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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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砂漠、それは無知な者を飲み込む熱と砂の地獄だった。

 さまよっていた鎧は起き上がり、仲間にしてほしそうな顔でこちらを見ている!

・・・いや、いいから。


さまよっていた鎧は寂しそうに去って行った・・・


「・・なんだかなぁ・・数秒前まで殺し合いをしていたのに、なんで仲間になろうととするんだ?」

・・確か昔、どこかの軍棋名人と軍人の話で、軍人が『オイ!軍棋ってのは野蛮なゲームだな、倒した敵の駒を自分の駒として使うなんて!』


って言った時に軍棋の名人が

『・・じゃあ、捕らえた敵の駒を二度と戦え無ぇようにするって事が人道的なんですかね・・それにオレなら捕らえた駒を誰より、敵さんの誰より上手く使ってやれるって気がするんですがね』

て答えたとか何とか・・・


 オレの顔は、魔物を上手く使う人間に見えるのか?


 ゾンビ・鎧・回復スライム・・彼等を仲間にしたとして・・オレは世間にどう見られると思う?これ以上目立って暗殺者とか送り込まれたら逃げられ無いだろ?


(あと、手足を斬り飛ばしたのに・・なんで立上がる時には治ってるんだ?・・魔物は不思議だ)


「この辺の魔物にはもう負けなくなりましたね・・どうしました?」


 確かに、オオザルのやつはどこで覚えてきたのか、手の平サイズの白旗を振って降参のアピールをしてくるようになったし。


「・・ああ、ピョートル、少し考え事をしてただけだ」


 魔法無しでも十分戦える、それは魔法力の全てを回復に回せるって事だ。

・・よし、これなら砂漠越えも何とかなるだろ。



・・結論、砂漠の敵と戦えるって事と、砂漠を踏破できる事は違う。

焦げるような日光と足を焼く砂、肌に着く砂は服の間に入り込み肌を擦る。


 喉を焼くような空気、立ち止っていても消耗する体力、目に指すように光る砂と太陽。

背負ってきた水は予想以上に早く消費し、砂漠ではヒトは生きているだけで奇跡に等しい。


「砂漠を舐めてた・・」こんな所で[旅の翼]を使うハメになるとは・・まだ砂漠に入って1日目だよ。

「スイマセン、スラヲが」


 一番水を消費する仲間、それはスライムのスラヲ。彼?は砂漠の砂に触れると飛び上がり、ジュウジュウと水分を蒸発させて体が縮む・・見た目通り水分が多いからだろうか。

 スラヲの体は常時50℃くらいの温水みたいになってる。


「気にするな、仲間の特性も考えずに動いた結果だ。オレが悪い」


 それにようやく日が傾いてきたんだ、砂漠の夜を経験してから町に帰って反省会。準備等の見直しして再出発、砂漠の恐ろしさを肌で感じて経験できたって事で良い方に考えよう。


「砂を掘るから周りを見ていてくれ」

 盾を外し砂を掘る、遮蔽物[しゃへいぶつ]の無い砂漠で火を起こすと炎の光りが遠くの場所まで届く。少しでも、周囲にもれる光りを減らす為の工夫をしないと。


「それならオレが、勇さんは休んで下さい」

ピョートルは手に持っていた盾を掴んだが、オレはそれを止めた。


「ピョートル、お前の盾はオレ達の生命線だ。おれはお前の守りで何度も命を拾ったんだ。それにこういう穴掘りとかは、オレの方が上手い」


 自分の丸盾をスコップ代わりに突き刺し、砂を掻く。サクッと軽く細かい砂は簡単に掘れる・・だが簡単に埋る。


「大丈夫だ、お前は十分役に立っているし、頼りにしている。お前の盾がオレ達を支えている・・って言ってもいい・・スラヲもな、これからも・・頼むぞ・」

 よいしょ・よいしょと砂を掘り、周囲も含めて太股の辺りまで掘り進む。


(・・こっぱずかしい事を言う時は作業しながらがいいな、会話が止っても体だけ動かせば良いからな)

 もくもくと身体を動かしていると、日は完全に落ちて星空が広がって、周囲は光がないと姿が見えないほどに真っ暗になっていた。


「よし、木炭を出して、手加減して[火炎]!」

星明かりしかない不安な闇が、炎の光りで照らされヒトの領域が作り出された。


「・・砂漠てのは、熱いだけじゃないんですね」

 急激に風が冷え、スラヲが小刻みに振るえていた。

(・・寒いのか?)


「昼は鉄が手で掴めない程熱くなり、夜は凍えるほど冷たい風が吹く・・らしい。

革手袋越しで無ければ武器も掴めないって話だ」

 お陰で皮手袋越しでも熱のせいで、親指の付け根が少し焦げて痛くなっている。


「なんで人間はそんな所に住んでいるですか?魔物でも住みにくいと思いますよ」

 そうだなぁ・・おれも同感だ。だからこそ、国王から逃げるには最適なんだよ。


「たとえば・・昔、それもすごい昔は緑の土地だったとか?人間は土地を簡単に捨てられないからな」

 少しずつ・少しずつ砂漠化して、そこに住む人間は徐々に順応して・・今に至るとか?先祖代々の土地は例え砂漠でも、捨てて他の土地で暮らすわけにはいかなかったんだろうか?


 ん?木炭の赤い火で手を温め、スラヲの体が丸から滴のような形に垂れ始めた頃、夜の闇に金属のぶつかり合う音が聞こえる。


(夜盗か?それともどこかの冒険者が戦闘してるのか?)


 感覚的に、砂漠を行く時は夜の方が良いのだろうと思ってたからな。

砂漠に慣れた冒険者はきっと夜中歩き、昼間動き回るのは阿呆なのだと。

・・・オレは阿呆じゃない!知らなかっただけだ!


(少し様子を見るか)装備や隊列、魔物の種類や使う技・弱点がわかるかも知れない。

「ピョートル、休んでいる所悪いな」

「イエ、私も気になっていたので」


 となると・・完全に油断しているスラヲが気の毒なのか?

なにか訴えるような目で勇者を見るスラヲの視線を背に、音の方角に行ってみる。


・・・・おっと、火は消さないと。


 魔法コウモリと・・・鎧サソリか?アイツの一撃は痛いんだよなぁ。


(戦っているのは・・商隊か?護衛のヤツらは・・それなりに強そうだが、魔物の数が多いな。時間をかければかける程、魔物が集まって来てやがる)


 護衛の冒険者が空振りを繰り返し、泥の手が足を掴んで倒し、その身体に群がるように魔物が集まっていく。


 夜のていおう、だったか?アレの魔法か?

[幻惑]魔法を使われると敵の位置が掴み辛く、攻撃が外れる。物理だけで戦う戦士職の弱点の一つだろう。


(後は[硬化]と[鈍足]と・・戦士職には弱点が多いなぁ)

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