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危険な匂いのする洋館へ、ようこそ。

 巨大な獣の口に放り込まれたような生温かい空気、深い森に閉ざされた先に立つ古い洋館だった。

 見た目は、歴史有る貴族の館に見えるソレは広い敷地の正面に建ち、土地にあるなにかを隠しているように思えた。


「そう驚かないで下さい、家族の趣味で中庭に貴重な植物を植えていますので、こういった作りになっていますの」

 あとでご案内いたしますわ、そう優しさすら感じる笑顔を浮かべてお嬢様は、家の者が馬車の扉が開くのを待っていた。


 馬車に座る御者が、ベルを鳴らす。

カンカン!カンカン!音が響き、館の扉が重く開いていく。


「おかえりなさいませ、お嬢様」色の白いメイド姿の女が数人と、腹のでた中年の執事。

彼等の後から現れたのは白髪の痩せた執事が一人。


「よくぞご無事で!お嬢様、おかえりなさいませ」


 白髪の執事が馬車の扉を開けてお嬢様の手を取り、馬車から降りるのを手伝う。そして白いメイド達は、冒険者達の馬や荷物を屋敷に運んで行った。


「では、馬車のお荷物は私が」中年の男が馬車に積まれた荷を解き、荷物を運び始めた。


(さっき、あの執事・・こっちを見たよな?)

 それに魔物のピョートル達を見ても驚かないメイド達、オレの中にある、危険を知らす寒気がザワザワと体を這い回って止らない。うぅぅ・・帰りたい。


「・・貴方も彼女達を不気味に思いますの?彼女達はこの土地に古くから有る風土病の被害者なのです、お陰で呪いなどと言う無責任な方も多くて・・」


 本来の依頼者、つまり女の父親がいる部屋に向かう途中、急に女が聞いて来た。


(不気味なのは、この雰囲気とお前らだ)とは言わず、

「別に、美人だとは思うよ・・魔物を恐れないのはなんでだ、とは思ったが」


「!?・・まぁ!ウフフ、肌の色が白い女性がお好みで?」


「・・そう・・思うか?・・」

 肌の色・髪の色・目の色、そんな物が美人の基準じゃない。それに、顔だけ、姿だけ作っただけの美人は、正直、話をする時に恐い。(貴女のような、お嬢様のとかな)


(容姿を全く気にしてない風に自分を語るが、他人の容姿とか・自分の今の姿とか、物凄く気にしてるから、話をするのが面倒なんだよな)


「おれは、お嬢様くらいの白い肌の女性はとてもいいと思いますよ!」

 リーダーの男が女の隣を歩き、直ぐさま答え、

「あら、ありがとうございます」と軽く流されていた。


(・・たしか・・この男、仲間の女が好きだったんじゃないのか?)

オレの隣では狩人の男がニヤニヤ笑い、後で戦士の男があきれるように息を吐く。


「伝染病や神の神罰などと、口さがない方が多く迫害されて生きて来た彼女達ですもの、魔物を恐れるより、外の人間ほうが恐ろしいはずですわ」


 さらわれたら、珍しい奴隷として売り飛ばされ、男は剥製に・女は玩具にされた後で剥製にされる。そんな彼等を保護し、守っていると言う。


「奴隷なんか最悪でしょう、汚いわ臭いわ、それに態度も悪いし。売るヤツもクズだし買うヤツもクズだ。おりゃぁ一生係わりたく有りませんね!」でしょう?

「そうですわね」簡単な返事と表情の無い笑い顔で聞き流している。


「人が聞けば、哀れむか同情するか、同じ人としては見られませんもの。・・貴方はどう思いますか?可哀想?それとも好奇?それとも剥製や愛人として欲しいですか?」

 チラリと後に立つ・・多分オレに向かって聞いているのだろう。


「・・さぁな、でもオレなら・・ナイフの使い方くらいは教えるさ、自分の身は自分で守れるようにな」

 同情?世の中が理不尽なのは知っている、神ってヤツが人の不幸を喜ぶゲス野郎ってのも。人間が出来るのは、あきらめるか戦うかそれだけだ。

 戦いたくても、手段を知らないなら戦え無いだろ?


!?「・・フフッ、貴方が教えたナイフの技術で人が死ぬとしても?」

「人はいずれ死ぬ。故意・事故に問わず、武器を持ったら、その武器で人が死ぬ。おれが教えるのは[自分が]殺されない為の技術だ、他人は知らん」


 自分より他人の命が大事なら武器は持つな、そんなヤツがいるとは思えないが。


「では、その武器が通じ無い相手ならどうします?例えば・・凶悪な山賊とか」


「オレならお嬢さんを守って見せますよ!どんな敵がかかってこようと!」

「ウフフ、ありがとうございます・・貴方はどうですか?」

 

笑顔は変わらないが、完全にリーダーの言葉を聞いていない感じがする。

そしてオレの隣の狩人は、笑いを隠せないように口元を押さえて我慢している。

(仲が良いんだなぁ・・)


「おれは、武器を持って戦う事しか知らん、武器が通じ無いなら逃げるだろ。逃げられ無いような相手なら・・そもそも近づかない。敵が近づいて来たら逃げろ、逃げ遅れたヤツは動物世界でも喰われて死ぬ。それだけだろ」


 例えば神とか魔王とか王とか、オレは勝てないのが解っている。

 だから逃げて逃げて・逃げ延びてやる。それこそ死ぬまでな。


 ふわっ。廊下の先を行く女が振り返り、オレの顔を不意に触った。

「私などが相手でも・・・貴方は逃げられ無いというのに?」

 両手の平が、冷たくオレのマスクの上に触れ、その眼光がオレの目を射貫く。


「おい!」半歩退いてそのから逃れる。(クソッ、コイツ・・)

「冗談ですわ、ほんの冗談」次ぎは、上手く逃げられるとよろしいですわね。

 不意に微笑み、くるっと前を向くとそのまま歩いて行く。なんなんだよ。


 そしてリーダーの男がオレを睨んでくる、今のはオレが悪いのか?


 

 「失礼したします」ノックのあとで白髪の執事が扉を開く、広い執務室のような場所の正面に黒い机、そしてその前に腰をかける為のソファーと丈夫に作られた低いテーブル。


 壁には男の肖像画だろうか、黒い大男が睨んでいる。

「ただいま帰りました、お父様」女が深く頭を下げると続けて冒険者達も頭を下げる。


 奥の机に座る男が顔を上げ、続いて女の持つ袋に目をやった。

「・・それが・・そうか、ご苦労だったな。・・そっちのキミは・・誰だ?」


「遺跡までの道中で雇いました、[魔物使い]ジョン様です。お供の方は別室で待機して戴いてますが、とても知的で強い魔物ですの。それに私の命の恩人でもありますの」


 顔を隠す、うさん臭い男の方を見て立ち上がり、お父様と呼ばれた男がオレの前まで来て手を差し出した。

「娘の命の恩人でしたか・・失礼な態度を取ってしまって申しわけ無かった。」


 オレの手を握る男の手は、熱く分厚い固い。執務だけをしてきた男の手では無い、それに書かれていた肖像画と比べても、実物はもっと大きく見えた。


(何もんだ?この男は・・)ただの貴族ではない、そう感じられる骨格と体躯の男だった。


「問題無い、ただの成り行きで助けただけだ。恩と思うなら報酬に色を付けてくれるだけでいい」


「そうか・・キミのその顔は見ないでおこうか、人に触れて欲しくない事情はあるものだからな。私は結果を出す人間であれば、信用する。結果は嘘を付かないからな」

顔は必要無い、そう言って手を放し、こんどはリーダーの男と握手を交す。


「ありがとうございます」、そうして席に案内され、正面に男、その隣に娘が座り、オレは男の正面に、そして女の正面にリーダーが座る。なんでだよ!


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