泥棒のアジトに泥棒に入る、良いものがあればいいなぁ。
時は少し戻り、カン田の走って行った方を見つめる勇者とピョートルの二人は、
カン田が走って来た方向を睨んでいた。
(城からの追っ手が何故来ない?・・まさかな?)
斧で扉を開けたと言っていたから、バレて無いはずがない。だとすると・・・
思い出す事を拒絶する過去。(クソッ吐き気がする!)
(本来なら面倒事は避けるべきだが・・)
ピョートルもオレも、町に入れないからボロボロだ。数日とは言えまともに寝ていないから魔力の回復も出来ていない。
装備も、これからの敵の強さを考えると限界が近い・・現状を考えれば塔の宝箱[カン田の私物]をあさっても武器・防具を更新するべきだろう。
(ついでに休む場所が確保できたら、こいつも休ませられる・・か)
「ピョートル、アレのアジトに付いて行くぞ。泥棒の宝を泥棒してやる」
・・・「人間の王の冠を取り戻すのではないのですか?」
王族とか貴族がどれだけ困ろうと、知った事じゃない。
「アレと戦うには戦力が足らない、負けて死ぬくらいなら、戦わない事の方がいいだろ?
戦う理由だって自分のためじゃない。どこかの誰かのためとか、
しかも頭を下げて頼まれたわけでもないし・・な」
半分は本当で・半分は建前・理由だ、戦わない理由を重ねて逃げるんだ。
どこかでジワリと体と心が染みる気がする。なんだか・・な。
場所は知っているから夜明け前にはたどり着いた、当然道中の虫やお化けの魔物は悉[ことごと]く殺して。塔の見える岩陰で1休みしながら周囲を、とくに城の方を注意して。、
(やはり城からは兵は出ていないのか・・・)
(体力8割・魔力半分ってとこか・・)慎重に行かないと。
「まず最初に注意だ、オレ達には毒の回復手段が無い、当然麻痺にも。だから毒と麻痺を使う魔物は真っ先に殺す。二匹以上なら逃げる、わかったか?」
「・・あの・・自分、[解毒]使えます・・よ?」
・・・どう言う事だ?ピョートルが[解毒]を使う所を・・たしかに今までそんな機会は無かったが・・
「おまえ・・優秀なヤツだったんだな」
オレには使えない魔法の奇跡を使う魔物とはな、
神ってやつはどうしてもオレを強くしたくないわけだ。
「それが・・その、勇さんと戦っていたら・・謎の声がしまして・・レベルがどうとか・・それで[解毒]を憶えたとかなんとか」
魔物もレベルの恩恵があるらしい、(あれだけ殺しまくれば、そんな事もあるか)
「なぜ言わなかった?」レベル上昇の事を。
「・・それは・・人間の勇さんは、魔物が強くなると困るでしょう?・・嫌かな、と」
「・・嫌ではあるが、パーティー・・・チッ!
ピョートルが出来る事は知っておく必要があるからな、変った事があれば報告しろ。
別に獲って喰おうとは言わないからな」
ヤツは薬草箱から薬箱に昇格だ、今後はオレの生命線になるのか・・・
「ピョートル、これからは後衛として自分の身を守れ。後はいつも通り回復と言ったら[回復]だ・・危なくなったら真っ先に逃げろ・・いいな」
・・・なにか不満そうな空気を感じるが、回復役が倒れたらオレ達は終りなんだ、
その事を説明し、胸に息を深く吸う。
さあ、慎重にいこうか。
五年も経てば世界は変る、塔の罠も敵も変りオレの知らない魔物も増えていた。
変なつぼの魔物や舌を伸ばす魔物、それと・・「なんで笑い袋が!」
[幻惑]を使う袋が、くにくにと地面を跳び声を上げて笑っては仲間を呼ぶ。
それはスライムだったり、死体だったり、くそ鬱陶[うっとう]しい。
[爆破!]空気を振動させ破壊の衝撃が幻惑を打ち破る。
「貴重な魔力を使わせやがって!」
クッタリと伸びた袋にとどめを刺し、爆音で魔物が集まらないうちに移動。
目玉っぽいヤツとか、コウモリの羽根の生えた小さい悪魔に似たヤツを伐ち倒し、
ようやく宝箱発見。
「ピョートル、これは運試しだ。運が悪ければ即死の魔物、[人食い箱]が化けているから
オレが開けるから、開けた瞬間には逃げられるよう準備しろ」
・・・宝箱の中身は・・鱗の盾だった、(良し、冷や冷やさせやがって・・全く)
つぼを壊すと魔物が出たり・・種が出たり薬草と毒消しが出た。
(この形と・・色は・・守りの種か)
「喰っとけ、丈夫になる」ピョートルに渡すと不思議そうな感じでマスクの下に入れた。
わかる、なんで種で丈夫になったり腕力が上がるのか不思議だよなぁ。
後あった物は鎖鎌と皮帽子、(せめて手下が着けているような鎧は入れておけよぉ)
それでも多少マシになった防具と・・武器?
宝箱を開ける時の感覚、罠を回避し塔を登る階段の感覚、
嫌になるくらいワクワクするのは何故だろうか・・クソッ!
嫌な事を思い出した、あの時言った戦士の『どうだ?これが冒険ってやつだ』だと?クソッ!
不愉快だ!アイツの笑い顔もジジイの声も・思い出すだけで不愉快だ!」
(こんなもん、面白くも無い!必要だからやっているだけだ)
拳を壁に叩き付けたせいでピョートルが止っている、「気にすんな、発作見たいなもんだ」
そう、こんな不快感は、発作みたいなもんなんだ。
しまった!イライラしたまま歩いていたから気が付かなかった!
大きな扉と見覚えのある柱、この先はヤツらの部屋だ・・
「静かに下がるぞ・・」気付かれたら面倒だ。
「・・?お前ら・・ドコから来た?」
ギィと扉を開けた鎧の男が、体をフラフラゆらしながらこっちを見ている。
「・・?夢か?・・酔いすぎたかな?・・」トイレトイレとそのまま階段を下りて行く、
助かった・・。今の内に・・柱の陰に・・
「オーイ、その辺に吐くなよ・・・・て!お前誰だ?!」開いた扉の向こうから、
声を上げた男がオレと目が合って叫ぶ。
「怪しい者じゃ無い、ただの・・泥棒です」と言っても通じ無い、酔っ払った鎧姿の男達が立ち上がり、何人も男たちが集まって来た。
(酔っているヤツだけなら勝機はある・・か)
「ピョートル、全力で身を守れ!オレが数を減らす!」
先ずは、一番足取りのしっかりしたヤツからだ!




