本当の黒幕はだれなんだ?
「ご名答、ですわ・・・勇さま」
大きな目はキラリと光り、子供のような笑顔を浮かべて・・屋敷の大きな窓から入る朝日に髪がキラキラと輝かせて・・まるで・・
「あの方と人生の2/3を引き替えに、[幸せ]をお願いしたのはわたくし。飢える事も貧しくなる事も、[恐怖]も惨めな思いも、全てを遠ざけていただいたのですわ」
・・恐怖・・か、
「つまり・・今は本人って事か、それでお嬢様がオレに直接話があるって事なんだろ?」
残念だが、ゴモリーとの契約は完了したのだろう。後はアンタが奪われるだけだ、オレに何を求めても、もう手遅れじゃないか?
「?・・?いえ?わたくし、勇さまと直接お話ししたかっただけですの。あの方の心を少しではありますが、動かした男はわたくしの知る限り、勇さまが始めてなのですもの」
・・・なんだろね、嫌われたか・気に入られたの二択だろうけど・・
「多分、おれが[勇]だからだろ。魔物の敵の象徴みたいな物だからな。本能的に、他とは違う反応をしただけじゃないか?」
直に殺したくなった、とか?
(・・・おっかないな、恐すぎる)
「?・・そうなのでしょうか?女のわたくしから見ても・・フフッ、馬に蹴られたくありませんから、この話はここまでにいたしましょう」
(毒蛇と力を合わせて[幸せ]を願う・・か、エモノにはなりたくないな)
「それで?それだけか?悪魔に目を付けられましたって忠告なら感謝して受け取るが・・」
どうせそれだけじゃないだろ。
「・・本当につまらない方、ゴモリー様のような美女に特別扱いされたのですから、少しはドキドキとかするべきなのでは?・・・急にそんな反応をなられても、こまりますが」
嘆息[たんそく]、方を下げパンを摘まんで口にしてからのもう一度嘆息、オレが悪いのか?
「まぁ、美女だって事は認めるよ。ホモでも無ければドキドキしてスープも口に通らなくなるな、普通は」
オレが普通の男で、ゴモリーが悪魔で、お嬢様の本性さえも知らなければな。
「お褒め戴き光栄ですわ・・つまらないお世辞でも、言ってくれる人によっては聞こえかたも違いがある物なのですね。・・簡潔に言いますと、邪神像の報酬に関してです、お気づきのように邪神像の役目は終り、皆さんにはいつでも報酬をお支払いする事が出来ますが・・」
領主が『3日ほど待ってくれ』とか言ってたからな、それに新領主様は引き継ぎで忙しくなる。
つまり、『早く出て行け』ってところだろう。
「カネ払いが良い事は美徳だな、それでオレに口止め付の割増料金でもくれるのか?」
こっちも素性がアレなんで通常の2/7で十分なんだが・・
「話が早いのは助かります、ついでにあの悪魔も連れて行って下さると助かるのですが・・それも解決は数日と聞いています。では」
お嬢様は、オレの背後に立っていたメイドの顔に目線を向ける、それだけでメイドさんが動き、となりの部屋から小袋を運んで来た。
「一つはジョン様の取り分、そしてもう一つは魔物さんの分、あとの一つは口止めとなります。お納め下さい」
カートに乗せられた袋がテーブルに置かれ、チンッと音を立てた。
(中を確かめる・・ってのは無粋か、冒険者なら確かめるんだろうが)
「ではありがたく」金属の重みが手にズッシリとくる、多分金貨だろうが・・
銀行を利用出来ない状態だから、もう少し少なくても・・って言うのは駄目だろうな。カネは大事だ。
「遅れたが、二つ目の質問だ・・・あいつらはどうなる?」
生け贄にされた領民、もしくは攫われてきたのか・売られてきたのかどちらかだろう、あの儀式に連れてこられ生き残ったヤツらは。
「殺しますわ、口を封じるのに死体にする以上の口止めはありませんから」
さらっと当然のように、表情も変えず女は言った。
「なら、今、お前は殺して置く。朝食の礼だ、痛みも少しだけ我慢しろ」
殺気は無い、飯を終えたら首を刎ねる。この土地が[浄化]されるのと、この女が死体を積み上げるのと違いが無いからな。
(村のヤツらに『逃げろ!』と警告ぐらいはする必要はあるだろうが)
ウフッ「本当にあの方が言った通り反応、元々死ぬ筈だった人間を殺すだけと言いますのに・・冗談の通じない
殺す以上にメリットがある以上殺しませんわよ、本当に貴方を縛る枷として使えるなんて・・信じられませんわ」
少しだけ笑顔を作り、食事を続けながら呆れるような仕草を見せた。
「つまらない冗談を口にしただけで、死ぬ人間もいる。自分がそうじゃ無いとは思わない事だ」
貴族でも・女でも死ぬ時は死ぬし、殺される時は殺される。偉いヤツは自分が特別だと思っているから解らないんだろうな。
「治療院というのでしょうか、教会のしている慈善事業の一つにそんな物が有りましたよね?完全に壊れた方はそちらにお任せし、回復しそうな者は我が屋敷で雇います。当然見張りもかねてですが・・・逃げた場合は処理しますよ?危険ですもの」
「人間を人間とは思わないんだな」この女、部分だけみれば領主の父親より黒い。
?「わたくし、自分自身の為に父親ですら排除したのですよ?他を肉親より大事に扱うとでも?」
・・・・「そうか」
多分、オレは勘違いしていたのかも知れない。
(元凶はゴモリーじゃなく、この女だったのかもな)
全てが終わった後だから、どうでもいい話になるが。
ハァ・・まぁいいか、生きているなら自分達でなんとかする機会も、努力もするだろう。一生を助けて続けるなんてことは出来ない、正義の味方じゃないんだからな。
「御納得していただき光栄ですわ・・・聡明な貴方が女性でしたら、あいじ・・コホン!スポンサーになって差し上げますのに」
こっちは、金輪際係わりたく有りませんが。
それには・・
「早速交渉したいんだが・・このカネで[旅の翼]を売ってくれないか?ここから歩いて近くの町まで、ってのは遠いだろうし」オレの為だけに馬車を出してくれっていうのも、ないだろ?
貴族の家なら避難用とか緊急の用で使う為に、二~三個は常備しているはず。
「馬を出してもよかったのですが・・・お売りするまでも無くお渡ししますわ。その代わり・・後の彼女を同行させてはいただけませんか?町で色々と購入する物も有りますので」
勇者の後に戻った白いメイドが頭を下げた、
(買い出しか・・)
「オーケーだ、帰り分の[翼]は町で買うんだろ?護衛込みで全て引き受けた」
「よろしくお願いします」無表情のまま再度頭を下げる、この感情の無さは多分昨夜あの場所にいた一人だろうか・・
(同僚が死んだんだからな・・・それともあの惨状を作る為に訓練されているのか)
・・・最悪なのは、オレの口封じを命じられているって事も・・有るか・・・
何も知らない冒険者達は、あと2日この屋敷でご滞在、オレは知りすぎたから口封じってのはワリに合わないよな。
ようやく本物人格のお嬢様が出て来ました、彼女は悪魔の中からゴモリーさんを選ぶほど・・女性好きで・・そしてお金と贅沢が好きで。自分を姉と同じように政略結婚させようとしていた父親を排除しようと悪魔を呼びました・・そしてゴモリーさんは父親をの功名心・正義感を利用し、国王・他の貴族が無能だと吹き込み、悪魔を呼び出させる計画をたてます・・当然彼が倒れ殺される事も含めてです。一番悪いのは誰だと思いますか?