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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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「交渉成立だ」

 確かに馬車が必要なのは砂漠を抜けるまでだろう、その先は船を計画してる。

『レンタルしてたんだ』とか言って、港の商人に返してもらう事も出来るだろう。

(当然、カネは払うが)


 それでは、ホフメンとの約束を違える事になる。自分を洗脳出来る物を宿に置いておくのは恐いだろうし、明日には洞窟に返しに行く事も考えなくてはいけない。


(人生で、二度も他人に騙されるってのは・・キツイだろ?)

 少なくとも、一度でも一緒に冒険した仲間にするような事じゃないんだ。


 つまり「ピョートル君、きみの推理には決定的な穴があるのだよ・・」

「まだ酔っているんですか?水・本当に汲んで来ましょうか?」

クソ、仲間の信用度が辛い。


「違うよ、先ずは・・そこのホフメン君をその椅子に座らせてだな・・」

 燭台にはロウソクが一本、炎を揺らせて燃えている。その後には[信じる心]


 さて、ピョートルは炎を見ない方がいい。と前置きをしてホフメンを軽く起こす。


「・・んぁ・あ・あれ・・ボク・・」

 酔いが周り、虚ろ・虚ろした目をトロリと開き、ロウソクの炎とその後に光る[信じる心]を眺めて深い息を吐いた。


「ああ、いいんだ・・ホフメン、楽にして・・そう身体を楽に・・よ~~く炎を見て・・[信じる心]が炎でゆらゆらと・・光っているだろう?」

 

・・・・・「ハ・・イ・・ゆら・・ゆら・・」

 起きているのか眠っているのか、その中間の意識の中。寝言のように答え、首を揺らす。


「信じる心は綺麗だなぁ・・心が洗われるなぁ・・」

 信じる心には精霊の魔法がかけられていると言う。

 それなら勇者のような心得の無い者でも、特にホフメン一族になら催眠術をかけられる、そう考えたのさ。


「心・・洗われる・・ああ、心が・・」


「[信じる心]は貴方に信じる事を願っています」

「信じる・・信・・じる・・」


 譫言[うわごと]のように信じる・信じる、と呟き、とろんとした目は[信じる心]から離れ無い。よし、第一睡眠完了。


「信じるのです・・貴方自身を・・貴方が自分を信じ、ホフマンが信じ自らが選んだ事を信じるのです・・」

 他人を信じる必要は無い、他人の戯れ言を信じる必要は無い、見た事も聞いたことも無い神の言葉、伝道師の言葉を信じる必要は無い。


「自分を・・信じる・・自分は・・裏切れない・・」


「自分が信じたい事を信じ、自分の頭で考え・学習し・経験して学んだ事を使って他人を精査し、自分の目を信じ、他人を利用するのです・・」


「・・・勇さん・・」

 お!おっっと!何か間違えたか?ピョートルの目が厳しいぞ!


んんん!「とにかく、自分の眼を開き、見つめ・観察し・学び、経験し、自分の信じた事・自分の眼力・能力を信じ・他人を見定めるのです・・


 そうすれば・・裏切られる事は無くなり、自分の能力不足・経験不足・鑑定眼の過ちとして、後悔は成長の糧と出来るのです・・・・」


『だぁぁぁぁぁ!!!!!』

 勇者の気合いを込めた指さしで、ホフメンの髪は逆立ち、世界が白と黒に明滅して弾けた・・


「・・・う・・うう」カクンッ、

 寝ぼけた酔っ払いには難しかったか・・どうやら眠ってしまったようだ・・


「催眠が効けば・・人生経験を積む為とか言えば、付いて来るだろ?・・多分だけど」

 仲間のはずのヤツ等がうさん臭い物を見るような目で見てくるぞ・・


「・・・スラヲ、お前にも[信じる心]が足らない気配を感じる・・少しそこでじっとして居ろよ・・」


「馬鹿な事は止めて下さい!・・全く、用事は済んだんですよね。片付けますよ」

 冗談の通じないヤツめ、「ハイハイ、片付け・片付け」


 酒宴の宴会芸が終り、酒壺と皿をかたづけホフメンをオヤジと同じ部屋に運ぶ。

・・多分となりのベットだろ、そんな感じで転がしてオレ達も客室の一部屋を借りた。



「・・・昨夜は随分とお楽しみでしたね」

「オヤジさん、そういうのは男女の相部屋の時に言ってくれ」 


「冗談ですよ。イエ、昨夜は久し振りに楽しい酒をいただきましたから・・それで馬車の方なんですが・・」

 結局ホフメンは、オヤジには何も言わず朝から馬車の手入れをしているらしい。


(やっぱりニワカ暗示は、無理があったか・・)

 こうなったら、日傘と水樽をゴラムに背負わせて砂漠越えするしか無いか。水はこの宿の井戸から貰うとして・・


 勇者が必要な水樽の数を考えていた時、妙にさっぱりとした顔のホフメンが帰って来た。


「・・・ユウ・さん、オレは正直アンタみたいなヤツを信じる事は出来ません」

 真っ直ぐに勇者の目を見たホフメンは、それでも真面目な顔のまま言葉を続ける。


「でも、それは自分の目を信じるからじゃありません。まだまだ人生経験が足りませんからね・・自覚はしてます・・だから、オレは疑いの目を磨く為にアンタに着いていって良いですか


・・馬車をお貸ししますのでwinwinですよね?」

 ニヤリ!ホフメンは不敵な笑みを浮かべ、扉の外には磨かれ整備された馬車が見える。

(コイツ・・winwinの使い方を考えてやがったな)


「ああ、オレがクズでどうしようも無い悪党なら、すぐに馬車を持ち帰って貰って結構だ。」

ニヤリ!勇者は親指を立てサムズアップで返す。


「「交渉成立だ」ですね」


 お互い頼り合う・[依存]ではwinwinにはなり得ない、それは代わりの物が見付かれば一方的に切り捨てる事が出来るからだ。


だが、お互いを利用し、利用出来る間だけの協力関係はwinwinなんだろう。

(まぁそれは・・お互いが対等の間だけなんだけどな)


 方便で無い、互いが得意な分野を押し付け合い、効率良く物事を解決する。

(ああ、多分パーティーってのはその為に組んでいたのか)


・・・一方的に頼ってたのか?おれは・・・だから切られたのか・・・

チッ、クソッ!


 オレは、あのクソ野郎共にもう一度会う必要が有るのかも知れない、その時おれは何を聞くべきだろうか・・どんな顔で・・クソッ!


 おれは頭を振って切り替えた、今はその為にもする事がある。その時の事はその時考えれば良い事だ、そう今は、砂漠を抜ける事が第一なのだからな。


最後の一押しが欲しい時、少し強引な手段を使ってでも、後押ししてくれるのはいいヤツなら問題ないんだよ?反対の場合は・・迷惑になる事もちらほら。

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