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裸の王様。

「大変です!!夜分お休み中、申しわけございません陛下!」

 王が水差しの水をグラスに移している最中に部屋の扉が叩かれる。


「ああ、うん。良いぞ、入れ。報告を許す」

(我が国の衛兵は流石動きが早い、誇らしいことよ)


「御就寝の所・・お休み前でおございましたか、失礼しました。」

「なにがあった?」大方の事はわかっているが、詳しく聞こうじゃないか。


「その、まことに申しわけなく、不甲斐ない事ではありますが・・・陛下。陛下の王冠が・・・

盗まれ・・ました・・」


(やはりあの音と震度は、そうだったか・・・)

「それで・・犯人は見付かっているのか?犯罪者は犯行現場に証拠を残すというからな」

・・・多分ヤツだろうが。


「・・それが・・その・・カン田のヤツです、ヤツめ舞い戻ってきたようで・・

あの特徴的な影を兵士達が見ております。」


 で・あるか。「わかった、今日はもう遅い。片付けと報告が終りしだい通常の守備に戻れと伝えなさい。だれの責任かなどは別に責めるつもりは無いともだ」


 走り汗をかき、困惑したような兵士にグラスを差し出す。


「飲んでおきなさい、キミのような忠実な兵をもって私は果報者だ。ヤツ・・カン田の隠れ家は、

この国の皆が知っている、慌てる事は無い。今日はワシもキミも、

お互い不運だったと言うだけの事。気にする必要は無いよ」


 肩を軽くポンッと叩くと、兵士は立ち上がり一礼して走って行く。

(さて、どうした物か・・)国王が微笑みを絶やさず、ベットに腰をかけ、

・・少しだけ昔の事を思い出し、目をつむり横になった。


(そうか・・ヤツが帰ってこれるくらいには、時が過ぎていたのか・・・)

そうだな、今度私の前に立つ者達は、どんな男達だろう。

 将来有望な者達が現れる事を期待するなどと、この今の世界では不謹慎ではあるが・・・・・

王としては喜ばしことだと夢うつつになるのである。


 翌朝、王の玉座の前に膝を付く数人の兵士達の前で、王は笑っていた。

「そう恐縮するものでは無い、まさかあのような方法で扉を開ける者がいるとは誰も思わんよ。

失われたのは僅かな金と冠一つ、皆に怪我も無く、良かった良かった」


「お父様!そんな事を、国王の王冠は国の象徴、

急ぎ兵を集め悪漢のアジトに攻め込み取り返すのです!」


 娘が大声を上げ、兵士達が体を固める。誰に似たのか優しい娘だったのに・・


「無論、我らこの命と名誉をかけ、今日中にでも!」

 隊長が顔を上げ、同じように目をギラギラさせた兵達は、熱く燃えるような気迫が見えるようだ。


「良い良い、冠はホレ、今も私の頭の上にある。お前達は私の冠より、

国を守る為にこの国にいるのだ。そのやる気は民を守るために使ってくれ」


「そ!それでは!・・我らでは力不足と・・」

「そうでは無い、これも王の命だ。お前達は精鋭だ・強靱で頼りになる男達だ、

だからこの様な些事[さじ]にわずらわせる必要はないのだ」


 私は、彼等の前に立ち、皆の肩に手を置いて行く。熱く分厚い筋肉、よほど鍛えているのだろう。

「ふれを出す、我が王冠を取り返した者には褒美を出すと」


 そうだなぁ・・我が国最高の職人による武具・数の少ない最高の古酒・・・やはり金貨が良いか?どうだろう?


「褒美を出す事で、旅の冒険者や流れの武人が集まるだろう?町の男達も

[我こそは]と立上がる者も出るだろう

兵をキズ着けず、強者が集まり町の男達が精強になるなら、安い物だ」


 そして褒美を受け取った者が、我が国の職人の腕を隣国に伝えてくれたなら、冠一つ損のうちにもならない・・は欲深過ぎるか。


「お前達は恥じる必要は無い!王命だ。言いたい者には言わせて置け、

そやつらは私の思惑のうちだ」はっはっはっはっはっ!


 さぁふれを出せ、町中に・国中にこの事を知らせるのだ。


・・・・


「お父様!なぜあのような事を!この様な不祥事を国中にふれ回るなど、王家の恥です!遅くはありません、今すぐ撤回を!」

 その夜、鼻息荒く怒る娘が私の出したふれにいまだ憤り私をにらむ。王様なんだよ・・私は。


 我が娘ながら・・身を守らせる為とは言え、武芸を積ませ過ぎたか?

こんなに元気・・を超えて気丈になってしまって・・これでは嫁のもらい手が・・


「なにをそんな哀れみの目で娘を見ているのです?今はそれよりも王冠の奪取を考える時です!

王が冠を奪われるなど、他国だけでなく、国中の笑いものなってしまいます!」


「笑いたい者には笑わせて置けば良い、事実なのだから」

「だから!それを偽りとするために、誰にも知られる前に!」


 このこは、本当に良い子なのだが・・

「いいかい?我が娘よ・・人の口に戸は立てられぬ。それにな、王家への不満・怒りなど、

いつの世でもある物だ」


 魔王が復活して・・もう40年近くなるのか、森にも平野にも町の空にも魔物は現れ民は安心して畑も耕す事も・狩りをする事も出来なくなった。

 そしてそんな不満は、当然自分達の生活を守れぬ為政者に向かう。


『なぜ税を納めているのに、我々を守ってくれないだ』と、そして無能だと噂するのだ。

だが、国王・一つの王家だけで世界中に布告するような魔王には勝てぬ。


「王の・・王族の出来る事と言えば、時に被害を押さえるために兵を出し、民を避難させ、

時間を稼ぐ事。民衆の混乱を大きくしないために、民を押さえる事くらいな物だ・・

どうしたって不満は収まらぬ」


・・・・・


「なら、王を笑える口実を与えてやればいい。公然と笑えるような事件を。」

「それでは、長きに渡る王家の誇りも伝統も威厳も笑いものになってしまいます!」


「・・王家の誇り・・か?威厳?伝統?・・では聞くぞ?王家の誇りとはなんだと思う?」


「王家の誇りとは・・王族である事を恥じない事・・だと・・思います・・」

「間違いでは無いが・・王の誇りとは、民が笑い・安心して暮らしを送れる国を支えているという自負だ。多くの民の喜びを支えていると言う喜びだ」


 それ以外には無い、どのような軍事国家も・侵略国家も・独裁国家も、

最初は・国の建国時の国王は皆そうやって理想を描いたのだ。


 結果として、飢える自国の民を救うために他国を侵略し・他国に攻められないように軍事化してしまう事になったとしてもだ。


「・・魔物に怯える民を笑わせるためなら、私が道化を演じることの、

どこに恥じる所があると言うのだ」 

 しょせん威厳や伝統・格式なぞ、自国を守るため・自国民を守る為の道具に過ぎん。


「・・いいかい?お前には昔、童話を聞かせた事があっただろう?憶えているかい?」


「・・お父様は・・はい、たしか[裸の王様]をよく読んで下さいました」

「そうだ、私の好きな話だよ。そして私の父も好きだった話だよ」


「私はね、裸の王様になりたかったんだ。どこかの商人に欺され、馬鹿には見えない服を着て城下を歩く、そして子供達に笑われ『王様は裸だよ』と言われて真っ赤になる王に・・

何故かわかるかい?」


・・・・


「その国は、旅の商人が大もうけ出来ると思うほど裕福で、

そして王は大らかで賢明な臣下に支えられ、王が裸で歩いても危険は無く、公然と王を笑い・

王もまた国民の笑顔で笑い出す。たとえひととき、恥を掻いたとしても、

それがなんだと言うのだ。それだけ国が平和である証拠ではないか」


「王族は戦争に負けた時、責任を取る事が最後の勤めだ。理不尽に攻められ、負けたとしても、

民のために首を差し出し・子供の命運すら敵に預ける。

その事を先王から聞いた時、私は逃げだしたかったよ、でもね。


 王が死ぬ事で民の命が救われるなら、それが使命なのだと。

自分一人の命で国民の多くの命が救う事が出来るなら・・それは感謝でしかないよ。

神様が私にお与えになった、私にしか出来ない御役目なのだと」

 

 だから、死ぬことより笑われる方が、自分も民も幸せだろう?と

王は玉座に座って笑った。


 そして、また。父の言葉を、心を理解した賢明な姫も美しく笑うのであった。


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