仲間とは。
あ゛あ゛あ゛あ゛・・・なんでだよ、なんで・・なんでだ!
馬鹿にしてたんじゃ無いのかよ!見下していたんじゃ無いのかよ!
邪魔だと!不愉快だと!死んでしまえと!思ってたんじゃ無いのかよ!
涙が出た、訳が解らない、オレは殺したいほど疎まれていたんじゃないのかよ!
ヴヴヴヴヴヴ・・声を上げる訳にはいかない、あの国から逃げる事は出来たけど、
夜の帷はまだ開けてはいない、魔物が声に反応するかもしれない・・・くっ!
口を閉じて頭を地面で押さえるように、小さく丸くなって声を殺す。
解らない解らない解らない・・・訳がわからない、迷惑そうな顔をしていただろ?
オレの顔も見たくないような顔で薬草を・毒消しを売っていただろ!
「オレは、オレは!いらない人間じゃないのかよ!」・・・・わからない、
あの王も、本当はオレの事を殺そうとはしていないのだろうか・・解らない・・わからないよ・・
ガサッ、暗闇からオレを囲むような動きが聞こえる。ガサガサガサと・・
五月蠅ぇんだよ!この虫けら!が!
大ムカデが無数の脚を動かし、鎌首を上げてアゴ牙を開く。
アゴがこいつの武器じゃないのは知っている、こいつはアゴで捕らえた獲物に毒を刺して殺す虫だ。
だから、そのアゴを砕き、首の後間接に銅の剣を突き刺して振る。
仲間の瀕死も気にせず次々と虫ケラが集まり、沸き上がり、体に集る。
[火炎線]!手の平に集めた魔力を、力ある言葉で魔法に換える。
一群に炎の熱が広がり、脚や触覚を焦して動きを邪魔する。
ハァハァハァ・・「火力は足らねぇようだが、十分通用しているよな?」
動きの鈍くなった虫ケラを殺し尽くすなど、そう難しい物では無い。
(とくに・・今は、無茶苦茶にしたい気分なんだ・・)
殺す・殺す・殺す・殺す、[火炎線!]虫もコウモリも、[真空!]野菜も案山子も[炎!]ウサギも、集まってくるヤツは全部殺す、殺し尽くした。
『勇者はレベルが上がった』「うるせぇ!」
この不愉快な天の声は益々オレの神経を逆撫でしてくる、ガタガタウルセェんだよ!
頭の中でゴチャゴチャ言う声を、魔物の死体を叩き潰す音で掻き消す。
っぅ・・頭に靄がかかり、ガックンと力が抜ける。
怒りと混乱で掛かっていたブーストが切れたのか、体が重くなる。
(クソッ、テンション下げやがって!)頭が重い。
宿屋に泊まるのはしばらく無理だろう、まだあの国からそう遠くには来ていない。
フラフラの頭と重い身体を引き摺って、魔物がいない・人間も来ない場所を探し、
林の中に入って行く。木陰さえあれば、多少は・・休める・・だろう・・。
っ!頭がまだ少しキリキリする、それでも立てない程では無い。
(魔法は・・回復にしか使わない方がよさそう・・毒は・・毒消しは・・3つか・・)
今はできる限り、城から逃げないと・・
そうは思うが、この辺りの魔物は城下の魔物より、少しだけ強い。
(勝てないほどでは無いが・・)このままではじり貧、特に毒を使うヤツに会ったら
この辺りの道具屋が、扉を開けてくれるとは思わない方がいいだろう。
休みながら北を目指し、サソリや幽霊を叩いて殺す。魔物が持っていた薬草を噛み、
肉を焼いて喰う。
殺して焼いて喰って寝て、二晩が過ぎた。さすがに限界が近い。
「ウゼェ!チョロチョロとこのチビが!」
鎧を着た魔物が魔物に乗って立ち塞がる、殴っても殴っても、
[回復]を使うチビの魔物、・・・回復?回復だと?
(こいつ・・)よし、兜を着けた頭を殴り、体を殴り飛ばす。
・・・・「オイ、気が付いたか」
ようやく起き上がった魔物を見下ろし、オレは剣をつき付ける。
[回復]魔物が体を回復させると、オレは殴り倒す。
「いいか?よく聞けよ?お前が回復する度に、おれは回復した分のダメージを与える。何度でも・
何度でもだ」
[回復]魔物が回復した瞬間、乗り物の魔物に飛び乗った。逃げるつもりか!
「魔物が!」回り込むまでも無い、背中に剣を叩き付け、下の魔物ごと潰す。
「いいか?この状態で、おれが、逃がす訳ないだろ?」
「・・殺せ・・」魔物が兜の中で声を上げる。
「そうか・死にたいのか?でもお前は殺さない、その下のやつ、お前が起きるまで守っていたスライムを先ず殺す・・その後ジワジワ回復するより少し多めに痛め付けて殺す・・・そうだ、
それがいい・そうしよう」
ぴぎぃ、スライムを狙うと、小動物の悲鳴のような鳴き声がした。
「待て!何故そんな事をする!殺すならオレから殺せ!」
「・・お前は死にたいのだろ?なんでオレが魔物の言う事を聞いてやらないといけない?
お前達は敵なのだろ?ならされたく無い事をするのが戦術って物だろ?」
「・・なにが、目的だ・・こいつを相棒と殺さないためには、どうすればいい・・」
「ようやく話を聞く気になったって所だな、なに、簡単な事だ。オレに従え、
オレの手下として働き、オレの言う通りに[回復]を使え」
・・「魔王様を裏切れというのか?」
「そんな事は言ってはいない。オレに従え、従って回復を使えと言っている。
どこにいるかもわからん魔王の命令に従って死ぬより、オレに従って生きろと言ったんだ」
・・・「お前は人間か?本当に人間なのか?なにか、人とは異なる物を感じるが」
「人間なら従わず、ここで死ぬのか?魔物ってのは変な奴だな?質問の返事は2つだ。
ここで苦しんで死ぬか、オレに従って生きるか?だ」それ以外の選択肢なんて与えていない。
逃げようとすれば殺す、魔物相手なら遠慮無く殺せるから楽だよな。
「・・お前は・・オレ達を扱き使い、利用して殺すのか?ならここで・・」
「死にたいのか、なら早く言えよ。良し!殺す!スライムの断末魔を聞きながら、あの世へ行くための鎮魂歌と思って、苦しみながら死ね!」
「待て!待ってくれ!待って下さい!・・せめて、このスラムの食事と休憩は約束してく・・
下さい・・・」
「・・裏切れば殺す、隙を見て逃げたとしても、逃げた辺りの同族を全滅させるつもりで殺し尽くす・・いいな?」
・・スライム騎士、ピョートルが仲間になった。