悪魔に願い、神にかけられた呪いを解く。
「と言う嫌疑が掛っているんだ、大人しく出て来てくれ」
砂にもぐるモグラの背中を見るように、黒い背中を向けて顔を隠すライヤーを見下ろし、その背中に声をかけてみる。
(まだ回復中とかじゃ無いと思うんだけど・・)重傷なら動け無いかも知れないし。
「・・どう言う事だよ、嫌疑って・・まぁいいか、ちょっち向こうを向いていてくれ。今の姿を見られたく無いんだ」
オレが了解し、背中を向け声を掛けると、[中回復][中回復]回復の魔法が続けて唱えられる。
その後、背後でゴソゴソ・ガサガサと砂から這い上がりなにかしている音が聞こえた。
::セミとか?・・本当の姿が昆虫みたいだったら・・見てみたい気がする、
(大体の場合、『見るな』と言われて振り向いたりしたら羽根が生えて飛んでいったり、呪いを掛けたりするんだよなぁ・・男と漢の約束だから見ないけど)
「・・オレが言うのもなんだがよ・・さっきまで敵対していたヤツに、アッサリ背中向けるのはどうかと思うんだが」
コンコンと肩に当る槍の柄は、もうこっちを向いていいって合図だな。
「誰にだって見られたく無い物・触られたくない物はあるさ、逆鱗っていったか?それに・・背中から刺すようなヤツじゃないってくらいは信用しているから」
コイツがその気になれば、正面からでも十分オレの心臓を貫ける。おれが生きているのはコイツが今まで手加減してくれたお陰だと思っているし。
正体を見られて逆上した男に殺されるなんて、つまらないだろう?
「ふ~ん、まっいいか。ヨシュアの事だろ?向こうに着くまでに説明してくれ」
ボロ布になった僧服を肩で縛り、槍を肩に抱えながら歩き始めた。
「先に行くなよ、説明するからさ」全く、聞く気があるのか無いのか。どこまでも解らない男だ。
・・・「何と言うか、不快なんですが」ヤールの第一声がコレだった。
「一応負傷者なんだから、走らせるわけにはいかないだろ。それに説明だって」
「まっ、連れて来いって言われたって、説明だけしか聞いてないんだけどな」
だってソレしか聞いてないんだから、仕方ないだろ。
「・ソコの虫、アレの[呪]をお前の目なら見えるのだろう?」
右手は相変わらす魔力を宿し[重力縛]を行使し、左手でもがくヨシュアを指さした。
「・・・[呪]・・な、まぁ一応見えるちゃ・見えるんだが・・やっぱ、アレは呪いの類いだったか」
ライヤーの光る目には何が見えているのか、困ったように頭を掻く。
「勇者様、その虫は仲間と称して人間に呪いをかけ、勇者様に嗾[けしか]けるようなヤツですよ?そんなに仲良さそうにしていては勇者様も呪われてしまいますからね!」
離れて離れて・・「離れなさい」
最初は手で追い払うような仕草だったが、最後にはライヤーを睨み命令する。
(なんだかなぁ、初対面なのに仲が悪い)
・・そんなに悪い奴とは思わないんだけどな、見た目と結果・表面上の印象と中身が違う事なんて、人間には良くある事だ。
(特に王族とか・教会の司祭とか、な)
ヤツ等は組織の中で権力闘争で生き残った怪物達だ、腹の中と言動・表情が違って当然。信じるヤツが馬鹿なのだ。
「って事なんで、有罪・ギルティでいいだよな?ライヤーお前を倒せば、アイツは元の・・まとも?な状態に戻るんだよな?」
完全に気絶させるとか?出来るかどうかは解らないが。
「・・『呪いをかけたのは、オレじゃない』って言ったら信じるか?」
槍を地面に挿して腕を組み、少し考えたような顔をしたライヤーは指で頭を掻いてそう言った。
「ああ、信じる」
オレの仲間を殺さずにいた男の言葉だ、自分の仲間だって大事にするはずだろう。
「即答かよ!・・まぁオレが掛けた呪いじゃないってのはホントの事だがよ・・」
信じ過ぎだぜ、全く。
ある程度信頼している男の言葉を信じる事の、どこに問題があるのだろうか?
ん?何故か悪魔の機嫌が悪くなった感じがする、なぜだ?
「・・はぁ、兎に角!アレは呪われ、コレは見える!見えると言う事でも仲間の呪い状態を放置して置いた事は事実!責任の全てはコレが悪いのです!その人間を信じては駄目です!」
アレコレ・・本当に興味が無いんだな・・[見えている]、か。なら呪いを解呪すれば・・呪いの装備だって、呪いを解けば外せる訳だし・・
「ライヤー、呪いが見えるなら、取り除けるんだろ?」
誰かが・本人が望んで身に付けた呪いだとしても、教会の司祭や神官なら外せるはず。そしてライヤーも、倒れてもがいているヨシュアも教会の僧兵のはずだろう?。
「・・・それがなぁ・・無理なんだよ。アレ・・ヨシュアの[呪]ってのは光りの・・聖なる物に起因する感じでな・・正直、そいつに呪いって言われるまで疑ってたくらいだ」
[神聖系の呪い]そんな物があるのだろうか?・・
ああ、(あるな、[勇者]って呪いに事実かけられているし)
死んでも勇者を辞められないように、ヨシュアの呪いも解けない。
「そうなのか?」
この男は勇者じゃない、多分殺せば呪いは解ける。その方がいいのか?殺すしか無いのか?本当に。
・・・「困った顔もお可愛い。私の勇者様、御命じ下さい。[呪いを何とかしろ]と」
影の様に黒い顔は、多分すごくいい顔で微笑んでいるのだろう。
さぁさぁさぁ、命じて下さいって顔になっている。
「頼んだら・・出来るのか?」僧侶でも解けない呪いを解く方法を知っているのか?
「フフフ、私は悪魔ですよ?神の・神聖系の呪いなど解く方法を知っているに決っているではありませんか?」
天使、神に作られた神の意思を伝える神の使い。
だが、堕天使と呼ばれ・地に落ち悪魔と呼ばれる者になった者達は、神の支配から逃れたとも言える存在だと言う。
当然古代の神・零落し、貶め[おとしめ]られた古代神・各地に根付いていた神々、彼等もまた、邪悪と呼ばれ悪魔にされた。その彼等も、[神]と言う呪縛から逃れた存在であるとも言える。
「アレが、ヒトの作り出した神教の呪いであるなら。神聖とは真逆の属性である、悪魔が行って砕けば良いのですよ。
なに人間の信仰には核って物が不可欠ですからね、多分アレの身体に埋っているのでしょう?」
一神教の光りで出来た物を、一神教の光りでは砕けないのは当然だが、カレに不要と切り捨てられ、貶められた者ならキズ着け砕けると言う事らしい。
独自設定です、神様の解釈は人それぞれ、悪魔の解釈も人それぞれ、と許して下さい。




