商人の紹介状、そして馬車を手に入れられるだろうか。
ピョートルはひょっとして・・「村とかに彼女とかいたのか?」
コイツは戦えるし空気も読める、スラヲの面倒も見ているから、気の付く魔物・・ヤツなのだろう。実は子持ちとかだったら・・・
ひょっとしてオレは、ピョートルの家族を引き離したりしているんじゃぁ・・・
「イエ?魔物には、あまり男女付き合いと言うのはありませんね。・・強い魔物には憧れたりしますけど」サラリと不思議な事を言う、魔物でも木の股から生えてくるわけでもあるまいし。
詳しく知りたいような、聞かない方がいいような・・
卵から産まれるんですよ、とか言われたらどうしよう?
そんな感じで頭を使っていると、腹が減っている事に気が付いた。
飯だ・飯にしよう。難しい事は後でいい、緩和休題ってヤツだ!
襟巻き蛇の香草塩焼き・・う~~ん骨が多い、うまいのか?これは。
朝食を済ませ、オレ達は目的の店の戸を開く。
「いら?・・らっしゃい」
ボロボロになっているオレ達を向かえたのは、角覆面の上半身裸の筋肉だった。
「ちょっと無理したんで、修理をお願いしたいんだ」
アヤメに殴られた盾はへこみ、ゴーレムと戦ったハサミは研ぎが必要。鎧も細かく傷付き、酷い状態だ。
「・・まぁ、鎧の修理は必要だな。それで、そっちはやっぱり無理だったか・・」
オオバサミに目を向けた武器屋のオヤジはため息のような、ガックリとしたような言葉を使う。
「・・流石にな、ゴーレムの拳をぶっ壊すくらいしか出来なかったぜ!」
だが、次ぎは勝つ!絶対にな!なにか勘違いしているようだが、オオバサミは最高だ!
「へ?・・あんた、砂漠の守護者と戦ったのかい?あのゴーレムと?・・う、腕をぶっ壊したとか・・本当か?」
急にマスクの奥の目が光ったような。
そしてオオバサミをカウンターに置き、刃を手で確かめながら今度はオレの方に向いて言う。
「ゴーレムの腕を、このハサミで砕いてくれたのか」と。
「それでも刃こぼれもしないそいつは、名品だぞ?少し刃はなめたが、それでも切れ味は・・皮鎧くらいなら切れた・・」女性の武闘着とは言わないが。
へへへへへ「・・そうか、そうか、聞かせてくれてありがとよ!
メンテだな、研ぎ直しと盾の打ち直し、あと鎧の傷も見てみないとな!
ああ、忙しくなる!忙しくなるぞぉぉぉ!!」
飛び跳ねるように武器と防具をつかみ、奥に持って行かれた。
「ああ、直すまで・・上で休んでいてくれ!昼過ぎには直すからな、カネは金属板だな?残高はきっちり残ってんだろな?へへへ!ああ忙しい・忙しい!」
少しだけ戻ってきたおやじは、興奮した声を弾ませて金槌を掴み、飛び跳ねて行った。
・・・まあ、武器は武器の専門家に任せて・・大丈夫だろう・・多分。
カン!カン!カン!、キン!キン!キン!、ゴリゴリゴリゴリ・・
ドタバタと1階から聞こえる作業音、勇者たちは飯で腹がふくれ、疲れは絶好調である。
寝るしかないよな、普通は。
目をつむってどのくらい経っただろう、漂ってくる良い匂いと共に目が覚めた。
甘いような美味そうな匂いだ。
「おや、起こしてしまいましたか?」
若くは無いが、優しく笑う女性は手にパンとスープを持ち部屋に上がって来ていた。誰だ・?
「旦那の方は、もう少しかかるみたいなのでね」
部屋のテーブルにパンをスープが置かれる、食って良いのか?
「・・お客さんのお陰かねぇ、あんなに嬉しそうに鉄を打つあの人を見るのは。
お客さんでしょ?ご贔屓にしていただいちゃって、昨日もず~とよ?お客さんの事ばっかり聞かされちゃってねぇ」
多分、武器屋の奥さんだろう。少しうれしそうに笑っている、期待されていたんだなぁオレ。
「あ・ああ、良い武器を買わせてもらった。蟹も鎧も真っ二つだよ。」
Pーもオレに続き、パンを貰っう。平べったく少し酸っぱいパンと甘味のあるスープ、肉もある、いたり尽くせりって感じだ。
飯を終えて一息ついた頃、1階の音が止った。
そこにあったのは、ピカピカに磨かれた鎧と少し変化したような盾、それに研がれて鋭さを増したハサミと取っ手の皮が丈夫になめした皮を編んである。
「盾については重さは同じだが、攻撃を受ける場所に鉄を厚く、持ちやすくしたつもりだ。ハサミの方も握りやすくなっていると思うぞ、どうだい?持ってくれ」
しっくりと手に馴染む皮で滑らないようになっている編み目、軽く振ると痛かった親指の付け根の負担が少なく、手の平で掴んでいる感じだ。
「すごくいい、そっちはどうだ?」
「重さは変わりません・・・重心を上にして持ちやすくしてあるようですね」
好評だった。
「あんた、こんなに気合い入れちゃってまぁ」
「武器屋を信頼してくれる客には、それに応えるのが良い職人だ。それにカネ払いも良いってきたら張り切るしかねぇじゃねぇか母ちゃん」
多分親子で無いオヤジは・・妻帯者だったんだよなぁ、このおやじ・・少しはまともな格好・・汗をかくから上半身裸はいいとして・・マスクはなんでだ!
(マスクがモテるアイテムなのか?マストアイテムなのか?)
「オヤジ、あと1・・二つ、みかわしの服の布でマントを作ってくれ」
砂漠の昼対策で、直に太陽光線を鎧に浴びたら熱すぎた。
「ヘッ!作るまでも無ぇよ」[みかわしのマント]は、すでに砂漠装備の基本だった。
まいどー!寸法を直しマントを装着、さてそれでは行きますか!ヤツも多分その辺にいるだろうし、探すぞ。[昨日の商隊]を。
砂漠でスラヲが走るのは無理だ、海の生物が焼けた炭の上を歩くような物。
美味しそうではあるが、スラヲからすればまな板の鯉より格上の、食卓の皿の上だろう。
それにバザー目的の商隊も、バサーを過ぎた今なら馬車の数を減らす・・と思う。・・思いたかった。
馬車の集まる広場に、昨夜の商人の姿を発見し交渉する事にする、けれども・・上手くいくだろうか・・・一応借りは作っているつもりだけど。
「う~~ん、確かに命の恩人相手に、なにも返せないというのは心苦しいのですが」
どうも無理っぽい。商人ならカネだろうけど、カネなら多少はあるんだ。
持っている金貨を全て出してもいい。
「その・・私の馬車と言うのは、商人の登録制の物でして・・」
商人の馬車は、国中を行き来する。当然中身の商品も色々な物を運び、中には税金逃れの為の金塊や、禁制の物も運ぶ商人もいる。
その為、どこの・誰が・何を・いつ運んだのか、商会だけで無く国家が管理する必要があった。
登録された商人の馬車を盗み、悪用するもの達からも商人を守り、違反した商人から馬車を取り上げ罰を与える為でもある。
「ですが・・そうですね、個人で馬車を持っていた人間は知っています。紹介状を書きますので、交渉してみてはいかがでしょうか?」
商人の紹介が有ると、無いでは大違いだ。
見知らぬ人間が馬車を売ってくれと言っても聞いてくれない。それ所か、門前払いもある中で逆に商人からの紹介を無視出来る・無視すると商人の顔に泥を塗る事にもなる、と言うのは大きい。
「よろしくお願いします」勇者はきっちりと頭を下げた。
馬車を手に入れるまで、どのくらいかかるのでしょう?
話数が多くて申しわけない。




