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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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悪魔は美しい天使のような微笑みで人間を欺すもの。

 汗を流す為に水を浴び、服を着替えたヨシュア達は昼を過ぎて神官長の部屋の扉を開く。

そこにはすでに候補が二人、静かに座っていた。


「遅れました」ヨシュアは一礼し席を引く。

 そのとなりでは笑いながら会釈をして座るライヤー。


「遅い!神官長様をこんなに待たせるとは何を考えている!」

 黒髪の候補がにらみ付け、声を上げた。


「そう怒んないでよアヤメちゃん、汗だくのままで来るってのも無礼でしょ?それに時間指定も無かったしなぁ?汗くらい流させてよ」

 

 キサマ!

「止めろ、オレ達が遅れたのは事実だ」

 申しわけ無いと、再度ヨシュアが頭を下げたのは、アヤメと呼ばれた候補が机に手を付き立上がろうとした瞬間だった。


「確かに私の方で時間指定はしませんでしたので・・落ち度はこちらにあります。皆さんが争う理由はありません。押さえて下さいませんか?」

 神官長の笑顔でアヤメが渋々と席に腰を戻した。


「・・では皆さんがそろったと言うことで、話をさせて戴きます」

左右の席に座る彼等を見て神官長が口を開く。


「?皆さんって一人足らないんじゃないの?あと一人はどこいったんです?」

「彼は辞退しました、別の要件があると言う事なので」

 ライヤーの言葉に神官長は笑顔のまま答え、そのまま話を続けた。


「偽勇者が行方が見付かりました、元勇者と言うべきでしょうか?」


・・・


「仮にも神様に選ばれ、王国の人々に育てられ、屈強な戦士達を護衛に与えられて逃げ出した・・臆病者です。勇者とは言えませんね。

 かの男はその後も反省せずに、何年も部屋に引き籠もり怠惰のままに過ごし、怒りのままに無意味に弱い魔物を狩って腹を満たしていたと聞きます」


 臆病・怠惰・怒り・傲慢・飽食、それらは教会が悪とすべく人々に戒めていた行為である。それに加えて神の命に従わなかった事、それは反神・神に逆らう行為である。


「私達教会は彼を捕らえ、もう一度神様の啓示を受けさせる事にしました。当然十司祭会議での決定です」


 十司祭会議、各地・各国で神様から司祭の資格を与えられ、布教に従事している神官達の長が集まり、教会の運営や重大な事を話し合う会議であり。


 その決定に全ての信者は従う義務がある。そしてそれは一国の王の権力より強力で、かつては一国の王が[異端]の烙印と共に排除された歴史もある。


「臆病者を捕まえる為だけにオレ達を?そんなの他のヤツにやらせときゃいい、オレ達はもっと強い魔物の相手をするべきじゃ」ねぇの?と、ライヤーがまで言う間も与えず、


「神官長様の言葉に異議を挟むな!私達は神と教会の指示に従い忠実に任務を果していればいいのだ!」

 アヤメはライヤーの言葉を封じて睨む。


 聖神光明教会、至高神と呼ばれる神の信徒達を束ねる世界で最も大きい教会。

そして今彼等の使命は魔王を倒し、魔物を討ち滅ぼす事。


 勇者候補も含め、全ての神官・全ての神官戦士達は日々鍛錬と共に世界中の魔物と戦い、世界の人々を守っているという自負がある。


「・・ライヤ、キミの言う事もわかりますよ。今は強力な魔物を倒し、人々を救う事も重です。


 が、これは決定事項なのですよ・・それに今は一刻も早く偽勇者を捕らえ、審問にかけ、啓示の間に連れて行く必要があるのです・・神様は間違う事は無い、ですが我々が意思を間違って受け取ってしまう事がある事も事実なのです・・解りますよね」


 神様は間違わない、だが神様の言葉にナニモノかの妨害で、人々にねじ曲げられて伝えらた・・とされる事はあった。


 つまり、偽勇者の背後にナニモノかが存在し、その力で啓示の内容を狂わせた。

と言う事も、そして『偽勇者の背後には魔王と匹敵する神の敵がついている』

 それが今教会で信じられ、噂されていた。


「[捕らえて見ればわかる事]、ですよね。ヤツは今どこにいるんですか」


「たしか・・[ランガ]と言いましたか、砂漠の近くにある町だと聞きましたが」

 神官長は机の上に地図を広げ、指をさし示す。


「遠ぉ!・・いや神官長様、こんな町[旅の翼]でも半日は・・てか、この町に行ったヤツを探すだけでも難しいっていうか」

 旅の翼は行った事のある場所・町村城にしか行けない。まして大陸の北にある総本山のこの教会からでは行った事のある人間も珍しいだろう。


「その近くまで行ける人間は、今手配中です」

 それまでに逃げられる可能生はありますが、とつづけ、


「多数を派遣すると、信者達に余計な心配をかける事も考えられますので、最も信頼できる貴方達にお任せするのです。お願いできますか?」


「まぁ臆病者の異端者をしばいて連れて来たらいいんだろ?簡単なお使いだ・・どこまでやっていいかにもよるけどよ、万が一」

 力加減の失敗で殺してしまう、そんな事もあるかもしれない。


「捕獲対象が抵抗したら、それなりのお灸をすえていただいて結構ですよ。当然殺してしまっても、勇者を名乗っている者なら生き返らせる事も容易いですし」

 殺して死体を持ち帰る事も容認します、それが教会の方針と伝える神官長は彼等に再度伝えた。


「偽勇者が存在するだけで他の[勇者候補]達に新たな啓示が降りて下さらない、

 彼がいるせいで、魔物は減らず・魔王の力は増大するばかり、世界が平和にならない事も人々が今も苦しんでいる事も、全ては神を欺き、啓示をねじ曲げた偽勇者のしわざです・・わかりますね?」


 全ては勇者の責任、そうする事で教会も全能なる神を疑う信者を無くす事に成功している。勇者を[悪魔の使い]と呼ぶ者さえいるのだ。


「その偽勇者を伐ち倒す者こそ、教会は勇者に相応しいと考えているようです」

 教会の勇者候補が偽勇者を伐ち倒し、新たに啓示を受ける、それこそが教会の狙い。

 最も教会に尽くし、そして勇者に選ばれることで勇者を[教会が選ぶ]と信じさせるのだ。


「・・・さて・・?3人には神のご加護を・・本山の2人には特別なご加護を与えますので少しの間お待ちなさい」

 神官長が少し目を離した間にアヤメの姿が消えていた。

(・・彼女は分派の人間ですから別に構いませんね)


 もう一人の候補にも軽く加護の術を使い、退出させる。

そして少しのあいだ席を外し、金の器を手に戻って来た。


「特別な加護の力が込めてあります、お飲みなさい」

 ヨシュアと共にライヤーが器を手に取って中の液体を飲み干した。


 ウッウゲッ・・ごほっ・ゲホッ・・スマネェ、肺に詰まった、ゴへッ!ウェ!

 ライヤーが咽せ返し、液体をこぼし、開いた窓に向かって咳きこんで吐き出した。


「ゴホッ!ゲッ、、スンマセン、神官ちょっ・・げほっ」


「・・・落ち着いて、大丈夫ですよ。もう一度加護をしますので」


「いっ、いや・いいすっウッ、ごほっ、オレ、ヨシュアと一緒に行きますんで、ゲホッ、偽者なんてコイツ一人で十分過ぎますカッ!げほ・・」

 息が出来ないくらい咳き込み、何とか返事をしながら部屋から出て行った。


「・・皆さん、まとまっていただきたかったのですが・・・頼みましたよヨシュア、私は貴方が一番次ぎの勇者に相応しいと信じておりますよ」


 神官長は深く頭を下げ、ヨシュアの手を取った。

「詳しい指示書などは、近くに飛べる者と引き合わせる時にお渡しします。」


 ヨシュアは、神官長の下げた頭に並ぶほど深く頭を下げ。

「お任せ下さい!必ず偽勇者を連れて戻ります」

そう言って手を放した神官長に誓い、部屋を後にした。


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