戻って来た、あの忌々しい思い出の場所へ。
「あの時は自分の置かれた環境を理由に、他人を不幸にするなって言ったけど。
自分達が生きる為に仕方なくさせられた事に罪を感じなくても・・いいのかも知れない・・・と思う。
それでも・・それでも他人をキズ着けて、なにも感じない人間にはなって欲しく無い・・・二つになっちゃたな、ごめん」
恥ずかしくて顔が上げられない、どうせ呆れてるんだろ?
「ピョートル!行くぞ!走れ!」
「ぴぇ!」スラヲの声が後で聞こえる、すまないオレの羞恥心の為に走らせてしまって。あとで骨付き肉をやるからな。
最後まで締まらない、やはり女性慣れしてないから格好悪ぃなオレ。
(ハァハァハァ・・十分離れたか?)走り続けて10分くらいか、本気で走ったからアバラ・・脇腹が痛いよ。
「ストップだ!止まれ!もう十分だろ」
ぴょぇ・・ぴょぇぇ・・スライムの息継ぎ?・・謎の呼吸音が・・
「いいですか?勇・ジョンさん?あの人間、じっと見てましたよ?」
上に乗るピョートルは息が切れてない、ごめんなスラヲ無理させちまって。
「ハァハァハァ・・あれは呆れてるか馬鹿だなと見ているだけだ、ああ恥ずかしい!」
心に傷が、ううぅぅ・・
「そんな感じはしませんでしたが・・・人間は難しいですね」
仲間がフォローをしてくれるのは、ありがたいな。早く忘れる事にしような相棒。
ふぅ・・よし、息が戻ってきた。それでは早速、次ぎ旅の翼を使わせてもらう。
道具屋でいくつか買っても不審がられ無かったからな、認識阻害の効果は絶大って事だろう。それに次ぎの町こそ本番、国王にバレたらまた野宿暮らしが待っているんだからな。
その翼が向かう先は、勇者が最後に訪れた町。かつてのパーティーに捨てられ泣きながら帰った心傷の場所。さあ運んでくれ[旅の翼]!
そらに舞上げた翼は魔力のサークルを作りオレ達を引っ張り上げる、そして体は空を飛んだ。
・・・風が熱い、乾いた風が真夜中の砂漠の熱を吹き上げ、ちょうど今、日が落ちた事を示していた。
「・・あの時と・・時間も同じかよ、くそ」
ボロボロになって一人遅れて歩いた記憶、ヤツらの背中から聞こえる馬鹿にする声と言葉。その先に待つ追放された記憶。
「どうしたんですか?」
足が震えて立ち止っていたオレの背中に声がした。
「・・いや、なんでもない・・少し思い出していただけだ。少し町の外で戦ってみてから宿をとる。朝までは武器屋も開いてないだろうからな」
そうだ、おれの背中には仲間がいる。コイツの前でおれはまた格好悪い所なんてみせられない。
(あの頃とは・・違うんだ・・おれは)
「クソッ、堅い!この馬鹿ガニが!」
砂に足を取られ、緑のカニの堅さに鎌が弾かれる。
「勇さん!カニが[硬化]を使いましたよ!なんですかアレは!」
サルの拳は痛い・亀の体は硬い・包帯ミイラとゾンビが仲間を呼びやがる、空っぽの鎧がさまよい歩き、レンガの像がこっちを見ている。
「夜中だからな!魔法コウモリに気を付けろ[火炎線」を使ってくるぞ!」
魔法を温存したいが出来ない、[氷結]をカニの頭に叩き付け、ピョートルの槍が甲羅の隙間に刺さる。
「押さえます!」ピョートルが槍で突き押さえ、その横をオレが走る。
「頼んだ![氷結]!」内側まで冷気が浸透しカニが止る、これでようやく一匹か・・残りあと3匹、それぞれが[硬化]を連呼し身を固める。
・・・「よし解った、次ぎからはカニは無視だ」
魔法の連続使用、ピョートルの[火炎線]と合わせてカニを焼いたが、魔法職でも無いオレ達には向いていない。
「・・回り込まれないようにしないと、ですね」
・・ああ、ソンビがこっちを見てるな・・?どこかへ去っていったならいいか。
空の鎧を蹴りで倒し・・回復スライム・・(どうするんだ?)
触手で叩いて来たので倒す。
亀は堅いが、甲羅以外の場所を[火炎]で焼けば顔を出す。
・・来た!レンガ像!
「デカイ!気を付けろ、動きは遅いが」拳は重い!
鎌の刃がすべり、強い力が鎖ごとオレを引っ張る。
「槍が通りません!削れますが!コイツも魔法で倒すしか・・」
ピョートルに向かった拳を鎖で絡め、軌道を変えてかわす。
「命は大事に!一発でぺしゃんこにされるぞ、油断はするな![火炎]」
炎がレンガの体を焦し、少しだけ黒く跡が残る。(これは・・無理だな)
?!「逃げるぞ!周りにも集まってきた!」
砂漠の魔物は飢えているらしい、一箇所で戦っていると戦闘の音に釣られて集まってくる。狙いは当然、[人肉]だろうな。
・・・・
「結局勝てそうなのは、あの腐った犬と鎧と・・」
「亀と包帯のミイラ、それとゾンビでしょうか?」
物理が効かない相手はシンドイ、素早い魔法コウモリも数がそろうと面倒だ。
「魔法を温存するのは無理か、でも帰りの事まで考えるとなぁ・・」
限界まで戦い、[旅の翼]で町まで帰る事もできるだろうが・・
「そっちはどうだ?あと少しくらいは戦えるか?」
「・・そう・・ですね、[爆破]なら2・・3くらいは」
[回復]もあるからなギリギリか、よし、次ぎのヤツらを倒したら宿に行く。
そう思いながら大ざると戦い、瀕死になって町まで歩ことになった。
クソッ!あのサル、本気で殴り過ぎだ!
ようやくトラウマを乗り越えるべく砂漠の地へ、新しい仲間と新しい装備はいつ使いましょうか。




