槍は盾を斜めに構えて突きを防ぎ、攻撃は槍の外から。
(ほかの仲間は完全に無視しかよ!オレだけを狙って来やがって!)なら!
「ゴラム!投砂だ!煙幕を張ってくれ、ピョートルはホフメンを守ってくれ!」
目潰しされたらヤツはどうする?どう動くんだ?誰を狙う?
ゴラムの投砂で砂煙りが上がった瞬間、勇者が煙の中に立つ影に向かって走る。
(先ずは一撃)当てて見て、反応を見る!
下から斬り上げる様に影を裂き、その軽い手応えに飛び退く!
(避けた?視界は奪っているはずなのに?)
このまま突っ込めばこっちがヤバイ、即座に魔法に切り替え[火炎]を叩き込む。
[火炎]を避ける事が出来るなら、それは砂煙の中でも、ヤツは見えていると考えてもいいだろうと考えたからだ。
?一発目の[火炎]はかわされ、合図を送ってピョートルと同時に放つ[火炎]の炎。
(二つの炎だ、隙くらいは見せてくれよ!)
オレがヤツを止める、そうすれば仲間が攻撃してくれる。チームってのはそう言うもんだろ?
[火炎]が砂煙に飲み込まれ、瞬間・光りを無くす。
(当った?)まさか、火炎が当ったのか?
避けると思っていた事による疑問と驚き、それを振り払うように勇者は走り出し敵の影に迫った。
砂煙りごと両断する左右のハサミは、大きく開かれ両腕をクロスさせる事で完成するはずだった。
[火炎]?両腕を広げていた勇者の身体を、砂の中から飛びだした[火炎]が焼いた。
無防備な状態で受けた火炎は勇者の身体を痛みで硬直させ、敵の放つ次ぎの攻撃をよける隙を与えなかった。
自分の頭に下ろされる槍は砂を切り裂き、風をまとって勇者の額を斬り頭蓋で止る。
オレは、斬られた熱さより脳震盪が頭に衝撃を与え意識が飛んでしまった。
・・クソッ・・ああ・・・・意識が暗闇に落ちる・・
(死んだのか・・ああ、コレが・・死か・・)
ヒトは死ぬ間際に生きて来た事を思い出すって聞いたけど・・なんだよ、なんでピョートル達がやられているだよ・・そいつら、関係無いだろ・・
道具屋のオヤジの困った顔も、訓練場の教官の顔も・・ガキの頃、多分何も知らない頃にいた友達の顔も・・出てこないのに・・・ホフメン・何を耳元で大声を上げて・・もう、無理なんだよ・・オレは、死んだんだから・・
ゴラムの腕が砕かれ、ピョートルが盾を構えながら必死に[回復]をかけている。
(おまえら・・もういいんだ、逃げろよ・・お前ら・・)
ザーザーと耳の中で音がする、どこかで叫ぶ声がする。
真っ赤な視界の中、足元がフワフワする。誰の足だ?
オレの肩を担いでいるヤツは誰だ?
・・「待て・・駄目だ」駄目だ、
「ホフメン、ヤツ等を置いて逃げるのは、駄目だ」
「!意識が戻ったんですか!」
まだ耳がキンキンする、けど。仲間を置いて逃げるのは駄目だ、それはオレが死んでからでも出来る。生きているなら、仲間は守らないと・・
足元は、ふらつくし、視界は赤い。それでも仲間が戦っているなら、立たないと。
声を上げ、あそこに行かないと。
「ユウさん!駄目だ、今は逃げるんだ!彼等の気持ちを無駄にするな!」
ホフメンの手が肩を掴み、オレを逃がす為に引っ張った。
「・・うるさい、ヤツらの気持ちなんか、知らん」
ヤツらも、オレの・・仲間を残して逃がされるオレの気持ちなんて解らないだろ?
嫌なんだよ、仲間に死なれるのは。
「ホフメン、頼みがある鉄板を持って来てくれ・・あとな、オレを止めるなら・・殺す気で来い」
おれは、仲間を見捨てない。それは・・駄目だろ・・
オレの目に命が戻り、ホフメンは走って行った。彼の目にどう映ったのか、
(すまないな・・こんな事に巻き込んで)
[中回復] 額の傷に回復の光りを宿らせ、服の袖を切って額を縛る。
もう、油断はしない。オレの判断ミスで仲間が死ぬ、そんな事はさせない。
「お前ら!良く踏ん張った!待たせたな!勝つぞ!」
一瞬振り向いたピョートルは、なぜか驚いているように見えるんだが。
(なに驚いているんだよ!オレの生き意地の汚さを知らない仲じゃないだろ?お前ら)
「ゴラム!身を守れ!回復をかける、ピョートルは距離を取れ!ヤツの狙いはオレだけだ!オレが盾・お前らは砲台!秘密兵器が来たら合図する!」
「秘密兵器ってコレの事ですか」ホフメンの持つ鉄板を受け取り、正面に構えた。
鋼鉄の板だぞ?それに油十分、鉄槍で貫けるものか!
厚さも親指の一関節くらいある、斜めに構えるだけで槍の貫通力なんか簡単に殺せる!
勇者が鉄板を鳴らして挑発し、攻撃に備えた。
「掛って来いや!コラァ!」大声で叫び、敵の注意を引く。
「ゆうぅぅぅぅ!!!」獣のような咆哮を上げ、真っ直ぐ投げられた槍のように男が走り、その慣性と速度をそのまま槍に加えて槍を突き出した。
ガキンッ!鉄と鉄のぶつかりは火花を上げ、男が目の前を走り去る。
(鉄板を斜めにしてなかったら貫通してたんじゃないかアレ!)
それにこちらは防御で精一杯、届く武器も無い。っっっと!
慣性を無視した反転と振り返りざまに突き出す槍、一時でも目を離せば先程の二の舞になる!頼む、魔法で削ってくれ!
[火炎線]!ようやく回復が済んだピョートルが魔法を放つ。
「ゴラム!アレだ!面積をしぼった投砂だ!コイツはオレにしか興味が無い!良く狙え!」
ゴーレムの目が光り、強く握った砂を男に投げつけ敵の体勢が崩れた!
「囲め囲め!オレがコイツの攻撃を全て受ける!お前達は囲んで狙い撃て!」
オレが声を上げ、左右に移動する仲間達。
(これだけ声を上げて指示してるのに反応しないって事は・・やはりコイツ)
ガキンッ!チンッ!槍がぶつかる度に火花が飛び、勇者は必死に鉄板の傾斜を維持していた。その間も仲間達は魔法を唱え・砂を投げる。
「ホフメン!薬草を頼む!投げてくれ!」
馬車から持って来てくれた薬草を勇者に投げ渡し、背後で身を固めた。
(クソッ!防御してるだけでも槍の衝撃がジンジン響いて来やがる!でもこれで)
削りきれる、敵の体力を仲間が削り、オレが立っていれば勝ちだ!
「・・まぁ・・そうなるわなぁ・・」
[禁]!強い言葉と共に空気が振るえた。




