死にたくないけど・・・やっぱり死ぬのは怖いよ。
一瞬の油断、目の前の男だけに集中し過ぎた。
「・・こうなったら、仕方ないよな。死んでくれ」
同情するような顔と、『死んでくれ』の言葉。
ライヤーは槍を肩に、狂った仲間の回復を済ませてからオレに穂先を向ける。
・・・スゥ・・ハァ・・
人間は本当に絶望すると、逆に冷静になるらしい。
(多分死ぬ)それも人間の手で。
話とかして多分理解してくれた、解ってくれたとオレが勝手に勘違いした人間に殺されるのか。
「・・お前らの狙いは、オレだけだよな?」
オレは武器を下ろし、ライヤーに聞いた。
狂った男は突如現れた仲間に動きを止めて、肉体が完全に回復するのを待っている。
「・・ああ、そうだ。お仲間が、掛って来なければ怪我をさせるつもりは無い」
そうか、なら安心だ・・な。
(あいつら・・最近、変に仲間仲間してきたからな)
「ピョートル・ゴラム・ホフメン・お前らは先に逃げろ、こいつらはオレが足止めするから・・ホフメン、済まないが馬車は後で取りに来てくれ」
全く信じて無い顔の仲間達は各々の武器を掴み、オレいる場所に集まって来た。
馬鹿のか?あいつら、逃げろって言ってるだろ?
はぁ・・「あ~~いいかお前ら、オレはこれからこいつらと戦う。で十分時間を稼いだら泣き叫んでション便洩らしながら、土下座してでも命乞いして見るつもりなんだよ。
・・・だからお前らがいたら・・その・・なんだ・・恥ずかしだろ?」
多分見逃しはしないだろうが・・な、こいつらは命令された事を行うだけの兵隊だ。殺せと言われて来たなら必ず殺す、そういう物が兵隊の仕事だからな。
「勇さんの糞尿垂れ流して命乞いですか・・実に興味深いですね、そんな情けない姿の勇さんを一度見たいと思っていたんです」
鋼の剣を持ち、盾を構えたピョートルが勇者の前に立つ。
「おれ、戦う、仲間を守る」
ゴラムがピョートルの横に立ち、拳を握る。
「お、おれも戦う。ユウさんの言葉が・本当なのか・・まだ疑ってますから」
震えながら槍を構え、「馬車の事は、後で考えましょう。
うん、仲間と共に行くと決めたのです、今更仲間を置いて逃げるなんてイヤですから」
一撃で倒されたピョートル、腕を砕かれたゴラム、その2人の戦いを見ていたホフメンが戦いの覚悟を決めて勇者の為に武器を持っていた。
「馬鹿な・・事を。特にピョートルお前、洞窟での事をまだ根に持っていたのかよ」
「そんなこと、フフ。『今度は負けませんからね』」
その言葉がオレに向けられたのか、それともライヤーに向けられたのか、それとも自分に聞かせたのかは解らない。解ったのは『おれが何を言っても退かない』という事だった。
仲間か、こんな時にお前ら、負けの解り切った戦いで、死ぬかも知れない戦いの前で・・格好付けるなよ!
「さぁ戦いましょう、そしてみんなで逃げて、また焼きガニを食べましょうよ」
「そ・・そうだな、お前らも・オレも・・[命を大事に]して逃げるか・・」
こいつらは止らない、言葉では止らない、ならオレは戦うしかない。
「・・あっちの狂ったヤツを頼む、アレの狙いはオレだ。オレがいなければ、矛先は鈍る。あとは解るよな?」
「魔法でチマチマですね、任せて下さい!」
「頼りがいが有り過ぎて、泣けてくるぜ」
少し笑い、覚悟を決めた勇者の顔にピョートルが頷いて答え。顔を上げた勇者は走る、片手には刃を、もう片手を空にして。
早く、とにかく早く、前にアノ男の前に立たないとならない。ヤツ等が戦い出すその前に、ライヤーの前に行かないといけない。
仲間の回復を終え、表情を消したライヤーが勇者の突撃を反射的に受けて弾く。
「お前の相手はヨシュアに任せてたいんだが・な!」
右に飛んだライヤーに併走するように勇者も跳ぶ。その目を見つめ、刃を振り下ろし鉄槍に止められる。
「頼む、ライヤー。お前の槍でオレの心臓を突け、そして首を刎ねろ・・刎ね飛ばしてくれ・・頼む」
オレが死なないと、アイツらは止らない。止ってくれない、心臓に穴が開き・首を切られたら、あいつらも諦める。諦めるしか無くなるんだ。
「オレの首を持って飛んで帰れば、お前らの仕事は終わる。だからあいつらに手を出すな。オレは抵抗しない・・頼むよ・・殺してくれ」
あいつらに聞かれないように、バレないように、刃を手放し目を閉じる。
(ああ、痛いのは・・いやだなぁ・・)
「そっか」ライヤーの言葉を聞いて、おれは全身の力を抜いた。
(次ぎは、人間はやだなぁ・・魔物として産まれたら、あいつらを探すか。今度はきっと、もっと楽しくて・・ああ、死にたくないなぁ)
・・・・どうせ生き返るなんて言えない、恐くて恐くて仕方ない。
痛みはどのくらいなのか、死の恐怖は?生き返っても待っているのは拷問だろう。
勇者に託宣した神を呪い、世界を呪うほどの痛みと苦痛がどんな物か、考えるだけで気が狂いそうだ。死にたくない!
死にたくない死にたくない死にたくない・・・・・怖い。
駄目だ・振るえて泣けばライヤーの手が鈍るかも知れない。
例え教会の犬で、人でなしでも。コイツが罪悪感を持たずに人を殺せる怪物でも。
一度はオレの言葉に同情した・・同情してくれたヤツに、手を汚させてしまうのに、これ以上の負担をかけさせたくない。
『ああ、スイマセン死ぬ前くらい、ワタシの事を思い出して下さいよ』
言葉と共に現れたそいつは、姿を砂塵に写し膨大な魔力を闇に変え。
勇者の真上で逆さに浮かんでいた。
新しい仲間が現れた!