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心が壊れた人形の勇者さま。

「おや?そちらの男は解らないのですか?・・ワタシもそう言えばお名前を、お聞きしていませんでしたが?ミス?ミセス?」


「ミセスなんて、そんな。この私の体はまだ未婚ですわ、フフ。

『お父様?、始めまして、地獄で小さな領主をしております[ゴモリー]と申します悪魔ですわ』あちらでは少しはしられた存在なのですけれど」


 女は領主の体を座らせると優雅に一礼し、美しく微笑む。そして直ぐに興味を失なったように、虫を見るような冷たい顔に変え見下ろしていた。


「まさか、このような場所で貴女のよう高貴な魔神様と出会えるとは!ソロモン2柱の内の一人、駱駝に乗る貴婦人!ゴモリー様!」

 悪魔が歓喜の声を上げ、くるくると回って喜びを示していた。


「あら?こちらこそ・・流星の魔女とお会いできようとは・・ペルシアの魔神様は随分手がお広いことで・・」

 ゴモリーは氷ついたような父親の顔から眼を放し、悪魔の方に微笑んだ。


「?!・・どこまでご存じなのですか?愛の魔神さま・・」


「過去・現在・未来の全てを語る者なのですから、3000年前の事なども当然嗜み[たしなみ」ますわ、そしてあなたは、名を隠す事で・・」


「それ以上は、言わない方がいいね。ご婦人さま」

 一瞬雷鳴、火花が二人の間を飛ぶ。


「魔女?私はまだ未婚だと、そう言っていますのに」

 ビキッ!

 二つの魔力が空間を歪ませ、ゴモリーの周囲が悲鳴を上げた。


「?なぜ??何故だ?お前は、私の娘のはず!それに何故魔女だと?魔王を倒せる悪魔を呼び出すはずではないのか?ナゼ?何故なのだ?」

 娘だと思っていた眼前の存在は、夕闇の中に立つ影法師のように黒い人型に変わっていた。

そしてもう一体の悪魔はふざけた表情を消し去り、無貌のなにかに変わっている。


(なぜこうなった、どうしてこうなってしまったのだ?)


「五月蠅い」悪魔が指をスナップすると音が消えた。

[破壊]・爆破系上位魔法。爆破・爆裂を超える物質破壊魔法、その上には魔神が使うと言われた全てを破壊するという失われた魔法[破滅]だけ。


 領主だった男の混乱と恐怖は一瞬で消えた、赤く染まったのだ。世界が。


「アララ、お可哀想に。これでは繋ぎ直す事も難しくなってしまって、肉人形にも出来ではありませんか」

 ゴモリーと名乗る魔神は、服に一切の汚れを付けず。粉々に吹き飛び床に散らばった元父親に最後の言葉を贈った。


「申しわけございませんお嬢様、虫が不快な音を立てたのでつい」


「いいのよ?私も不快だったもの。過程はそれなりに楽しめたのだけど・・コレでは美しさに欠けますし・・酷い臭い。こちらは地獄ではないのですから、もっと優雅で気品がないといけませんよね?」


 自分の父親を唆[そそのか]して創り出した地獄を呆れながら見下ろし、同意を求めるように微笑んで見せた。


「それで・・コレは宣戦布告と考えて、よいのかしら?だとしたら随分と小さい開戦の花火ですこと」


「なぁ~~にお嬢様?、これはただのご挨拶ですよ、この程度の音でも集まる人間はいるのでしょう?例えば勇者様のお仲間などね。

 さあ起きて下さいよ勇者様、悪の親玉が正体を現わしたのです。ここは私と協力して倒すところでございましょう?」


 地下を揺らす[破壊]の衝撃と爆音は屋敷まで響いている。いずれは人間達がやってきてこの地獄を見るだろう、そうすれば失う物が多いのは喚ばれた悪魔では無く、屋敷を持つ領主とその一族。


 そして勇者が立ち上がれば、たとえ地獄の貴婦人といえど、こちらでの居場所を奪うくらいはたやすいはず、そう読んだのだ。


「・・フフフッ、地獄の住人には解りませんよね?人間は傷付きやすくて弱い者、現実を見せつけられ、追い詰められた人間はそう簡単に立上がれないのです・・ね勇者様?」


 頭を抱え、振るえてしゃがむ勇者に優しく、そして慈しむように声をかけた。

その顔は死にかけた動物を興味深く観察するようであり、優しさなどは無い。


「なるほど?こちらの人間に随分お詳しい、ですがその方は無理でもお仲間ならば」


「ジョンさん!・・なんですかこれは!」「ピッ!」

 音と気配、勇者が倉庫の扉を開け放っていた階段からスライム乗った小さな騎士が飛び出した。


「・・あ~~失礼?そちらはどちら様でございましょうか?」

「フフッ、その方が勇者様のお仲間ですの。人間が来ると期待していたのでしたら残念ですが、彼等の足止めも女達の仕事ですから」


「・・・・・・・・」

 スライムの騎士が跳ねるように動き、勇者を見つけて近づいてくる。

その様子を見ていた悪魔は明らかに(失敗した)という感じを出しガッカリしていた。


「?どなたかは知りませんが、この状況の説明をして戴けますか?なぜこの人、ゆ・・ジョンさんがこんなに苦しんで」

 [解毒][麻痺回復]二つの状態回復魔法をかけても、うずくまったまま勇者に[解毒]かけ直しながら、話かけてきた見知らぬ黒い人型を見た。


「・・質問を質問で返すのは・・って言ってる場合じゃないですな?魔物どの?

簡潔に言うと、あのお嬢様が黒幕で勇者様がそうなった。ですな?」


・・「勇者・・なるほど・・」

 少しだけ驚いたピョートルは、うずくまった勇者の顔を覗き込む。

「勇さん?大丈夫ですか?吐き気はありませんか?・・逃げますよ?立てますか?」


「・・」

「勇さん!立って下さい!こんな所にいては駄目です!逃げますよ!」

 ピョートルは声も発しない勇者の肩を抱え、無理矢理立たせて引っ張った。


「・・や・・だ」

「?え?なんです?自分で立って下さい!逃げるんですよ!」


「魔物さん、ジョン・・その勇者はもうお終いですよ?壊れて終いましたから。

勇者は何度でも立上がる、でもね?[心が壊れたお人形さんの勇者さま]は、もう立上がりません。だって中身はもうボロボロなのですから」

 壊れた人形を引き摺る子供を見るような目で、ゴモリーは語りかけた。


「勇さん!起きて下さい!こんな所で寝ていたら駄目です!何か有ったら来いと言ったのは貴方でしょう!」

 ピョートルはうなだれる勇者の肩を抱え、何度も引っ張っる。


「嫌だ・・オレはもう・・戦いたくない、なにも見たくない・・勇者なんてしたくない・・お前も、もういい。おれを置いて野性に返れ」


「それは作戦ですか?何か考えがあって言ってるのですか?・・答えて下さい。答えなさい勇さん!」


「ウルセェよ!作戦もクソも無ぇよ!もう終りなんだよ!おれは勇者で!魔王を殺す為に選ばれて!逃回って!自分より弱い魔物だけ殺して・しばいて!脅して!強い魔物が相手ならビビって逃げて!・・お前といてもそうさ、恐くて恐くて足をガクガクさせながら必死で武器振り回してただけなんだ!・・・

 

 勇者なんかじゃないんだよ!おれは!・・ただの臆病者だ・・臆病な・ただの人間なんだよ・・おれは」

 自分より弱い魔物や人間相手に強いフリをして、脅したり倒したりして格好付けてた卑怯者、それがオレの本当の姿なんだよ。


「へっ・・ガッカリしただろ?お前を脅して従わせていた人間の姿がこれだ」

 その埋め合わせに格好付けようとして前にでても、頼れるヤツを演じても・・結局は何も変わらない。だからオレを置いて逃げろよ、野性に返ればこいつらの興味も無くなるはずだから。


「・・それだけ元気があるなら立って下さい、そしていつも通り指示をして下さい。私が前で盾を構えて、勇さんが敵の不意を付く。そうですね?」

 ピョートルは盾を構え、二つの魔物に向かい立った。



スライムの騎士がかっこいい、そんな話が続きます。

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