酒酔いに毒消し。
屋敷に入って体調を崩した僧侶の男は別室で休み、女戦士は旅の汗を流しているらしい。
「それで、コレが・・」
テーブルの上に置かれた袋に手を置き、慎重に形をさぐる。
「お父様、かなり危険な物なのでお気を付け下さい」
「それでは・・確認はどうすればいい?娘を信じない訳ではないが、こちらも報酬を払う方とすれば、物を確認出来ないであれば・・今すぐに報酬を出すわけには・・
勿論お前の警護を務めた人間には支払いは終えている。お前が遺跡から書いた手紙が届いたからな」
組合か、それとも支払い先が決まっていたのか。目的の場所まで警護する人間を運べば、金を支払うようになっていたのだろう。
(・・依頼人の娘が遺跡に到達すれば良し、到達しなくても罰則は無しか・・冒険者からすれば美味しい仕事だな・・)
兵隊から適当に時間を稼ぎ、邪魔するだけで命を賭ける事は無い。後は逃げてしまえばカネが手に入るのだからな。
もちろん、その確立を上げる為には多くの時間を稼ぐ必要はあるが、雇われた全員がギリギリまで時間を稼げば、ほぼ間違い無く支払いがされる。
(相手の兵隊からすれば、厄介過ぎるだろうが)
・・・?(多くの変則的な手段や、生き残る事に長けた冒険者を使ったのはその為か?だとすれば・・)そこまで、冒険者の性質まで読んだ上で選んだ選択肢なら、この男・・体格だけじゃない、頭も相当切れる。
「?なにかね?私の顔になにか付いているのかね?」
「イエ、少し・・見知に驚いただけです」
「お父様・・・・」目の前で耳打ちする女と、驚いた顔でなにかを返す男の目が開きオレの顔を凝視する。
「なんでしょうか?オレの顔になにか付いていますか?」
フッ「先程のお返しか、なるほど君は面白いな・・・ではこうしよう、君達には・・後3日この館で待機してもらう。無論滞在費用や食事はこちらで用意しよう、贅を尽くした、とは言わないが満足して貰えるよう厨房には伝えて置く。その後で報酬を支払うことにしよう」どうかね?
もちろん、3日後に館に来て戴いても構わないよ、と。
「オレ達は厄介になります!5人ですが、いいですか!」
リーダーの男が飛びつき、「もちろんだ」と領主が笑う。
・・・(さぐるなら滞在すべきだろう、でもなぁ・・)
毒・罠・諜報・それに館以外の人間の様子を外からさぐる事が出来なくなるし・・どうしようか。
「・・オレは今日だけお世話になります、それでいいですか?」
「フッ、私としては、キミには残って欲しいと考えていたのだが。私はどうやらキミに疑われているようだね。もちろんいいぞ、では今日は、娘の恩人の為に腕を振るってもらう事にするよ」
「ありがとう、ございます」
そう答えると顔色も変えず[疑っているだろ?]と言った上でオレに対して笑う、
(権力者の笑顔は牽制だよなぁ)
[さぐるな]、そう言っているのだろう。
(でもな、冒険者を使って邪神像を手に入れるようなヤツだ、絶対にヤバイ事に足を突っ込んでいるだろ?)オレはソレを潰しに来たんだ。
だから、マスクで隠した口元も含めて笑顔で返してやった。
牽制勝負は互角、そう思っていた。
夜に出された料理は山盛りの肉と、鮮度の高い野菜。骨で出汁を取り、丁寧に灰汁をとったスープ。上質の小麦をつかったパンと蜂蜜に漬かった赤い果実。
「酒も、久し振りに良い樽を開けた、存分に楽しんでくれ」
透明なグラスに注がれる赤紫の液体、最初の一口で鼻に抜ける果実の香りと苦み。
「すげぇ、こんなご馳走ひさしぶりだ!」
「へぇ、オレは始めてだよ!リーダーはどこでこんなご馳走を喰ったんだよ。羨ましい!」
「では、主に感謝をしまして」
「オレは肉を喰うぞ!血を足す必要もあるからな!」
うっひょう、奇声と歓喜と舌鼓、冒険者はそれぞれ思い思いに皿に向かい、肉が消えて行く。
女の冒険者も黙々と皿の肉を刻み、口に入れては頬に手をやる。
彼女は量より味といった所だろうか。
「さぁどうぞ」女が手を差し出すと隣の白いメイドが酒を注ぐ。
別に偏見は無い、そう言ってしまった以上、注がれた酒は飲まないわけにはいかない。
「っ、そうだ、pーはどうしてる。スライムにも餌を与えないと」
酔いが回る前に席を立つ、基本的に疲れているオレの体に酒はマズイ、回りすぎる。
「大丈夫ですわ、pーさんに聞いて、お野菜を沢山用意しましたから。pーさんにはこの場のお肉とパン同じ物を用意しましたから。」
ッ(・・多分本当だ、こっちが席を立つ理由を・・消して・・先回りして消しに来ている・・クソ、頭が・・上手く回らない)
メイドの持つピッチにはまだ酒が満ちている、座れば器に注がれるだろう。それに隣の男にも同じ酒が注がれているから、毒は無いと思うのだが・・
「お酒は苦手なのですか・・では、水をご用意させますので」
「いや・・いい、それより注ぐ回数を減らしてくれ、器を常に満たす必要は無い」
少し飲めば少し注ぐ、これでは休むヒマが無いからな。
(それに・・本能的な何かが、この場に無い物・全員が口にしない物は危険と言っている)
ふぅ・・腹は満足を伝え、頭は酔いの感覚で思考がぶれる。
冒険者達が鎧を脱いでいる以上、オレも鎧を脱ぐ必要があった。
彼等は腰に武器を差しているが、オレの持つ武器は鉄の杖だ、トゲトゲして腰に差せないから今は銅の剣を差している。
(胴周りに鎖鎌を入れているが・・)素早く抜けないから突発的に襲われたら逃げるしかない。
「・・では、お客様。肩を支えますので」
白いメイドがオレの腕を肩に乗せ、女の手の平が腹の鎖に中たる。(・・・気づかれたか?)
・・・「お客様・・」毒消しはお持ちですか。
用意された部屋の扉を開く瞬間、メイドが小さく言った気がする。
「ああ・・ああ、ありがとう、チップを渡すべきか?」
「御領主さまに叱られますので・・」
・・部屋の入り口に立ち止まるメイドは静かな目でベットに倒れたオレを見ている。
「U・・ジョンさん、大丈夫ですか!死んでませんか?」
「食い過ぎぐらいで死ぬか・・」ゴソゴソとベットの枕の下に銀貨を入れる、多分見ているだろ?後でとってくれ。
「ああ、もう大丈夫だ。肩を貸してくれてありがとう、pー扉を」
ピョコピョコとスライムが跳ね、扉に近づくと白いメイドは一礼して部屋を出る。
(・・下の世話までするメイドかよ・・)
客が望めば、部屋の扉を[内側]から閉めるのだろう。それがこの家のしきたりと言うなら知らないが。
・・毒消しか・・