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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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勇者は悪魔に願う。

 仮契約が終了したのか、足が地面に浮かび立ち。黒いシルクハットを取ってから深々と一礼して嬉しそうに顔を上げた。


「では、我が主人様。御命じ下さい、『敵を滅ぼせ』と『邪魔する者を灰燼に帰せ』と!」

 殺し尽くしましょう!焼き尽くしましょう!ワタシの勇者様の為に!


・・・それは、勇者のする事なのか?オレに物騒な事を命令させないで下さい。


「スマン、殺すのは・・出来る限り・・止めてくれ。殺さないように無力化、出来るか?」


 こいつらは、殺すような敵じゃない。上司に言われて来ただけの・・勇者候補・・勇者なんかに選ばれる前のオレと同じなんだ。

 多分・・育てられた施設が違うだけの、兄弟みたいな物なんだ。


「だから、頼むよ」


・・・「だから、なのですね。・・フフッ、[無力化!]承りましたワタシの勇者さま!敵の無力化!主人様が悪魔に願う最初の命、見事完遂させて見せましょう!」


「死ぬなよ、虫けら」

 ボソッと呟くと、ヤールは両手に魔力を集め、光の収縮と共に[破壊]の魔法が完成した。


 両手を合わせ閉じ・左右に手の平が開いた時、ソコには小さくも儚い魔力の塊があった。


 魔力の塊は、開いた両手をゆっくり伸ばすように差し出したその先に、頼りなく浮かび進む。

そして爆発の音を置き去りにして炸裂した。


 静寂と光りを飲み込み進む黒点は、臨界に達した瞬間!閃光と衝撃を吐き出し、遅れて暴風を立ち上げる。


 勇者は突如現れた悪魔の背に守られ、破壊の瞬間とその先を見る事は出来なかった。


烈風に砂が混じると、それは肉を削り衝撃破をかわしても肉体を切り削る。


(やり過ぎだ)違う、悪魔を非難するのは見当違いだ。

 コレはオレが命じた結果なんだ、悪魔がやり過ぎたのならその責任はオレにある。


 風がまだ残る中で勇者は飛び出し、ライヤーの姿を探す。

「生きてるか!死んで無いよな!」


 砂煙が収まった時、そこには黒い・・赤黒いモノがうずくまっていた、肉の胎動と共に砂にもぐるように身を隠す、獣のような肉のナニカ。


「勇者様、目に写さない事をお勧めしますよ?アレ。

 人間と何かの混ざり物ですから多分丈夫でしょうし。命は無事でしょうから、次ぎはあっちですね?」


 悪魔は勇者の目を片手で塞ぎ、砂に埋まるナニカを見ないように促して、少し離れた場所に見えたヨシュアを無力化する事を提案する。


「・・ああ、無事ならそれでいい。それより、あっちの方は仲間もいるんだ、次は無茶は止めてくれ。


 仲間が巻き込まれたら・・怒るぞ・・ライヤー、スマン。無事ならそのまま傷を治していてくれ」


 聞こえるかどうかなんてのは関係無い、もうこれ以上戦う気が無いと彼に伝えたかった。


「ああ、大丈夫だ。ほっときゃ治るからこっちは放っておいてくれ」

 砂の中から声が返ってきた・・無事か・・・・


 ヤールがオレの周囲から離れ無いのは仮契約だからだろうか?そうであって欲しいが・ともかく、[破壊]の魔法で混乱した戦況は勇者が着いた事で硬直に変わる。


 防御に徹したゴラムとピョートルは堅い。そして狂乱したヨシュアは狙うべき敵が魔物の壁に隠れ、倒すべき相手が見えず苛立っていた。


「なんだよ!その非難するような目は!オレじゃないぞ!」

 ヤツ等、仲間なのに『また無茶苦茶な事を』見たいな目で見てくる。

 勇者だって、いいかげん拗ねるぞ!


「勇さん、その後にいる・・ヒトは・・悪魔の・・」

「そちらの方はお久しぶり、こちらの方には始めまして。今夜は仮ですが、正式に仲魔になるヤール・ヤーと申します悪魔です。勇者様に誠心誠意尽くす所存なのでヨロシクお願いします」


 深々と頭を下げ、帽子を被り直す。

「さて!獣の駆逐ですね・・殺さないように優しく丁寧な仕事をお見せしましょう!」

 片手を上げたヤールは五つの指を広げ、掴み押し指すように振り下ろす。


[重力]・[呪縛]片手で二つの魔法を組み合わせ、[重力縛]がヨシュアの手足を縫い付けた。


「1肢に10倍の重力が掛っています、動けない程では無いでしょうが・・獣の知恵では逃れる事は出来ませんよ?」


 手足を地面に打ち付けられたヨシュアは、それでも虫のように這い顔を上げて唸る。


「頭にも重力を落とせますが?」ヤールが親指を下げると頭が地面に押し込まれた。


「押さえられましたが・・どうしましょうアレ?ずっとこのままと言うのもアレですよ?殺してしまいませんか?」手早く済ませられますよ?


 手足を千切られた虫のように地面を這い、砂を噛み唸る勇者候補の男。

 完全に狂っているような男は、本当に殺す事でしか人間に戻せないのかオレには解らない。


「・・本当に殺すしか無いのか?精神状態を正常に戻せば・・」


 自分に出来ない事を他人に求める、ソレは多分エゴだ。

 相手が天才でも悪魔でも、方法すら解らない事に、結果を出す事を求める。それは違う、そんなのは奇跡を願い、努力も・考える事すら放棄した盲信者のする事だ。


「神では無く、悪魔に願ってもいいのですよ?ワタシはアナタの悪魔なのですから」

 ヤールは☆を飛ばすようなウインクをしてオレの言葉を待っている。


 願ってばかり、頼ってばかりでいいのか?

 彼?悪魔だからじゃない、恐いのは・頼りっきりになる事だ。

 頼る事・他人を中てにする事が当たり前になる事が、思考の停止が恐いんだ。


「任せっ放しは・・しない、オレに出来る事はあるかヤール」出来る事は無くてもな。


「・・殺した方が、手間は無いと思いますが・・そこがアナタの可愛い所ですね!解りました・・少し手間をかけますか」

 黒い顔の表情は解りにくい、それでも悪魔がニッコリと笑ったような気がする。


「アレ・アレを持って・・連れて来ていただけますか?もう回復したはずですし」

 指をさしたのは、ライヤーが埋っているはずの砂地。

 仲間だと言っていたライヤーが、この男を狂人にしたのだろうか?



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