ゴーレムは起き上がり、仲間にして欲しそうな顔をしてくれるだろうか?
砂漠を吹く風が心地良い、鎧を脱いだ身体に乾いた風が息を吹き込む様だった。
(足は・・動く、腕も上がる、息も出来る)
ベストコンディションだな。
赤く滲む[にじむ」視界は巨大なゴーレムの身体を捕らえている。勇者の足先は砂を掴み、気合いを共に砂漠を蹴った。
オォォォォォーーーー!!!
獣の様な咆哮と狼のように大地を滑る動き、勇者はゴーレムの足元を風のように吹き抜け、すれ違うその間に二本の鋼刃を走らせる。
(違う、コレじゃ無い)
伝わった手応えを確認するように手の平を見つめ、もう一度身体の力を抜いた。
脱力・そして攻撃のあたる瞬間に力を込める事で、拳の威力を上げる。
何度も何度も殴られ憶えた、鉄より固い拳・鎧を衝撃が貫通する拳だ。
それらはアヤメやゴーレムが使っていた技。
足裏で感じる砂の流動、踏めは沈み・蹴れば崩れる砂のもろさ。
砂の形が崩れる一瞬、足を・体重を支えてくれるような、ふたしかな感覚。
(コッチはまだ無理か、でも)
ガキの頃から剣を振り続けたから解る、刃を潰した鉄剣で練習用のカカシを断ち切った時のあの感覚を。
フゥゥゥ・・!
ゴーレムの岩盤のような拳を避け、刃を走らせる。
「クソッ今度は浅い!」
脱力をし過ぎると刃が走らない、力を入れ過ぎると相手の堅さに弾かれる。
左右から連続の拳を振るうゴーレムから飛び退き、その背後をピョートルが刺す。
(逃げてたら駄目だ、とにかく前に出ないと!)
アヤメはオレの刃も恐れずふところに入って来た。
密着する事で格闘の間合いになる事と、剣という武器は超近距離では振れないからだ。
(なら、あのゴーレムのふところも同じだ)
体躯が巨大なゴーレムは腹の辺りに攻撃の隙間がある、そこまで行けば。
前に・前に!
正拳突きをかわし、振り下ろしを受け流し、とにかくヤツのふところに飛び込む。
その瞬間、拳の暴風の中に完全な無風を感じた。
目の前には頑強で巨大なレンガの壁・・?
一瞬の思考の停止、何をしていいのか解らない空白。
う・うぁぁあぁぁーーーーー!!
オオバサミ二刀では近すぎる、かと言って武器を持ち替えるヒマは無い!
とっさに刃を反し、拳を守る鉄柄で殴りつけた。
ガキンッ!堅い衝撃の反射と、物量と質量で押し返される身体。
・・・・
(クソッ千載一遇のチャンスを無駄にした!)
それに自分には、超近距離の攻撃手段が無い事にも気付く。
[魔法拳]停止させた敵に、魔法を込めた拳で殴り付ける技はある。
だが、それでは駄目だ。魔法は違う、コイツを仲間にするにはそれじゃ駄目だ。
(格闘で勝ってこそ、こいつはオレを認める)そんな予感がするんだ。
打たれた脇を、埃をはたくように手ではたき、ゴーレムはオレを見る。
その無表情の顔には、[やるな]・か、[まだまだだな]・のどちらともとれる目の光り。
多分次ぎで最後だ、何となく解る。目の前で牽制し、ゴーレムの足を止めてくれている仲間の背に感謝を。
前後に身体を揺らし、息と意識を合わせ足で砂を掴む。
その時、ピョートルの一撃にようやく敵と認識したゴーレムが拳を振り上げた。
(今だ!)
違う!フェイント、狙いはあくまでオレか!
振り下ろす拳を止め、ヤツの左手が砂を投げ飛ばす。
勇者とピョートルをまとめて吹き飛ばす砂の塊は、しかしピョートルだけを吹き飛ばし、勇者は脱力し砂の波と共に砂丘に飛び、転がり移動する。
目の前にはゴーレムの拳、投砂で吹き飛ばした場所に狙いを付け、渾身の拳を打ち放っていた!
[恐怖は目に写る]
その時、勇者は覚悟を決めて目を閉じ脱力のままに前に走った。
熱く堅く巨大な何かが迫る。皮膚は敏感に拳の放射熱に反応し、次ぎに息を吐き出すように身体を倒す。
身体の半分を捉えた拳は、そのまま空気を削るように押し出され、完全に勇者をはね飛ばし、勇者の身体は回転し捻れるように空を飛んだ。
すぅっ・・空中を飛んだ勇者は息を吸い、目を開く。
[脱力と緊張]、攻撃があたる瞬間・骨に熱い熱を感じた瞬間に筋肉を締め、拳で押される力に逆らわず飛んだのだ。
砂に足が触れる、ダメージはあるがそれは少しだ。渾身の拳を受けて立つオレを見てヤツは固まっている!走れば・・・・・届く!
砂を蹴り、柄を握る腕はダラリ下がり、切っ先が砂を切っている。
身体は横回転を始めていた、それに釣られるように鋼鉄の柄が早さを増し、体重の次ぎに肩・肘・手首と順[じゅん]に筋肉が力を持つ。
身体と腕の完全加速、鉄の鎚と化した柄はゴーレムの堅いわき腹を砕き、衝撃の瞬間全身の関節を筋肉で固定。
「これで・・どうだ!!!!!!」
ミシミシと身体の関節と骨が悲鳴を上げるが、我慢しろオレの身体!
鋼鉄の柄は、ゴーレムの堅い身体の反発を許さず、さらにそこから全身全力で拳を振り抜き、バキバキとレンガが砕け散り、破片を飛ばす!
ズシャァァァ・・・勇者の顔面を砂の大地が擦り削る。
・・痛い、全身の筋肉を締め過ぎて固まって動けない。
(でも、どうやら、オレの勝ちだよな?)
身体の1/3を打ち砕かれたゴーレムはオレを見つめ、そして倒れ崩れていった。
ハァハァハァ「約束通り、仲間になって貰う。まさか文句は無いだろうな」
寝転び顔だけ向けたオレの横に砕けたゴーレム、ほぼ相打ちに近い感じではあるが勝ちは勝ちだろ?
「・・なぜ、お前は、そんなに強く、なった」
上半身と顔だけが残るゴーレムの声。
目の光りを点滅させ、言葉を繋ぐように渋く機械的な声だ。
「?・・中々良い声じゃないか、喋られないとか少し心配したんだが、これでコミュニケーションもばっちりだな」
[中回復]勝負が着いた今、魔法で回復してもいいよな?
自分の魔力を開放した[中回復]、身体が回復の光りで包まれ痛みが熱に変わって行く。
「人間・・言葉が、通じ無い・・グゥゥ・・ムムム」
「いや、通じてる。『なんで一晩で強くなったか?』だろ
・・・阿呆ほど殴られて蹴られて、身体で覚えさせられたんだよ。後は・・どうしてもお前を仲間にしたかったからだ」
この前は『実力を隠していたんだよ』とか『隠された力に目覚めたからな』の方が格好いいと思うんだが・・・そんな力が有れば、とっくに勇者を名乗っているさ。