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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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今までの事、そして勇者の事。

 口に出してみれば、酷い話だ。


 国王の勝手で集められ、魔物との戦いを教え込まれて訓練の毎日。

16になれば呼び立てられて、『魔王を倒せ』と命令された。


 魔王の強さも恐ろしさも知らないヤツ等が、『行ってこい!』と飼い犬に命令するように命令する。


 必死になって大人達に付いて行けば、見捨てられ。落ち込んでいたら『邪魔だから殺せ』と国王から命令が出る。


 悪魔と戦い、魔物と戦い、身を隠し・名前を変え・他人や、ヒトの良いオヤジの目も疑いながら感謝の言葉を浮かべて笑うふり。

 ボコボコにされて逃げ続ける毎日・・勇者なんて良い事なんて何も無い。


「・・そうか」ライヤーはそれだけ言って空を見上げる。


「あんたも・・勇者候補なんだろ?羨[うらやま]しいなら代わってくれよ、好きなだけ、魔王とかと戦ってくれ」強いんだろ?お前らは。


「う~~ん、なんか思ってたのと違うな。お前さ、

 いくら死んでも生き返るんだろ?好きなだけ魔物を殺して・殺されても生き返る、その程度の事じゃないのか?」


 それは、頭のおかしい、ネジが数本飛んでいるやつだけが言える言葉だ。

「腕が折れたら痛い・足が曲れば痛い、斬られたら痛い、炎で焼かれたら熱い。

それが死ぬとかになったら、どれだけ痛いと思うんだ?


それに死ぬんだぞ?バラバラに引き裂かれ焼かれ潰されて死ぬんだぞ?・・・生き返ったオレは本当に死ぬ前のオレと同じなのか?」


 死ぬ程の痛み・死ぬ程の恐怖って言うだろ?でもそれは、本当に死ぬわけじゃない。

でも勇者は死ぬ・本当に死んで、生き返らせられ・また死ぬような場所に行かせられるんだ。

イカレてるだろ?狂っているよな?そんなのは、普通じゃない。


 何度も死んで・死に慣れる、それは本当に人間なのか?化物じゃないのか?

自分の命も簡単に捨てられるような化物が、人間の世界・人間の命を大事に思える?

 馬鹿なのか?異常じゃないのか、そんな生物はもう人間じゃない、オレじゃない怪物だ。


「殺され続けて、自分が怪物になりはてる・・か」なるほどな・・違うのか。

ライヤーはため息のように深い息を吐き、星空を見上げる。


「わかった、まぁあれだ。逃げんのに協力は出来ないが、今回はなにも見なかったって事にするわ。人間の世界は人間が守るべきだよな、人間を怪物にしてまでって事じゃないってのはわかった」

オレとは違うんだよな。


 そう言うと立ち上がって腰の砂を払い、「もう会わない事を祈ってやるよ・・そうだ。あんまり金属板は使うなよ、たぶん神殿は追跡出来るからよ」

 それだけ言って砂漠の夜空に融けて消えるように・・・掻き消えた。


(・・金属板か!クソッ)生命線を握られていたのか・・

 アイツの言葉を鵜呑みにするのは危険だと思う、でも状況から考えたら納得するしかない話だ。


(今後は・・もっと注意しないと駄目か・・)

 冒険者の持つ金属板は、冒険者が戦えば入金される生活の生命線。生きる為にはカネが必要だし、魔物を倒してもカネが入らないのでは装備も修理出来ない。


うっ・・ううう「ユウさん、あんた・・アナタも苦労して、、、」

 勇者が考えをまとめていると後から呻[うめ]くような声がして・・、ホフメンが泣いていた。


「立ち聞き・・するつもり、は、無かったんです・・でも、声が聞こえてきて・・」

「お前が泣いてどうする?・・・まぁそう言う事だ、おれは砂漠を越えて海に出る。世界を渡って自由を手に入れる。


 その為にホフメンを利用した・・・すまないが砂漠を越えるまでは付き合ってもらう。その後は自由にしてくれていい」

 結果的に欺した事にはなるが、今は勘弁してくれよ。


「・・なら、オレ・・ボクはアナタに付いて行くよ。人間のボクがいたら色々と役に立つはずだろ?」


 泣いているからか、精神年齢が少し下がったようなホフメン。確かに人間の成人が協力者になってくれたら・・楽ではあるが・・


「危険だぞ」魔物に教会に国王、全部敵だ。世界を敵に廻していると言ってもおかしくない状況なんだ・・見捨てて逃げるしか無い時だって出てくるだろうし・・


「大丈夫ですよ、これでも逃げ足には自信があるんです!ユウさんを放って逃げるなんて朝飯前ですから!」

 とてもいい答えが返ってきた・・でもそれは、面と向かって言う事じゃないと思うが?


「・・ああ、危険を感じたらいつでも逃げてくれよ・・。約束だ」

 ソレをオレは裏切りとは思わない、男と漢の約束だからな!。


「すまない・オレ・戦いに・入れなかった」

 オレとライヤーの戦いに混ざれなかったゴラムが頭を下げる、そうだなアイツは速過ぎたし、おれは頭が真っ白でなにも考えられなかった。


もし混ざってこられても、巻き添えにしたか、盾にしただけだ。

「いいんだ、馬車を守ってくれていただろ?お陰で後を気にせず戦えた」

 それに・・目の前でゴラムを破壊されていたら・・たとえホフメンの声が聞こえても止らなかった。


「そうですよ・・わたしが言う事でもないですが・・守る事で戦いに加わる事も重要・・ですよね?」

「よく解ってるじゃないか、そっちも無事でなによりだ」

 馬車から顔をだしたピョートルに声をかけ、お互いの無事だったんだいいじゃ無いかと思う。


「アレは・・化物の類いだ、竜巻とか火山の噴火とかな。逃げて正解、生き残れているだけで幸運って考えるべきだよ」

 本気を隠し・手を抜かれ、それでも薄皮を[切らせた]だけで無傷、本気なら・・全員が砂漠の砂に眠らされていた、確実に。


「それ程の・・やつでしたか?・・そうは思えませんでしたが」

 ホフメンの言葉は的を射ている、たしかに強さは見せなかった。


「だからだよ、強さの底が見えないから・・化物なんだよ」

 腕力・体力・回復力・速度・技術・思考・感情・そのどれも・これもが見えない化物。化物がヒトの形で笑い・話掛けている、そんな感じだった。


(見かけは完全に人間だった)引き籠もり人間不信で、他人の目を気にして生きて来たヤツだから解る。アレの目はあいつら町の人間がオレを見る目と全然ちがった。


「でも・・まぁ良かった、全員無事だから・・ああ、疲れた・・」

 勇者は馬車に跳びのり、倒れるように目をつぶる。


「休むぞ、アレの気が変わって戻って来ない内に移動してながらな」

 道はホフメンに頼み、馬車はゴラムが引く。途中の魔物はピョートルに任せ、治りきってない傷を癒す。ああ、身体が痛い。


生き返る前提で、望んでもいない死地に放り込まれる。それが勇者なのだろうか?

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