時には喧嘩も必要だろうか。
「助けないんですか?」
・・・人間だから助ける、魔物は殺す。最近それが正しいのかどうか解らなくなった.
弱肉強食の砂漠で、弱い人間が喰われて死ぬ。オレが自分より弱い魔物を倒すのと、どこが違うのだろうか?
(それになぁ・・自分の意思で魔物を倒し殺すのと、『他人の為』とか言って魔物を殺すのは・・なんか違うよなぁ・・)
「正直どうでもいい、それにこの間、女を助けて酷い目に遭ったばかりだし・・」
あれは・・武器の持たない女一人に、武装した兵士が5人で襲っているように見えたからだ。
・・・逡巡[しゅんじゅん]ためらいグズグスする事、をしている間にあのレンガ像がキャラバンに近づき、鎧の男を殴り飛ばした。
「ヒッ!・・誰か!誰か助けてくれーーー」
最後に残った荷馬車?の中から男の声が聞こえる、そして子供の泣声も。
チッ「行くぞ!追い払えるなら追い払う、殺す必要は無いからな!」
「ハイ!」スライムの騎士が滑るように砂漠を駆け抜け、鎧サソリを叩き斬った。
いいなぁ・・アレ、まぁこっちはこっちで!
勇者は走りながら馬車?を睨む。
(何のつもりでガキなんかを!金持ち商人の道楽なら別の所でしろよ!)
子供を見殺しにするのは目覚めが悪い、それに魔物の餌としても小さすぎるだろ?
だから「その子供は殺させない」
ああ、カネに目が眩んだ・くそ商人は食っていいぞ。
戦士は戦って死ぬだろう、魔法使いも戦いになれば死ぬ事もある。
全ては自分で選択した結果だ、当然商人は商売の中で死ぬ事もあるだろう。
危険を冒して金儲けに走った結果、失敗して死ぬ商人を助ける?阿呆か。
欲得で死ぬのは勝手だが、いつでも助けが入るとは思うなよ。
「よう!一日ぶりだな、お前の相手はオレだろ!」
レンガ像は馬車を殴ろうとした拳を止め、勇者の方に向きを変えた。
(・・これも勇者の呪いってヤツだろうな、魔物に狙われやすいってのは、な!)
焦げた部分もそのままに、巨大な拳を振り下ろす。
一瞬、受けてみたいと思う好奇心。
どれだけのダメージと衝撃なのだろうか?と思う頭と、それに耐えきった時に得られるだろう自信が天秤にかかる。
(今は駄目だ、その時じゃない)頭を振って邪念を振り払う。
今は戦う時だ、試す時じゃない。拳をハサミの片方で弾き滑らせて反動で体を反らせて避ける。
(動きは遅い、砂漠で・あの重量で・あの足なら)逃げるのは容易い。
「アンタ!助けてくれるのか!」
・・・・・
『誰でもいい、神の救いだ』とか『カネは出す!なんでもいから助けてくれ!』とか言い出した時にはコイツを放り出して囮にして逃げようかと本気で思った。
(数が多いな・・本気で囮に・・?)生きている男発見!
瀕死だが・・たしかレンガ像に殴られてた男か。
「おい!生きてるか?生きてたら反応しろ」死んでたら反応出来ないだろうが。
僅か[わずか]に動く目元と口元・・オレと偶然に感謝しろよ。
[中回復]、回復より治療効果の高い[中回復]、これ以上の回復魔法は[大回復]しか知らない。
最近出来るようになったばかりだからな・・人体実験じゃないが・・
ゲホッ「っ、??生きてる?生きてるのか、おれは?」
「今の所はな、だが早く立って戦わないと、今度は本当に死ぬぞ」
冒険者の男がケホケホと息を繰り返し、オレの声で何となく事態を理解したのか武器を掴んで立上がった。
「アンタが助けてくれたのか?助かった」
「それはいい、そっちは馬車の護衛だろ?そっちを守ってくれ。オレは魔物を追い払う・・逃げられる隙があれば逃げろ」このままじゃ朝まで闘乱になる。
「!だが、仲間を・・イヤ、解った。できる限りやる」
周囲に転がる人間と、それに群がる魔物の影を見て男は確保を諦めた。仕方ないんだ、全部は拾えない。
「こっちも助けられるヤツは助けるつもりだ・・・すまないな」
生きていたらの話だ、すまないって言うのは見殺しにした謝罪じゃない、助ける気が殆ど無いって事への謝罪。
話ながらレンガ像の拳をかわす
、(コイツ、オレだけに的を絞ってやがる!)
どこかで恨みでも買ったか?・・ああ、あの焦げか?
振り下ろし、引き・そして振り下ろす。あたれば威力は高いが、攻撃のスピードが遅すぎる。
(とはいえ、コイツだけを相手している訳にはいかないんだよな)
拳を受け流し、周囲を走りながら生きた人間を探す。
(鎧さそりにやられたか・・コイツは無理だな)
あっちでは包帯男にやられた男が見えた、
「オイ!生きてるか!反応しろ!」
包帯男の腕を切り落とし、[火炎]で焼く。
・・どっちが死人だ?じゃないな、倒れている男の胸がわずかに動く。
[中回復]
・・・・
3人ほど助けて馬車に向かわせる。
さて、待たせたなレンガ像。いまからは、オレ達だけの戦いだ!
レンガの顔の奥で目が光る、向こうも本気だ。
チラッ
相棒の方も何とか善戦している、こっちも負けるわけには、ピョートル方に目を動かした瞬間、レンガ像が深く腰を落とし拳を突き出した。
(マズイ!)本能が拳の威力を測り、体を背後に弾き飛ばす。
拳に打ち出された空気が重く、背後に飛んだ体をさらに後に押し下げる。
そのままレンガ像は次ぎの拳に力を溜め、無心に拳を振り下ろす。
仲間を信じる、それはお互いを庇い合う事だけじゃない。彼と我の力を信じ戦場を任せ合う事も同じだけ重要なのだろう。
(こんな戦闘で下らない怪我はするなよ)それくらいなら撤退する、巻き込まれた・・自分から飛び込んだとしても、自分達には関係ない戦場だ。
最悪子供を守れ無くても、自分達の身の安全を優先する。
「とは言えだ、レンガ像・コイツの目は・・ただ強い奴と戦いたい、それだけなんだろ?」
力を振るいたい、敵と戦い・殴り合い伐ち倒し、強くなりたい。そして強いヤツと戦って全力を出し切り、負けて滅んでも悔いは無い。そんな目だ。
(ピョートルのヤツも時々あんな目をしやがる・・・魔物の本能か?)
動物は生き抜く為に力を付ける、なら魔物は・・力を付ける為に生きている?・・まさかな。
何となく解るのは勇者の呪いだろうか・・魔王を倒すために生かされ・力を付けるまで終わることのない命・・
(なら、お前とオレは似た物同士って事か?)
魔物とオレと、似た物同士なら、わかるよな。これはただの喧嘩だ、殴って殴られて倒して倒されて、スカッとしようじゃないか!
フフッ、ガキの頃は良かったな、偉い大人の目なんか気にもせずにこうやって、
げんこつで解りあってたんだよ、オレ達ガキは。
どっちが強い、どっちが意地っ張りか、それだけわかれば十分だったんだ。
そこに上下は関係ない、ただお互いの意地と根性を拳でぶつけ合う儀式だった。
(殺し合がしたいんじゃないよな、お前も、オレも)
オレの頬が上がり、呼応するように叫び、二匹が共に走りだす。
先に拳を振り上げたのはレンガ像、だが早かったのはオレだ。