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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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何でもエルって付けたいよね。

「ここが喉、この当りが頭蓋です」

そんな説明を聞きながら、胸の所で丸くなるアヤメを落ちないように抱き寄せる。


(多分、ヤールは落ちても本気で放置するだろうからなぁ)


「ん、ん、」ごそごそと姿勢を変えようと動くアヤメに、猫か犬を抱いているような暖かさと重みを感じる。


「ハイ!オマタセしました、ここが人体の神秘!人格・記憶・魂の宿る地、脳と脳幹であります!心臓のように筋肉でありませんので傷・衝撃に注意を、


 最悪この脳の持ち主が植物状態の廃人になりますので・・・『着いたんだ、いいかげん勇者様から降りろよ!小娘が!』」


 間近で聞いた悪魔の声は太く、同時に老婆が脅すような声にも聞こえる。


(どっちが作った声かは解らないけど、悪魔ってのは面白い声質?だよなぁ)

それか発声器官が二つあるとか?


・・・「降りるから・・」顔を伏せたアヤメさんは足を伸ばし、オレが手の力を緩める事で脳に続く太い血管の上に立った。


「で、オレも下ろしてくれ無いか?」

「イヤです!」即答だった。


・・・・・・もう一度「下ろしてくれ」と頼む事で腕の力が抜けて立上がる事ができた。

時間も無いんだ、我が儘[まま]はやめて・・アレをなんとかしようじゃ無いか。


 脳に張り付き・巻き付くような無数の糸と、それに乗る細い手足。

蜘蛛のような身体と垂れ下がる長い髪。


「アレがこの場所の[核]か・・・」

 このオレ達の足元まで伸びる蜘蛛の糸を触ったら・・来るよなぁ・・アレの何が天使だよ!


 深い溝と、焼いた脂肪のような柔らかい足場に這う不気味な生物が顔を上げる。

長い髪で目を隠し、と口元だけ見せる細いあご。


「ああ?ガギヱルからの信号が消えたから、何かと思えば。あの脳無し、殺られたのか」

成人した女の声、どちらかと言えばおばさん?のようで、若い感じでは無い声がした。


「この身体の持ち主を解放する目的でね、話が出来るなら穏便に解決したいんだけど」

 おれ達は殺し合いとか、求めてないから。


「・・・会話ねぇ、あんたが何者か・・何となく解るよ。この脳味噌の反応から見て、アンタが勇者サマだろ?まあ・・お会い出来て光栄って言えばいいのかねぇ・・」


 細い手を持ち上げ、困ったようにその先の尖った部分で頬を掻く、女の声をだす虫のようなアレが敵か。


「自分で言うのも恥ずかしいけどさ、周りにはそう言われている。」そう、周りのヤツらにはな。


「そうかい・・ならこっちも名乗るしか無いわけだねぇ・・一応、教会の人間にはアラウネェルって言われるよ。


 見てのとおりの・・人造天使さ。目的は、この男の殺意・敵意・悪意・妬み・憎悪・怒りを暴走させアンタを、勇者サマを殺させる為に脳に信号を送ってるのさ、この糸でね」


 アラウネェルは糸を引きピンッと弾くと脳の持ち主が暴れだし、中にいる勇者達の足場に強い地震のような揺れが伝わって来る。


「つっ・つまりアラウネェルは、オレには直接恨みは無いわけだろ?ならコイツの身体から出ていってくれたら」問題は解決する。


「ワタシには、恨みは・・無いんだよ。でもね、造られたからには、道具として果さないと存在する意味は無い。そうは思わないかい?

 まぁこの男を操ってアンタを殺すか、直接殺すかの違いだよ。


 それにね・・この身体の持ち主だって、完全な操り人形ってわけじゃないんだ、アタシが敵意を増幅させているだけで、悪意も憎悪も本人に元からあった感情さ。

[勇者を殺したい]って感情をアタシが植え付けたわけじゃないからね」


 ははは、なんだか知らないうちに世界中のヤツ等から嫌われているなオレ、勇者ってのは本当に嫌な人生だよ。


「造られた道具だから、そうしないと意味が無い・・か。そんなクソッタレな理由で殺し合いなんか、クッソ、くだらない。

 オレはそう思って逃げ出して、だから今、こんな場所にいるんだよな。それが答えだよ」


 本人の・アラウネェルがオレを殺す動機が、自分を造ったヤツが言ったから?そんなクソみたいな理由に、たった一つしか無い自分の命を賭けるのか?馬鹿馬鹿しい!


「面白いねぇ・・あんた。でもさぁ、やっぱり駄目だね。

 アタシにも一応は義理ってやつがあるのさ。


 バケノモから・・ただの化物から、ヒトに怖がれない程度の[天使]ってヤツにしてもらった義理がね!さぁ遠慮無く掛かって来な、勇者サマ!」


 両腕を上げ、腹に生えた細い足にも糸を伸ばして網を作りだす。


「ようやく戦闘か、ならオレも役目を果そう」

身体を広げたアラウネェールの影からもう1人、トゲの付いたY字を掴む大男?が前に出て姿を見せる。


「紹介はいらない、オレはメズヱル。神殿からは、このアラクネを守護しろと命じられた。

戦うなら誰であろうと叩き潰す。それだけだ」


 馬の頭を持つ赤褐色の大男は、見ただけで太く締まった筋肉と頑強な骨格だと解る。

(馬頭ヱル?)地獄の獄卒にそんな感じの鬼がいたような・・・


「メズヱル、お前にはどんな理由が」

「必要無い、敵は倒す。使命は守る、それ以外の女々しい言葉は不要!」


 多分だが、お前と気の合いそうな女子を1人知っているよ。この場にいたら紹介してあげようか?

 ゲンコツで会話お互い会話して、納得してくれたら殺し合う必要は無いよね。


 チラッと横を向くと、深く頷き[解る解る]と。直後オレの視線に気が付きゲンコツで殴られた。(なぜだ?)理不尽過ぎる!


「勇、お前はメズヱルを倒せ。言葉より拳!ヤツとは肉体言語で解り合うんだ!私は向こうの化物を倒す、時間が無いのだろう?なら競争だ」


 ガシガシと拳をぶつけ、狙いをアラウネェルにしぼるアヤメさんはニヤリッと頬を上げ走り出した。


(油断とかは・・無いんだろうけど、気を付けろよ)多分アレは遠距離・中距離型だ。


「作戦会議は終わった様だな、オレの相手はお前か」

 

 距離は、十分あった。弓の距離では無いが、武器を変える程度は余裕がある距離だったはず。

だがメズヱルが言葉を終えた直後、そいつはオレの前に存在しトゲの付いたY字の棒を振り下ろしていた。


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