一冊のノートを拾い上げて彼女に向けて仰いだ。少しでも熱が抜けてくれれば、と言う望みを持って彼女の熱い頬に触れた。

「……あなたは…柔らかくて…とても…とても小さいのね…」

彼女に触れる度に余りの小ささに怖くなる。私の掌よりも小さくて細い手はあの頃は大きくて温かさを感じて心地良かったのに。こんなににも小さくてまだまだ幼い赤ん坊の手のように見えた。昔よりもかなり短くなった髪は三つ編みやおさげなんて出来ないけれど彼女にはとても似合っていた。額に手を当てて目元や頬にゆっくりと手を滑らせていくと灘らかで昔のようなふっくらさはなくなってしまったけれどそれは同時に彼女の成長を感じさせてくれた。それが酷く寂しくて嬉しくて感じた事もないモヤモヤ感が胸に湧いた。母性というべきなのだろうか。子の成長は早くて親から去って行くのなんてもっと早いのだ。けれど彼女はまだまだ子供で幼い。一人では生きていけない程に小さく幼いから不安になる。あどけなさの残る彼女の表情はいつも眉間に皺が寄っていていつも辛そうにしているのを私は見てきた。何度もその手に触れたかった。何度も怒鳴られる彼女の姿を見る度に胸がどれだけ傷んだ事か。

「慎さん…ごめんね…ごめんね…」

彼女の頭を撫でながら何度も謝罪の言葉を呟いた。長かった。長くて。長くて。気が遠くなりそうな時もあったけれど彼女の表情を見るだけで私はいつも助けたい気持ちを諦めずにここまできた。隣に座った年老いた老人を嫌な顔一つせず座らせてくれた。その時にどれだけ嬉しかったことだろうか。どれだけ待ち望んだ事だろうか。彼女の柔らかな頬に触れるとほんの少しばかり熱が下がっているように感じた。あの時から何年も何年も探した。私にはもう帰る場所なんてないけれど少しだけでもこの子の傍にいたい。彼女の汗で滲む額を何度もハンカチで拭き取りながら彼女の懐かしい幼い顔を眺めた。すると薄らと彼女の瞳が開きまだ意識がはっきりとしていないのかぼんやりとした瞳で私を見ていた。

「…ぁ…れ…」

「だ、大丈夫かしら…?どこか痛いとか辛いとかないかしら…?」

「……ぁ、たま…痛い…」

「 …っあ、頭が痛いのね!」

ゆったりと数回瞬きをしてもぼんやりとしたままの彼女に問い掛けると辛そうに顔を歪めて小さく囁いた。彼女の周りに何か落ちていないか鞄の周辺を見渡しつつ散らばったっままだった鞄の中身をかき集めていると少し大きめのタオルを見つけた。それを手に持ち周囲を見渡すと小さな駅構内の傍らに゛天然水゛と書かれた水飲み場を見つけた。人間の暮らしの中でこんなものが今でもある事に驚いたが思わずそこに駆け寄ると蛇口とは言えないまるでししおどしのように竹筒からチョロチョロと流れ続けている水を見つけた。どうやらここの無人駅には山から挽いた湧き水を持ってきているようだった。すぐに手を翳すとまるで冬の水のように冷たい冷水が出てきていた。夏というのを忘れてしまいそうなほどに冷たい冷水は年老いた私の手には染みるように冷たかった。ジンジン、と霜焼けになってしまいそうなほど冷たい水を素早くハンカチに浸し絞った。ひんやりと冷えきったハンカチを彼女のとこまで運びすぎに辛そうに眉間に皺を寄せる彼女の額にゆっくりと乗せた。余程冷たかったのか彼女は唸り声を一瞬上げたもののすぐに気持ちよさそうに眉間の皺を無くした。薄らと開けた彼女の瞳が私を見据えて小さく囁いた。

「…あり、がとうございます…」

「ぇ、あ…い、いいのよ。体調悪い時ぐらいはね大人に頼るものよ」

頭側の横に空いていた椅子に腰掛けて申し訳なさそうに私を見つめる彼女に微笑んだ。しっとりと汗を吸った髪が頬に掛かっておりそれを指先で取り払うと彼女は私の言葉に瞳を大きく見開いた。

「…頼らなくたくて……生きて、いけます…よ…」

「…あらあら、っまだまだ子供なんだからそんな事気にしなくて」

「…そ、んなこと…?」

彼女はむくり、と気怠げな身体を起こして私の言葉を遮るように私を睨んだ。その瞳は私の放った言葉に疑いと嫌悪感を感じたような怒りに満ちた瞳だった。彼女はぐ、と拳を弱々しく握りしめながら私を凝視した。彼女の額に乗せていたハンカチが落ちようとも彼女は私を睨み付けていた。その瞳に胸が締め付けられるように痛んだ。

「こ、ども…?ふざけないでよ…私よりも大人の方がずっと…ずっとずっと子供よ…っ!!」

「っ、落ち着いて…」

「自分達の…自分達の感情だけで人を怒る癖に…何が大人よ…っ!子供の方がずっと大人よ!大人の言う事をしっかりと聞いて…聞いて聞いて聞いているのにっ…!理不尽に怒る大人なんて…いない方がずっと…ずっといいわよ…」

真っ赤な頬にぽろぽろ、と落ちていく雫に血の気が引いた。悲しませたかったわけじゃない。ここまで彼女を追い詰めたかったわけじゃない。手が白くなるほど拳を握り締める彼女の手に触れようとしたが彼女はそれを汚物でも払い除けるように私の手を叩き落とした。手が震えた。悲しくて。心が痛くて。彼女の言葉に何を言い返したら正解なのかわからなくなった。誰の事を言っているのかわかっていた。世の中の大人達。己の父や母。きっとその中に私も含まれた。守りたかった。傍にいて上げたかった。けれどそれは叶わなくて何年も。何年も経ってしまった。何時までも傍にいたかった。彼女の愛らしい微笑みを守りたかった。私を見てくれていた優しい瞳を持つ彼女を守って上げたかった。けれど私は結局何も出来なかった。嗚咽を漏らして崩れるように椅子に項垂れる彼女の背中はまだまだ小さくて彼女の背負う多大な闇は余りにも大き過ぎた。それあ酷く切なくて。申し訳なくて。自分の不甲斐なさを感じた。何も出来なかったあの時。私はただ彼女が涙で濡らす瞳を拭って部屋に走って行く姿を何度も見たのだ。けれど、今の私は。

「…し、んさん…ごめんなさい…ごめんなさいね…」

顔所の小さな背に向かって思わず彼女の名を口にしていた。私に出来る事は決まっているのだ。決まっていた。ずっと。ずっと。辛い思いをしているのなら、と。もう後戻りは出来ない。前にも。後にも。私には道がない。彼女の小さな背に触れた。細くて華奢な身体はあの頃よりかは大きくなっていたのが何よりも嬉しかった。ニコニコと幼い笑顔を浮かべていた彼女の成長を見て。触れられた事が何よりも嬉しかった。彼女はゆっくりと身体を起こして怪訝そうに私を見た。なんで、と小さく零した彼女に微笑む事しか出来なかった。だってもう私には今日しかないのだから。彼女の華奢な肩に触れて優しく抱き締めた。彼女の体は思ったよりも小さくて見た目よりも細かった。彼女の髪を優しく撫でながら何度も謝罪の言葉を言った。守れなかった後悔と彼女をいつまでも見守っている事を。

「私はね、ずっとあなたの味方よ。あなたが私にしてくれた優しさを私はいつまでも忘れない。ずっと。ずっと私は……ハナは、あなたの味方よ」

「……な、にを言って……」

「やっと言えたわ。ずっと心残りだったの。あなたを残して逝ってしまった後悔とあなたの笑顔を取り戻せなかったことをお許しください。ハナはあなたと過ごした時間をずっと忘れません」

「…は、ハナってどうしてあなたが私の飼い猫の事知ってるのよ…っ!!どう、して…!!」

ポロポロ、と零していた雫が頬に流れていくのを見て胸が傷んだ。彼女にはいつまでも笑っていて欲しい。私はずっとそれだけが希望だった。我が子のように彼女の成長を嬉しく感じて。きっと信じて貰えない。信じて貰えないけれど。

「…私の最初で最後の願いなんです。猫の姿を話せません。あなたと話せた時間は大切な私の思い出です…あなたがずっと笑顔でありますように私はずっとそれを望んでいました。お盆の最後に…あなたに会えて嬉しかったわぁ…」

自然とぼやける視界に彼女の姿が見えた。心残りは何もない。これだけ嬉しい思い出を作れたのだから。彼女っが私の言葉を信じなくても。私は自分の思いの丈を言えたから。彼女は静かに私の言葉を聞いていて抱き締めた身体から力が抜けていた。きっと気持ち悪がられる。それでもいいのだ。もう彼女と話す事はできなくなる。今日が私の最初で最後の人間の姿だ。例え嫌われようと。

「…本当にハナ…なの…?」

「…ええ、今日だけ人の姿にして貰ったのです。あなたに伝えるために…」

「……ズルい、じゃない…そんなの…」

「ズルい…?」

「私だってハナに会いたかったんだよ…ずっと…昔から私の傍にいてくれて泣いても私の傍に居てくれるあなたがずっと大好きだった…どうして…きょうだけなの…」

「…みなさん、今日だけなんですよ。お盆に大切な人と合わせていただける日なのです…たった一つだけ願いを叶えてくれる日。だから私は頼んで一回きりの願いを叶えて頂いたのです」

「…なんで…どうしてなの…ずっと…ずっと傍にいてよ…」

「…ハナはずっとあなたの傍におりましたよ」

「…え?」

「私は猫の姿でずっとあなたのお傍にいました。今までずっと。これからも…それでは駄目でしょうか?私はずっとあなたの味方です…ずっとあなたの傍にいます…だから…だからこれ以上はあなたに泣いてほしくないので、す」

零れた雫が彼女の肩に落ちていった。

彼女は私の言葉をただ聞いているだけで何も言わなか。けれど、私の背中にゆっくりと回った彼女の手にどうしようもない嬉しさが込み上がった。

「…これからも…傍にいてくれる…?」

彼女は震える声で小さく呟いた。その言葉だけでも嬉しかった。初めて彼女が自分に甘えてくれた事が。我が子のようにしたっていた彼女が初めて私に求めたのだ。それが嬉しくて涙が溢れた。サラサラ、と消えていく手と身体が空に浮いていく感覚に彼女に伝えた言葉に思い残す事は何もなかった。

「私はずっと…ずっとあなたをお慕いしております。ずっとあなたの味方です。いつまでも…!!」

天に昇っていく感覚と意識が遠のいていく感覚に笑顔が溢れた。



「……あ、れ…?」

駅のホームの椅子に私は寝そべっていた。慌てて椅子から起き上がると傍らには濡れたハンカチが綺麗に畳んで置いてあった。とても嬉しくて。悲しい夢を見た気がした。けれど何も思い出せなかった。何一つ。確かに嬉しい夢で誰かと。誰と?話していたのに。首を傾げながら不思議な感覚を感じていると電車の汽笛の音が聞こえてきて鞄を手に持った。椅子から起き上がった時どことなく胸の奥がすっきりとしているようだった。棘のような物が確かに胸の奥に刺さっていたはずなのに。すっぽりと取れていてどこか悲しさも感じた。その時、家に置いてあった飼い猫の遺影を思い出した。

「……今日は、ハナの大好きだったおやつでも買いに行こうかな…」

いかがだったでしょうか?

きっと語彙力や言葉が足りない部分が多かったものかと思います。

自分的にはもっと精進させていただきますのでこれからも応援よろしくおねがいいたします。

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