狂戦士ヨシュア。
「ああ、人生って不思議だ・・」
ホフメンがなにか悟りそうな感じの顔で、一息付いて休んでいた。
「そうです・・ねぇ・・」
馬車の中で隣に座るピョートルも悟りそうな顔で、水を口に含む。
全く気にしてないのはスラヲだけだよ、今も蟹ガラを溶かして良い感じに転がっているだろ?ほかのヤツ等は気にしすぎだ。
「おれ・・けが・・された」
ゴラム!言い方!何もしてないだろ!一緒に飯食っただけだろ!大丈夫だ!お前はまだ健全なゴーレムだよ!
どれだけショッキングだったんだよ!これから砂漠を出るまで、毎日の昼飯はゴーレム焼きにするぞおまえら!
・・ってのは後だ、なにか近づいて来る!
「気を付けろ!多分敵だ!」
夕日の中、砂煙を上げ真っ直ぐこちらに向かって走るソレは、勇者の身体が粟立つくらいの敵意と攻撃性を感じさせる。
(真っ直ぐこっち・・オレを見ているのか?なんだ?)
後続の姿は見えない、単騎でオレを狙うヤツって言ったら・・
狂ったように走る馬は口から赤い泡を吹き、勇者を踏み付けるように直進する狂馬は素早くかわす勇者に反応出来ず転倒し、それでも狂ったように足を動かし続けた。
砂漠で馬を走らせるなよ!このクソ馬鹿が!
転倒する瞬間見えた白い男、そいつは馬が倒れる前に跳び降り槍を構えている。
「ゆ・・勇・しゃぁぁぁぁ!!!」
目の焦点はオレを捕らえ、歯を剥き出す獣のように叫ぶソレは、怒りに染まった目を開く。
そして真っ直ぐに跳び出し、砂を蹴る。
(早い!)足場が砂地である事など関係無いように疾走し、低く突き上げるように槍が光る。
ヤバイ!本能が槍を受ける選択指を否定した!
真横に跳んだ瞬間、オレの居た場所に三本の槍が見えた。獣が口をあけて襲う様に、牙のように光る上下からの槍。そして真っ直ぐ心臓を狙う槍。
(なんだ!あの槍は!)
一瞬で同時に三回突いたのか?阿呆か!
「ウガァァ!」
槍の残像がまだ中に残る状態で、男はオレの跳び避けた方に槍を振る!
脱力・・無理!筋肉を締め、渾身の槍を身体で受ける。鈍器で打たれたように身体が悲鳴を上げて吹っ飛ばされた。
「「勇さん!」」馬車から飛びだしたピョートルとホフメンが武器を構え、ゴラムが立上がり戦いの構えに入る。
(どうする?アレはどう見ても普通じゃ無い、攻撃を加えたらホフメンにも襲いかかるか?)
勇者は、アバラを押さえて砂に転がり低く構えて様子を覗う。
その時、コマ落としのように男が動いた。
狙い・構え・移動・攻撃、の順序が消え、構えた瞬間に槍が伸びた!
意識の隙間、判断し・動くまでの僅かな時間に槍が目に写った。
[火炎線]!魔法の炎が目の前に光り、槍の穂先が耳を切る!
助かった!ヤツの身体が少し動いたお陰で死ななかった!
背中から汗が噴き出し、呼吸が深く荒れる。
「勇しゃぁあぁぁ!」
[火炎線]の炎で身体が焦げ、怒り狂ったように怒号を上げると槍を振り上げ、頭上に叩き落とす!
クソッ!
勇者の頭を割る勢いの槍をなんとか飛び退いて躱し、体勢と立て直す為に着地しようとした。
地面を打ったヤツの槍は、反動で立上がり着地の瞬間を狙う!
鎌首を上げる蛇のような槍は、空中で動けない勇者に襲い掛かる!
「クソッ垂れ!」
勇者は足で槍を蹴飛ばすと、今度は蛇が絡み付くように槍が足を捉え、掴まれた足を捻るように槍がうなり打っ飛ばされた。
[中回復]!ピョートルの回復で何とか立ち上がり、ハサミを構えた。
・・なんだアイツ!
異常な腕の太さと、無理な体勢でオレを投げたせいで外れた手首。
・・その手首を片手で掴むとバキバキと握り、手首の関節を繋げた。
(化物か?)痛みは無いのか?
そのままヤツは口から赤いヨダレを垂らし、槍を構えている。狂人め!
「お前!お前も勇者候補ってヤツだろ!名前くらい名乗ったらどうなんだ!それでも勇者を目指しているっていうのかよ!」
呪いの武具か、それとも特性ってやつか?狂勇者なんてのがあるのか?
「ぐがぁ!」
オレの言葉に反応して槍を構え、真っ直ぐ突っ込んできた!?
(遅い!これなら)かわせる。そう思った瞬間、突進する槍は消え真横から殴られた!
(逆手持ち?!)槍の届く瞬間に身体で隠し、反対の手に持ち替えて殴っただと!
(なんなんだ?技は完全に修練された物、なのに肉体と精神が暴走している・・させているのか?)
[洗練された狂戦士]、そんな事が有り得るのか?それが勇者候補ってヤツなのか?
奥歯は折れて口の中は血の味、多分魔法を使わないのは[混乱]の副作用。
(それも・・ダメージを受けたら魔法を使い出すはず、化物ばかり集めやがって!)
それとも[勇者]ってのが、化物なのだろうか?だとすれば、オレは化物になんかなりたくない!
こいつら以上の化物に成れないと、本当の勇者じゃないって言うなら、オレは勇者なんて糞食らえだ!




