不気味な男、多分敵。だから嫌いなんだ、神官とかは。
「おれの馬、パトラッシュだ。かわいがってくれよな」
・・・
「よし!馬は馬房へ戻そう!」なんか不穏なんでな。
ホフメン・・キミは、絵が趣味とかじゃ無いだろうな?
教会で倒れたとしても、おれは君を殴ってでも死なせたりしないぞ?
「・・馬車を引く馬を戻してどうするんだよ、オレ達で引けっていうのか?」
ヒヒィンンン・・パトラッシュも主人と離される事を感じてか、悲しく鳴いた気がする。
(コイツ!)死神は天使の姿で降って来るって、知っているんだからな!
「先ず、パトラッシュ・・くん?
キミはこの宿屋にとって必要な存在だろう?オヤジさんと仕入れに行ったり、田畑の耕し、農耕馬としても役目はあるはずだ。それに・・」
森にかえされたとしてもだ。いずれ来る、青い髪の青年と大工のせがれとの出会いが待っている・・と思う。
「それにね馬で砂漠越えなんかしたら、最悪馬が死ぬ。砂漠を行くならラクダだよね、それに今は、あのヘビー級の仲間、ゴラムが居るからな」まぁゴラムは歩かせたらいいわけだが・・
「故に、ゴラム!キミには馬車を引いてもらおうと思う」
ヤツのパワーと堅さがあれば、魔物に襲われてても馬車を守る事が出来る。
「馬車の車輪が砂で滑っても、ゴラムのパワーなら問題無く進めるだろう?」
馬車の積載も増やせるし、砂丘にも対応できる。水の心配もゴーレムの身体ならオレ達とピョートル達の分だけで余裕もできるだろう。
なにより、ゴラムが馬車を引いている間、オレ達は馬車で安心して休んでいられる。
その事を考えれば、ゴラムの移動速度でも十分砂漠は抜けられる・・だろう。
「 オレ・馬じゃない・・」
明らかに嫌がってる声と目の光、解らないではないが。
「不満は解る、だがこう考えてくれ。
馬車を守る城壁・守護者はゴラムしかいない、オレ達を守る最大の戦士、先頭に立ってオレ達を守る栄誉はゴラムにしか与えられない。お前にしか出来ない・お前にしか任せられない職務なんだ」と。
・・・・「オレにしか・・出来ない」ゴラムの顔がゆっくりとオレ達の方を向き、1人ひとりが、それぞれに頷く。
ピョートルは微妙な顔のような・・マスクだから解らないが・・あとスラヲは何も考えて無いように転がっていた。
「わかった、任せろ」
ゴラムが軽く馬車を引っ張ると、車輪が軽く回る。
(良し・・別に欺したわけでは無いが、ゴラムが良いヤツでよかった)
利用しやすいとか、欺しやすいと言う訳ではないぞ!
水樽と保存食、あと必要な物を経験豊富なオヤジに聞いて購入、全てそろったのは丁度昼になった頃。オレ達はホフメンの宿で食事を済ませ・・
「全て良し、では行くか!砂漠越え!」
真昼で砂漠の砂も焼けている、だが今のオレ達にはゴラムの引く馬車がある。
「スマン、1人で引いてくれ」
「まかせろ・オレが守る」そう頼りがいのある言葉が返ってきた。
本当に良いヤツだなお前は。
「装備は攻撃重視だ、敵が来たら即時に倒し馬車に戻る様にする。体力の消耗は少なくするんだ」
体力に余裕があったら、日が沈んでからも砂漠を進める、とにかく初日は様子見で体力は温存したい。
馬車の中で肩当てとか腰周りのパーツは外し、軽量化して待機・・それにしても・・遅い、ゴラムの移動スピードが遅すぎる。
(結構良い考えだと思ったんだがなぁ・・)
多分オレが歩いた半分の距離で日が沈み始めた・・馬車の中は交代で見張りを立て、残りは完全に気が抜けている。事実、オレもなんど欠伸を噛んだのか・少し眠っていた時間もあった。
それでも休まずゆっくりとだが、オレ達は砂漠に轍[わだち]を残していた。
「月の~~さばくを~~はーるー・・」
「勇さん?なんですそれ?」
思わず口ずさんでいた歌にピョートルが反応する。
「・・昔の詩だ・・」子守歌のような、遠い記憶の。
「いい歌じゃねぇか、もっと聞かせろよ」
馬車の外から男の声がする、どこかの商隊のヤツか?・・・・!
素早く武器を取り、馬車から飛び出し周囲・特に声のした方向を警戒!
(気配も足音も無かった、それに声も知らないヤツの声だった)
そういうときは大体敵に決ってる、星明かりしか無い砂漠見えた人影。そいつはどこに消えたんだ?
「ああ、恐がんなよ。こっちだ、ちょっと馬車を拝見させてもらっただけだからよ」
背の高い白髪の痩せた男が馬車から顔を出し、へラッっと笑っていた。
笑っているが感情の無い顔、身体は大きいが存在が掴めないあやふやな気配。
「・・魔物が二匹に人間が1人、それにゴーレムが一体。なあ、お前が勇者か?」
そいつは暗闇の中に二つの目を浮かべ、観察するような・確認しているような声で話す。
「なんの事でしょう?こっちのゴーレムはとある事情で手に入れた物でして・・中の魔物は闘技場に売り出しに・・」
駄目だ、コイツは駄目なヤツだ。不気味過ぎる、この場は誤魔化して立ち去ってもらうのが一番だ。
「んーーん、闘技場の魔物なぁ・・確かにそんなのも有りちゃ有りだが・・お前さ、こいつらをいくらで売るつもりなんだ?」
確実に疑っている、疑っているのは解るんだが、オレの言い訳を楽しんでやがる。
「さ、さぁ相場次第じゃないですか?もういいですか、なら急ぎますので」これで、そう言い終わる前に、小さい革袋を投げられた。
「金貨だよ、それ1枚で300Gくらいには成る。スライム一匹には高すぎると思うんだが、いいだろう?」
「・・・さぁ、オレには何のことか・・」
コイツ、からかってやがるのか・・
「ああ、スマン。一応オレ、聖神光明教会の神官なんだよ。だからな・・魔物は生かして置けないんだ、宗教上」
へラッとした笑いの後、男が汚れた槍の穂先を見せた。緑の液体に染まったありふれた鉄槍。
お前・・殺したのか・・
これだけ古い歌なら・・大丈夫だよね?
 




