会話が出来ないなら・・殺し合うしか、無いではないでしょう?そう悪魔は言う。
「教会のヤツらは言う。神の示した勇者が、いずれ魔王を倒す。それまで人類は一つとなって彼を支え、自分の身を・家族を・城を国を守るのだと。
だがそんな物は欺瞞[ぎまん]だ!、教会は勇者も魔物も魔王すらも!カネを集める為に利用し!民衆を恐怖で煽り[あおり]カネを集める!
カネを集めるだけの集金組織だ!ただ権力を示したいだけの、口だけの!醜悪な詐欺師どもだ!」
・・・「それと、この地獄とどう関係するんだ。教会が悪だから?自分は正義なのか?領民を守る事と正反対の地獄を付くって、それで正義を名乗るのか?」
救うべき人間を火にくべて、教会のヤツ等は悪だと言う。それで領主がなぜ正義を名乗る?
【なんだ・・なんなんだ?それは】
「これはただの準備だ。魔王を倒す為の力、魔王すら超える地獄の悪魔を呼び出し、私に仕えさせ、魔王を滅ぼす。ついでに世界中の魔物も滅ぼし、世界を平和にするその為に、地獄とこの地を繋ぎ、贄を積み上げ、儀式を行っているのだ!」
(悪魔を呼び出し、世界を救う?何をいっているんだ?本気なのか)
「なにを驚いている?お前も魔物を使って戦っているではないか?それと同じことだ」
・・・そう・・なのか・・オレとコイツが同じ?
「本来ならあと3日、その祭壇に月が満ちる時、邪神像と地獄いるはずの邪神様が共鳴し、完全に地獄と世界を繋げ、悪魔を召喚するのだが・・」
地獄の悪魔を仕えさせるだと?そんなモノで魔王を倒す・・倒せるのか?
それに、それが世界を平和に?できるのか・・そんな事が。
「魔王を滅ぼせるなら、それが悪魔でも神でも人間でも同じだ。最終的には世界は救われるのだからな。これが正義で無くて、何を正義と・・大義と言うのだ!
力ある者が弱者を救えば[正義]と言い、弱者を虐げれば[悪]と言う。なら地獄の力でも天上の力でも、神でも悪魔でも!同じこと。
そして悪魔の力を利用し、世界を救える力を私が行使するのだ、これを正義以外になんと言う!
・・見ろ、もう少しで月が祭壇にかかる、今日こそは・・今度こそは、地獄が開く、魔王を滅ぼす悪魔が現れる!」
キィィィィィーー・・
高音の金斬り音が空気を振動させ、鼓膜の内側・骨までもが悲鳴を上げるよう体を揺さぶり、振動は脳を共振させ、目の内側が沸騰するように熱い。
その場にいる全ての人間・全ての生物が目から赤い血の涙を流し、領主が極まり狂ったように声を上げた。
・・・・・・
『私を呼んだのはどなたですか?』
黒く近代的な服と、真っ直ぐにアイロンをかけてあるようなズボン。頭にシルクハットをかぶり、どこかの紳士思わせるような男が立っていた。
「・・・お・お前が、悪魔か?」悪魔を喚んだ領主すら驚くほど、[恐ろしく見えない]姿と声。
音も無く・煙も無く、ふとした瞬間にいつの間にか悪魔はそこに現れ、立っていた。
「ハイ、私は貴方達が言う悪魔ですよ?魔界に門を繋いだのはそちらの方では?」
現れた悪魔はさも当然のように答え、周囲を見渡したあと勇者の方に目を向けた。
「・・そこの貴方、名前を教えて戴けませんか?」
黒いマスクに包まれたように顔は見えない、それでも口元や表情は何となく嬉しそうに[見える]・・[感じた]と思うべきだろうか。
「お前を呼んだのは私だ、その男では無い!ルベリア=コーツ、この国の子爵である私がお前を呼んだのだ!さぁ!私に名を名乗れ、そして私と契約せよ!私に従え!」
コーツは手に持った書物を広げ、ページをめくり何かを唱え始めた。
(アレが、契約の呪文か?)悪魔に制約を与えて縛り、操る魔法だろうか?
「・・うるさいですね、少し黙ってなさい」
悪魔は指を横に振るだけでコーツと両端の弓兵の体が地面に押し付けられた。
「うぐっっっ!!なんだ、この力は・・体が・・重い!」
(重力魔法?それも無詠唱の?それともなにか別の力か?)
「さぁ外野を静かにしたので、話をしましょう。ま・ず・わ・・お互いの自己紹介から始めましょう、私の名はヤール・ヤー。私の盟主などは『ヤーさん』と喚びますね貴方も気楽に、ヤーさんと呼んでいただいて大丈夫ですよ?
・・・それで、そちらのお名前は?」
大げさな身振りと陽気な話方で悪魔が名乗る、
(悪魔が本当の名を名乗る事は無いだろうが・・何なんだ?・・)
「・・そ・ち・ら・のお名前を、お聞きしているので・す・が?・・言葉が通じていない?私の言語が間違っているのでしょうか?・・言葉が理解出来ないほど、愚かには見えませんが・・耳が聞こえていない?・・イエイエ、先程貴方達の話は聞こえていましたよ?・・なら口がきけないのでも無いですし・・私と話しをしたくない・・と言う事でしょうか?・・それは・・ソレは、とても悲しい」
悪魔が何かを考えている様子を見せた時、1本の矢が飛んだ。
そしてその矢は悪魔の体を貫く事は無く、空中で停止して落ちた。
爆発、悪魔は弓を引いた者を見ていない、飛ぶ矢すら見ていない。それなのに壁にいた白い姿は赤く染まり、壁に赤い大輪の花を咲かせる。
「やめ・・・・他のヤツも打つな、動くんじゃ無い!頭を下げてジッとしていろ!」
だめだ、この悪魔は歩くだけで意識もせずに人を殺せる本物の化物だ!
「なにが悲しいと?・・ふふ、会話が出来ないなら・・殺し合うしか、無いではないでしょうか?」
オレの叫びは聞こえていないように、透明で黒い感情が触手を伸ばす。
重圧、悪魔の目がオレに集中した時、足が腕が恐怖に抵抗し、身動きすら出来ない程に筋肉が強張りオレの意思を聞こうとしない。(動け・・ない)
殺し合いにもならない、一方的に殺される。[死]そいつが形を持ってこっちを見ている・・
カハッ!、悪魔が目をウインクした様に瞬きするだけで重圧が消え、息が出来る。
「会話が出来ないのは苦しく、悲しいことですよね?」
ハァハァハァ・・「ああ・・・そうだな」
目で見るだけで、人の息を止める悪魔がよく言ってくれる、化物が!
「それで・・貴方のお名前は?」
「・・ジョン・・」悪魔に名前を知られて良いことなんて何も無い、とっさに使っていた偽名を名乗った。
?・・「お・な・ま・え・は?」
偽名を見破るように、黒いマスクの両目が開き、オレを捕らえた。
「・・勇だ、それ以上は名乗るつもりは・・ない」
「勇さん!それは・・なんと?・・まあ、素敵だ!素晴らしいお前です!お教え戴きありがとうございます!」
見た目だけは、本当に嬉しそうに、何がうれしいのか両手を挙げてくるくる回り、
背中を向いたまま、首だけがオレの方に向けた。
「さあ新しい友達、友人・私と契約して魔法少年になって下さい、よ」
なにかおかしな事を言い出した。
「だれが友人だ、魔法少年?・・魔法剣士の事か?」
魔法を使う剣士。魔法職を経験した戦士が、魔法も武器も使う事が出来るらしいが
・・大体のヤツは、魔法の素質が無かったからあきらめたとかで、たいした魔法も使えない上に、戦士としても鍛え方の足らない中途半端な実力しか無いと聞く。
「イエ?そうでは有りませんよ?魔法少年とは・・そうですね、こうピンク・・桃色のヒラヒラをまとい、お洒落なステッキでキラキラの魔法を使うのです!」
悪魔は手の平の上に桃色の・・子供が好きそうな少女の人形を映し出し、
少女の人形が白い・・杖?・・・ハート型を伸ばしたような・・羽根?の付いた[ステッキ]を振り、星形の光りを飛ばしていた。
・・いやホント、なにを言っているんだ?こいつは?
少し後で悪魔の正体のヒントがありますが、ほとんどオリジナルの悪魔参上。




