勇者は悪魔のストーカーに付きまとわれる。
と・・なると、敵はこっちか。ゴモリーの手を借りる事は・・しない方がいいだろうなぁ。
しっかし・・こっちの悪魔も相当強い、[見る]だけで解る、これで魔王じゃないとか、嘘だろ?
「勇者さま?取引なら応じますよ、アレを消滅させたら何を差し出して戴けます?・・なんて嘘ですよ。フフッ、少しだけ貴方に興味が湧きましたので、今夜限定で、少しくらいは力をお貸ししますよ?」
ゴモリーの協力があれば・・・、そう思った時に甘い誘い。こうやって人間は騙されるんだろ?
「おっと!勇者様?そのヒトは悪魔ですよ?悪魔の甘言に欺されてはいけません!
美しい悪魔は、天使のような甘く綺麗な声でヒトの子を欺すのですよ?」
黒い悪魔は慌てたように手をバタバタさせ、ゴモリーを指さしたりして、執拗に危険危険とアピールしてきた。
(どちらにしても、魔力の底が見えない化物だ。戦って勝てる相手じゃないのは解る、そして共倒れもしてくれそうにない感じだ・・・なら)
「勇さん、今どうなっているんですか?・・敵は・・」
「・・わからん、ピョートル。今はどっちも敵で・・どっちも無関係な・・感じだ」
そうですか。小さい返事にまだ緊張が残る。
でもやるべき事は決まっているしな、交渉が通じたらいいんだが・・
「そっちの悪魔も、返ってくれないか?オレはその後で邪神像を壊す。後は新しい領主でもなんでもやってくれ、邪神像以外はそっちの問題だ」
それともオレの読みがあたってゴモリーの狙いが、悪魔をこの地に呼び寄せて世界を混乱させようって話なら、妨害されるだろうが・・・・
「私は良いですよ。一応の目的は果されましたし。これ以上を求めれば、全て失う事まで考え無いといけなくなるのでしょう?」
ゴモリーは邪神像の廃棄を了承し、
「では、ここからはそちらの悪魔とのお話しですよね?
私は・・ファァ・・失礼しました。
明日からの事も有りますので、就寝させていただきます」そう言って帰って行った。
「さすがゴモリー様。魔法も使わずに賢知だけで全てを絡み取り、ご自分の目的を果されましたか。ふふ、後は若い者同士で。仲良く・っとは気を使わせてしまいましたね」
(なんだよ、若い者どうしって?)
・・・・「殺し合いにもならないだろうからな、そっちはどうなんだ?邪神の像を壊しても良いのか?」
それさえ壊しておけば、しばらくは悪魔を呼び出す事は出来ないはず。
「ええ、どうぞどうぞ。勇者様のやりたいように、そして私と契約を」
真っ直ぐに手を差し出し、黒い顔に目が浮かぶ。本気か?
「自分より弱い人間と契約しようとするのは何故だ?そっちにメリットはないだろ?」
世の中に善意は無い。自己満足か、他人が知らない内に利用しようとしているだけ。
特にコイツは悪魔だ、なにか魂胆があるはず、無いわけが無い。
「最初に言いました通り、貴方に興味があるからですよ。貴方が何をして、どうなるのか?
ただ魔物を駆逐する神の選んだ殺戮者になるか?
それとも世捨て人となり、人間世界を見捨て屍[しかばね]の山を見て見ぬ振りをして生きるか?この先をどう生きるのか?何を選択するのか?知りたい!知りたいのですよ!」
どこで息をしているのか、両腕を広げハァハァと息を荒げ、顔だけを見下ろしてくる。
「お前の趣味とか、興味の為って事か?それで魔王を倒す手伝いをする?馬鹿か?オレがそれを信じるとでも?」
お前の仲間の、悪魔も殺すかも知れないんだぞ?いきなり裏切るか・後からグサリッって事を考えているのか?
「信じる信じないでは無いのです!これは運命!Destiny!二人の出会いはノルンの紡ぎに織り込まれた定めなのですよ!」
ノルン・・?なんだ? 運命とかDestinyとか、ふざけてるのか?
・・「取りあえず、仲間は遠慮してもらいたい。地獄に帰る事が出来るなら帰ってくれないか?」
この悪魔のレベルは遥かに上、人間のオレが数値上同じレベルになったところで、勝てるとは思えないほどの魔力をもっている。ここは慎重に・丁重に帰ってもらうのが一番だ。
「嫌ですね?いやですよ?一目惚れだと言ったでしょう!帰れと言われても帰りませんよ?
地獄の神様の言葉に『汝の欲する所を行え』と私は勇者様が何を言おうと、例え拒否されても付いて行きますよ?付き纏[まと]い、貴方の視界に入り続けますよ!」
酷い神様もいたものだ、ならここは・・
「邪神像を壊して逃げますか?それもいいでしょう!ワタシは邪魔をしません。
しかしそれはどう?なのでしょうか!私は貴方を見初めた、貴方に会う為にアチラからあらゆるアプローチを試みますよ?他の邪神像を見つけさせ、新たに地獄を作らせ、私は必ず帰って来る!
勇者様がいる限り!ヤール・ヤーは必ず復活して・・あなたの前に立つでしょう!」
両腕を開き、どこかの魔王が言いそうなセリフを吐く。なんてヤツだ!
・・・そうすれば、またここと同じ惨状が生まれるのだろう。
「さらに!私を嫌い、仲間にしないと言うのであるならば!私は貴方の敵となり、人間を使って追い掛け、私を見つけて貰う為に戦争を起こし、何度も・何度も!貴方の邪魔をするでしょう!
そして殺されるのです!貴方に!」
本物の魔王じゃないか!倒すしかないのか・・倒せるのか?
「そうしたら・・倒す事さえ出来たなら、お前は消えるのか」
「・・今は無理でしょう?私の全力を貴方は受け止め切れない、悲しい事ですが、10度戦えば10度・100度戦えば100度、私が勝ってしまう
・・?私は勇者様を殺さず、手足をもいで抱き枕に?毎夜私に恨み事を聞かせてくれる?・・イエ・イエ、ソレは・・それは駄目です。私は貴方の瞳に愛を感じたのです!曇った貴方の目は見たく無い」抉ってしまうでしょう。
だが、この悪魔は、戦えば気分次第ではオレを玩具に変えるだろう。
(選択指が無い)
・・・・
「その素敵な目で見つめないで下さい!ああ、きゅんきゅんします!そうですね・・?ならお試し期間として、一つ貴方にプレゼントフォーユーです!」
悪魔が手をパンッと合わせて、勇者の周囲に何かの力が加わる。
「なにを・・した」呪いか?これ以上の呪いはお断りなんだが。
「認識阻害ですよ、勇者様は顔を隠したい様子なので。これで顔を隠さずにどこへでもいけますよ。
うふっ!私は月が満月から半月になる間はここにいます。もし私と契約を結んでいただけるなら、こちらへ・・ああ、お待ちしております・・」
もし遅れたら、この悪魔は地獄を作らせこちらの世界に舞い戻るだろう。
(その時までに力を付ける・・か、それとも腹をくくって・・)
それにその[認識阻害]も、今のオレの力では解除も出来ないのだろう。
「・・・わかった、考える時間をくれるというなら、貰っておく。正し、これ以上ここで死体を作るのは止めてくれ・・生きる為に必要だとしても・・」
「ええ、私、悪魔なので少し位の間は食事は必要ないのですよ?勇者様と契約したなら、その時に倒した生物のMUGを少し戴く程度で」
MUGは生命エネルギーとか魔力エネルギーとか精神エネルギーとからしい、生きて動く物・魔力で動く物なら全てに含まれ、悪魔はこの世界で存在する為にMUGを摂取するだけで生きていけるとか。
「・・なら、取りあえずは邪神像を壊すぞ、・・いいな?」
警戒は解かず、ピョートルに背中を預けじりじりと祭壇に近づく。
(よし、本当に手出しはしないようだな)
鎖を邪神像にまき付けて引き倒す。陶器と粘土の中間のような堅さの像は、ぐにゃりと形を変え、体にヒビを作った。
・・・なぜか放置して置いたらヒビが消えて形が元に戻る、そんな感じの像だ。
像の腕を折り足を砕き頭を床に叩きつけ、胴体を捻り切る。
・・いくら壊しても破片がくっ付き元に戻る、そんな邪悪な気配のする土クズ達。
(・・胴体の一部と頭の半分・・は別に捨てるか・・)
多分胴体の部分土と、頭の部分を道具袋に入れ、その他の土塊は蹴飛ばして床にバラ撒く。・・廃棄はこれで一応完了でいいか?
「こっちの用は済んだ、オレが戻らない場合は・・」
「ハイ!また別の場所でお会いしましょう!その時は是非[きちんと]お相手願いますね!」
何故かくるくる回っていた悪魔は、背中を向けたまま首をコキンッと折るように顔を向け丁寧にお辞儀する。
(地獄に帰ったままって来ないって事は・・・無いって事か)凄い嫌だ。
勇者の苦難はまだ続く、ですがとりあえず邪神像編は一応まとまりました。後はエピローグを残すのみ。