王冠を盗んだ者はだれ?
・・実際ピョートルを捕らえた事で戦闘が楽になったと思う。
素早い動き・・(多分スライム)で攻撃をかわし、オレの正面に立つ敵数が減る。
戦闘中、背後を気にせず戦える事で前だけを向いて戦える。それに、
「ピョートル、[回復]だ!」
おれが叫ぶと必ず回復が掛かる、だから傷も気にせず殺し合いができる。
・・・今日はここまでだな、ピョートルの疲労を見て、感じると休ませ。スライムには
魔物の死体を与える。
「・・・こいつ、なんでも食べるな・・そのうち、ご主人も喰うんじゃないか?」
「それは、ありません」横になったピョートルは顔を向けた。
「何故わかる?言葉が通じているみたいだが、心まではわからないだろ?」
人間同士だってわからないんだ、種族が違う生き物どうしなら絶対わかる訳が無い。
「・・私達、スライムナイト属は、産まれた瞬間からスライムに乗る運命を背負います。
そうしないと、この小さな体では生きて行けないからです」
・・・
「成人を得ても人間・魔物、その他多くの生物より小さい私達は、成人になる前からスライムと共に生活し、スライムの面倒を見て、家族のように暮らすのです。
そうして、才ある者は野性のスライムを捕えて育て、騎乗し、通常は家族のスライムに乗ります」
つまり、こいつらは、家族って事か・・確かに・・家族の肉は喰わんな。
フンッ「野暮な事を言った、すまん。もう休んでろ・・」
(結構な数のスライム、刻んできたけど・・それを知ったら)
殺気のような感情を目の前で転がるスライムに向けてみる。
・・・スライムは魔物の肉片を取り込むのに必死で、オレの眼光にも気が付いていない。
耳を澄ませば焚き火の弾ける音と、スライムの消化音がしゅぅしゅぅ・プチプチと小さい泡が弾ける音が聞こえる。
寝ている間にこいつを殺したら、ピョートルは何を言って来るだろう。
怨むか?寝こけていた自分を嘆くのか?それとも絶望して頭をかきむしり涙を流すのか?・・・・
つまらないな、本当につまらない。
今、こいつは都合のいい薬草代わりなんだ、役に立つ間だけは、魔物として・勇者の敵だったとしても、殺さないでいてやる。裏切る事は許さない。
・・・魔物の家族の事なんか知るか・・知るかよ。
まばたきの時間が長くなり意識の切断が繰り返され始めた頃・・・
「おい・・起きろ・・静かに・ゆっくりと・・」
「・・交代ですか・勇さん」まだ眠そうな声と緩慢な動きで起き上がる。
「静かに・・」焚き火の火を消し、ゆっくりと背の高い草群に隠れる。
近づく気配は、魔物の動く音ではなく人間の足音。草群を苅って作ったサークルの中とは言え、
焚き火の明かりは夜は目立つ。
獣や魔物は炎の明かりを人間の人工物と認識しないが、人間は其所[そこ]に人間がいると
判断する。つまり、焚き火の明かりを目指して来るような[足音]は人間の証拠。
(ついに追っ手をかけたか、よその国まで殺しに来るなんてな。余程あの王は
オレに死んで欲しいんだよな)
まだ勝てない、まだ力が足らない。ヤツの通達が入っているはずだから、町にも入れない。
武器屋も宿屋も使えない、そして一度でも死ねば、ヤツの・ヤツの玉座の前で
オレは復活するのだろう。
そして芋虫のように転がされたオレは、芋虫のような体にされ、痛め続けられて死ぬ。
(・・ふぅ・ふぅ・・考えるな、死んで捕まった後の事は考えるな・・)
(今はとにかく、この場をどうするか考えるのが先だ)
遠くで聞こえた話声、大声と混じる陽気で騒がしい騒音。
(なんだ?刺客じゃないのか?アレは・・・)
「親分!上手く行きましたね!」「ホントッスよ!一度ならず二度までも、ザルす!」
「うるせぇ!とにかく走れ、捕まったらシャレになんねぇんだからな!」
大柄の男と鎧の男達、月明かりの暗闇では輪郭しかわからないが、結構素早くだが、
時折スキップとか飛び跳ねたりとか・・
「まさか王冠を二度も盗られるなんてのは、普通は考え無いもんだ。そこをオレ様が油断を突いて盗んでやったって訳よ、まぁオレの知略ってやつの勝利だぜ!」
・・油断は突かない、隙を突くんだ。
それに、アノ声どこかで・・
「さっすがカン田のおやびん!天才てき!世界1の怪盗!」
「・・・・」
「そうそう、あのくそ堅い扉を斧で叩き割るなんて!だれも考え無い発想ですよ!」
一人だけわかっている感じはする、カン田?・・
「早くアジトに帰ってこの王冠を装備して見せてやる!この王冠に相応しい男がオレだって事、
お前らにも見せてやるからな!」
「親分!頭の装備は良いですが、そろそろ体の方・・」
「「「「ダマレ!」」」」「・・・」の男の言葉を他の者が否定する。
「まだわかってないのか?新入り、男の装備は筋肉だ!この最高の筋肉を装備したオレに
体の装備は不要!」
筋肉を見せ付けるように斧を振り上げ、胸筋を腹筋を見せ付けている。
「どうだ?熱いだろ?あの敗北より鍛え上げた筋肉!敗北を経験した事でより成長した筋肉!
もはやパンツすら邪魔に感じているぐらいだ!」
「「「それは駄目だ!」」」周囲の鎧は声を揃えてぱんつを脱ごうとする男を止める。
「おおっとそうだったな、今はパンツを脱いでいる場合じゃなかったな。急ぎアジトへ戻るぞ、
お前達!」
顔からマントをかぶった筋肉の大男、カン田はその体に相応しく無いほどの早さと駆け足で去っていった。
(あいつら・・フッ・・)
「勇さん?あいつらなんなんです?人間?魔物?敵です・・なんで笑っているんです?」
ピョートルは警戒しつつ、顔をむけて驚いたような声で話す。
そしてオレはこう答えた「いいや・・ただの変態だ」よ。




